いいわけは、恋の武装

秋雨千尋

図書館に行く理由か?戦記から戦術を学ぶためよ!

 全身に鎧を着込んで、今日も戦場に赴く。


 魔族の先攻部隊を双剣で斬り刻んでいく。緑色の血を噴き出しながら地面に転がる体を蹴り、次から次へと肉塊に変えていく。


 襲われる仲間を救出しながら、ボスに挑む。

 三メートルは超えるだろう巨体に向けて、最大火力の魔法をまとわせる。足にはスピードアップを付与して、一瞬で間合いを詰めて心臓を抉り取った。


「さすが隊長、マジ鬼神!」

「美しきバケモノ!」

「無敵の擬人化!」


 絶賛の声を聞きながら、もうちょっと違うキーワードを出せんのかバカタレが! と思う。

 軍人たちにセンスを求める方が間違っているのだろうな。


「皆の者、よくやってくれた。明日は休みだ。存分に羽を休めるが良い!」




 私は王国の守りの要、騎士団長。

 鬼神であり、バケモノであらねばならない。国民は強い私を求めているのだ。そう、だからプライベートは決して知られてはならない。


 ゆったりした可愛い服は筋肉を隠せる。ふわふわの金髪ウィッグは少女に見える。儚げな声は弱そうに見える。

 変装のために必要なだけなのだ!

 決して好きな男に可愛いと思われたいとか、そんな不埒な事情では!



「マリンさん、こんにちは」


 王立図書館の司書であるリアン君。メガネの似合うすらっとした好青年。今日も非常に可愛い。心臓がバクバクする。戦っている時の方がずっと楽。


「ご、ご機嫌麗しく……」


「新刊がたくさん入ったんです。動物が主役の絵本もありますよ。気に入ってもらえると思います」


「い、いいです、ね」


 何冊か手に取り、読書机に移動する。

 開いていても本の内容なんか頭に入らない。ひたすら聞き耳を立てて、貸し出し対応している彼の声を聞いている。そして隙を見つけてチラ見する。


 はあ、恋人はいるのだろうか。休みの日には何を?

 なんだかんだと言い訳をして、わずかばかりの会話をするのに精一杯。


 心臓を貫くよりも、ハートを射止める方が難しい。

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いいわけは、恋の武装 秋雨千尋 @akisamechihiro

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