ごちそう
島本 葉
あ、どうしよう……
優太は弾むような足取りで歩いていた。
(千春ちゃん、何を作ってくれるんだろう?)
今日は、千春の家でお昼をごちそうになる約束をしているのだ。
メニューはその時のお楽しみということで知らされていなかったが、そのことがまた優太の期待を膨らませていた。
「優太くん、いらっしゃい」
インターホンを鳴らすと、可愛らしいピンクのエプロンをつけた千春が笑顔で出迎えた。
「こんにちは、今日はありがとう」
「さあ、あがって」
すぐに用意するから、と千春はキッチンに消える。緊張した面持ちで待っていると、やがて、千春はお盆を両手に持ってあらわれた。
(メニューはなんだろう……えっ!?)
千春が持ってきたお盆には、白い器が乗っていた。けれども、器には何も盛り付けられていないように見えた。
「お口にあうと良いんだけど」
そう言って、千春は空の器とスプーンを優太の前に。
(えっ? どういうこと?)
明らかに何も盛り付けられていない器を前に、優太は困惑した。
「ち、千春ちゃんは一緒に食べないの?」
「わたしは良いの。優太くん食べて」
(食べて、と言われても)
優太は促されるままに、スプーンを手に取った。千春の顔を見ると、不安そうにじっと見つめている。
(もしかして愛を試されているのかっ?! 愛が足りないと見えない料理とかっ?!)
「じ、じゃあいただきます」
優太は勇気を振り絞ってスプーンでお皿から掬った。ゆっくりと、口に運ぶ。
「どうかな?」
「う、うん、美味しいよ。とっても」
なんだかわからないけど、優太の胸はいっぱいだった。
「この鍋なあに? 彼氏にお昼作ったんじゃないの?」
千春の母はパートから帰ると、キッチンにある鍋の中を見て尋ねた。事の顛末を聞いた母は呆れ顔になる。
「ちゃんと説明したらいいのに」
「カレー粉を買い忘れたなんて、恥ずかしくていいわけできないよ!」
「裸の王様プレイのほうがよっぽどよ。可哀想に」
完
ごちそう 島本 葉 @shimapon
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