百華繚乱!!番外編

有宮旭

学年末狂騒曲第一章

「ねぇ百華ももか、お願い…勉強、教えてよぉ…」

いつにも増して情けない顔のあおい。それに私はため息一つで答える。

「はぁ…なに、どうしたの急にそんなこと言いだして。まさか赤点取って留年するわけでもあるまいし。」

「うぐっ…」

「うぐっ…?」

「赤点、あるの…学年末テストで、赤点、取っちゃったの…留年、しちゃうかも…」

「はぁっ!?赤点っ!?留年っ!?こんな時に何やってるの葵ー!!??」

私の声が教室中に響き渡って辺りは静まり返ったが、状況が状況だ、私の怒りというか興奮というか、そんな感情が私のつま先から頭の上までぐるぐると渦巻く。


私たち花園総合高校1年F組のグループは、AO入試でこの高校にそろって進学した。正確には、そろって入学することが条件だったのだが、それはいったん置いておく。言い出しっぺの私を筆頭に、佑助ゆうすけ知音ともね・葵でグループを組んで活動している。

今までもいろいろなことがグループ内外であったが、よりにもよってこんな最後で一年を締めくくりたくない。そろって入学することが条件と言ったが、裏を返せば一人でも留年したら、グループは自動的に解散となる。この高校でのグループの解散は、すなわち全員転校を余儀なくされるのだ。


「えー…じゃあ、勉強会でも開く…?図書館で…」

渋々という表情を思いっきり前面に出しながら私が提案すると、佑助がすかさず言い返す。

「でも、問題なのは葵だけだろ?勉強「会」なんて言われても、俺はバンドの方に集中したいしなぁ…」

「あのねぇ、こういうのは団結力が大事なの。この高校で求められてるのが、その団結力だっていうの、入学前に言ったわよね?それを承知して、佑助もこの高校に一緒に入ってきたんじゃない」

「そうだけどさぁ…葵、赤点いくつあんの」

「…3つ」

「具体的には?」

「数学と化学、あと物理…」

「げっ…全部理数系じゃん…俺パス、理数系は俺だってぎりぎり平均点超したくらいなんだぜ…」

「でも、それなら来年度のためにも、みんなで勉強会、いいと思います」

葵と佑助の不毛な会話に、知音が割って入る。普段は物静かなのに、どこにそんな決断力が入っているのか、一度分析してみたい。いやいや、今はそれどころじゃない。葵の進級が大先決の問題だ。


「はい、そういうことだから、佑助も参加ね。参考書は私がわかりやすそうなの見繕っておくから、知音は明日の放課後の図書室の予約をお願いね。補講のテキスト、葵持ってるわよね?」

「うん…きれいに取ってある」

「…見せなさい。ちょっとそのテキスト見せなさい。」

「えっ、いいけど…」

…案の定、問題文以外は真っ白だ。それも全教科。そんなきれいは要らない。書いて消した跡すらない。多分あるのは葵の指紋くらいなものだろう。

「あーのーねー。わからない場所があったら、素直にわかりませんって言うの、小学校で習わなかったの!?」

「だって、何一つ入ってこないんだもん、単語も数式も」

「あっけらかんと言わないの!!誰のせいでこんなことになってると思ってるの!?」

「まぁまぁ、落ち着けよ百華…俺も自分がわかりそうな参考書買ってくるから、一緒にやろうぜ…なぁ知音…?」

「はい、そうですよ。何よりも必要なのは団結力なのがこの高校の校則。三人そろえば文殊の知恵、っていうじゃないですか。ましてや百華さんは成績優秀なんですし」

佑助と知音が必死に私の火消しをしているのがよくわかる。私も頭にちょっと血が上りかけてたのを必死に冷やす。特に最後の知音の言葉が私を癒してくれる。

「どうせここまできれいならば、みんなでコピーしませんか?何も書かれていないのであれば、そのままコピーすることで、みんな同じ速度で足並みそろえて勉強することができるじゃないですか!」

…知音、軍師タイプと見た。確かにそれは妙案だ。みんなで教え合ってこそ、お互いの知識が高まり、忘れにくくなるってことを聞いたことがある。人は五感で物事を覚えるものだ、って言葉もあった気がする。…いや、誰が言ったかわかんないけど。


「よし、じゃあ知音の図書室予約と一緒に、葵のテキストのコピーを人数分…いや、余分にいくつかコピーしといて。葵と佑助は教科書持ってきて。できれば中学のも全部。」

「えーっ、俺そんなの実家に置いてきちゃったぜー!?」

「私も持ってきてない…」

問題児二人がこれか。まぁ、それを見越して私が参考書を選ぶことにしたんだけど。5つ上の兄が現役の家庭教師やっててよかった。おかげでこのグループ、いや学年の中でも成績はいいほうだ。このちょっとした優越感には少しおぼれていたい。


「さすがに教科書はあるでしょ。二人とも、数学と物理、あと化学の教科書持ってきてね。あと電卓、なるべく大きいやつ。」

ほへっとした何とも言い表せない間抜けな表情で葵が私を見る。

「大きい、電卓?なんで?」

「そりゃ計算するために決まってるじゃない。葵は文系の方が得意だから、文章題とか解くのにあると便利でしょ?表示される数が多ければ多いほど、細かい計算ができるのよ」

「…まぁ、そりゃそうだけど…」

「とにかく!葵の留年、ひいてはこのグループ存続のため、一年最後のラストスパート、駆けていくわよっ!!」

「はいっ!」

「…おう。」

「…ごめんね…」

最後の葵の一言に生気がいつもと違いあまり感じられなかったのが気になるが、とにもかくにも、この勉強会を実のあるものにして、葵とみんなで進級していかないと!!

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