言い訳と大家ハラスメント

四葉みつ

言い訳と大家ハラスメント

 朝一番、事務所内に澄んだ声が響いた。

日向寺ひゅうがじさん、今日こそお願いしますからね!」

 私、日向寺たつきも彼女の勢いには流石にたじろいでしまう。

 目の前にいるこのうら若き女性は、私の事務所が入ったビルのオーナーだ。20歳そこそこの彼女は、亡き祖父母からこの建物の管理を任されている。

 そんな彼女が日参してくるのは、私が家賃を滞納しているからではない。

「今日こそ、私を弟子にしてください!」

 目をキラキラと輝かせて、福馬ふくまビルの管理人、福馬千景ちかげは私を見上げてきた。

 私は毎度のごとくため息をつく。

「確かに仕事は犬探しがメインで危なくないが、そうじゃない場合もある。オーナーを危険な目に遭わせるわけにはいかんだろう」

「まーたその言い訳ですか」

「言い訳じゃなくて説明をだな」

「言い訳がましい男はモテないですよ」

 千景はやれやれとため息をつくと演説を始めた。

「私はね、日向寺さん。不労所得でゴロゴロしてるのが耐えきれないんです。でもビルの管理もしなきゃいけない。そ・こ・で! このビルに入っているこの事務所ですよ」

「はあ」

「表の顔はただの管理人、でも実は名探偵の助手なんてかっこいいじゃないですか、私が」

「……よく分からねえな」

 今度はこちらが「やれやれ」とため息をつく。

「そもそも仕事したいなら1階の喫茶店でもいいだろ」

「駄目ですよ。お店の忙しい時間帯に消防点検の電話とか入ってきたらどうするんですか」

「まるで俺の事務所だとビル管理の電話にも楽に出られそうな言い草だな」

「えへへ」

 えへへじゃない。

「それに、日向寺さんのお手伝いをすることはじーちゃんの遺言だから……。だから日向寺さんはもう観念して私を弟子にしてください。じゃないと強制退去です。いいですね」

「とんだ大家ハラスメントだな……」

 そろそろ年貢の納め時らしい。

 こうして小さい探偵事務所ながらも、私にも助手が出来てしまったのだった。

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言い訳と大家ハラスメント 四葉みつ @mitsu_32

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