第30話 憑りつかれた王女様

 とりあえず、馬車預かり所に幌馬車を預けに行こうか。

 その後は町を観光。

 基本は石造りなのだろうが、白い塗料で全てが白く塗られている。

 高台に上がって見る、フルーレの町は、白亜の町だった。

 北の大陸バルバロイの爪痕はもうない。

 パルケルス帝国の兵士たちも祖国に帰還済みだしな。

 白亜の町は俺たち悪魔には居心地が悪いが、再建されていたのは良かった。


 時間を潰した後、フルーレの冒険者ギルドに行く。

 8時。受付で認識票を見せた途端、驚かれた。

「あ、エアロドラゴンを倒し、戦場でも数々の武勲を上げて来られた方々ですよね!ええ、ギルドの連絡網を通じて全て把握しておりますとも!ぜひ滞在してください」

 声が大きいので、周り中に聞こえてしまった。

 お前たちなんかが………ってのが来そうだな。

 やって来そうなのは「特殊能力:邪視」でこっそり先に心を折っておく事にする。

 この分だと、レティシア姫にも筒抜けになってそうだ。


 ちなみにフルーレは首都らしく、ガラス作りのギルドだ。

 造りはミザンと同じ、2階酒場、3階よろず屋、4階宿屋だな。

 とりあえず、宿をとる。期間は一応、1ヶ月ほどにしておこう。

 そこまでフルーレに長居するつもりもないが………

 何かあると『予感』がささやくのだ。

 部屋に落ち着いて少ししたら、レティシア姫を訪ねると水玉が言い出した。

 俺も異論はない。海賊の襲撃の傷跡は、まだ町に残っていたので気になる所だ。


 10時。王城の門番に、レティシア姫の友人で、パルケルス帝国に行く時護衛した者だ。姫と会いたい、と告げると、確認してくると城の中に入って行った。

 もう一人の門番は無表情だ。プロだな。

「恩人殿の顔を知っている奴を連れて来たぞ。こいつらか?」

「馬鹿!こいつらとか言うな!成長はしてるが間違いなくご本人だ!俺の事覚えてますか!?あの後の話はギルド経由で聞いてます!」

「気にしてないからいいよ。「尻がナイーブな」キースだろう?忘れるもんか」

「馬での移動途中、尻が痛いと文句をたれる騎士はあなたぐらいのものでした」

「嬉しいです!あ、姫の所に行きたいんですよね、今ミーナさんを呼びに―――」

「私ならここにいますよ、キース」

「うわビックリしたぁ!」

「ミーナ!久しぶりですね!」

「水玉様はお変わりなく。レティシア姫は―――あなた達ならいいでしょう」

 こちらです、と言って案内してくれるミーナさん。

 レティシア姫に何かあったのだろうか?


「ミーナです。入ります。懐かしいお客様ですよ、姫」

 そこにはやせ衰え、今にも死んでしまいそうな姫がベッドに臥せっていた。

「あ………ああ。水玉ちゃん、雷鳴さん………」

「姫!?何があったのです!?」

「分からないの………多分エリックが何か………」

 うーん………誰も見えていないようだな。

 俺にはレティシア姫の臥せった原因が分かった。

 俺は同じ死者だから見えるのだが、レティシア姫に憑いたものがいる。

 ソレもアンデッドの一種なのだ。

 同じ死者でないと感知できない類のもの。これでは誰も見えないだろう。


「ミーナさん、レティシア姫によくないものが憑いている。これはいつから?」

「えっ!魔力持ちは何も言わなかったんですよ!?」

「俺は少し特異体質なんだ。教えて、いつから?」

「こっちに帰って来て、オコナー中将がエリック様の罪を被る形で処刑されてからですね。少しづつ、少しづつ症状が進行して―――」

「うん、そっか。それで、もしかしてそいつの火葬場の側を通らなかった?」

「通りましたが、まさかオコナー中将が憑りついて―――!?」

「いや、違う。多分エリックの手下にシャーマンでも居るんだろう。

 マサンという悪霊が憑りついてるんだ。魔力持ちでも特異体質でないと見えない。

 マサンは普通、子供を襲うんだけど。けしかけられたみたいで姫に憑いてるね。

 それと、えらく力の弱い個体だね。だから少しづつしか症状が進まなかった。

 見える人がもしいても見えにくかったと思う。俺も見えにくい」


「対策は!?」

「首まで塩につける事で離れていく」

「それでは大量の塩を用意しなくては、急いで―――ああ、今は仕入れ時期直前だから在庫が少ないのに、どうしましょう」

「大量の塩、心当たりあるよ?」

「えっ?」

「あぁ、ありますねぇ。仕入れの直後の塩専門店が」

 俺たちは声を揃えて言った。

「「ボリバリー塩店」」


 俺たちはミーナに事情を説明し、布でくるんだ姫を馬車に乗せ「ボリバリー塩店」を目指した。王城からさほど離れてはいない。

 馬車を門の前につけ、スティックを呼ぶ。彼はすぐに出て来てくれた。

 状況を話すと、すぐ塩を大きな樽に満たすので入ってくれと言ってくれた。

 

 店の奥に入り、ミーナさんが姫を抱えて大きな樽に入れる。

 姫はネグリジェ姿で、樽の中にしゃがみ込む。

 そこに注がれる大量の塩―――よし、マサンが離れた。

 でもまだウロウロしているな………俺はマサンに魔化した短剣を投げつける。

 悲鳴を上げてマサンは灰の山になった。ミーナさんとスティックが驚いている。

 何で最初からそうしなかったのかって?

 憑りついてるままやると、弱った姫に衝撃が行かないとも限らなかったからだ。

 最悪ショック死してしまう。


「大丈夫だ、悪霊を潰しただけ。スティック、聖水で浄化して捨ててくれるか?」

「はい!分かりました」

「ああ姫様、もう大丈夫ですよ。こんなお姿になって………」

 姫様が樽から出された。そこで水玉が申し出る。

「元の姿に戻して差し上げましょうか?」

「えっ?」

「治癒魔法には『生命力付与』の術があるのです。私は生命力には自信がありますから、分けて差し上げますよ?いいでしょう、ミーナ?レティシア姫?」

「是非によろしくお願いします!」「ありがとう………」


 水玉が『治癒魔法:生命力付与』の術を継続して使い続ける。

 と、姫様がまるで逆再生のように、みるみる生命力にあふれていく。

 1時間ほどで、姫様は普通になった。

「ふぅ、さすがに少し疲れました。何か食べなくては」

「ああ、水玉ちゃん、雷鳴さんありがとう!これでエリックには負けないわ!お父様に復活したことを告げに行くから、ついてきてもらえる?」

「「もちろん」」


 エリックが知ったら何をしてくるか分かったもんじゃないからな。

 ミーナさんはスティックに感謝と多額の礼金を渡したようだ。もちろん口止めも。

 スティックも王族の覚えが良くなるのはいいことだろう。

「また、今度は普通に来るな。悪いけど、使った塩は捨てた方がいいぞ」

「はい!そうします。お役に立てて何よりです」

 素直でいい奴だよな。助けて良かった。


 乗ってきた馬車で、王城に帰る事になった。

 レティシア姫は車内で微笑んでいたが、その微笑みはちょっと怖かった。

 まあ気持ちは分かるけども。

 ネグリジェのままではいられないので、レティシア姫は部屋で着替えをした。

 俺は続き部屋―――応接間―――で待機である。水玉は着替えを手伝う。

 応接間に姿を現したレティシア姫は美しかった。

 確か今年で26歳。浮いた話の一つもないが、王位を継ぐと評判も高い姫だ。

 だからエリックに狙われるのだが―――

 数年前の援軍要請も、妨害に負けず立派にやり切ったもんな。


 さて、王に会いに行くのは娘であっても先に連絡をしなければいけない。

 ミーナさんが使者となって、予定管理を行う文官に会いに行った。

 この文官は頑固なかわり、エリックにもレティシア姫にもつかないのだという。

 面会の予定は、2時間後に急遽組まれたとの事だった。

 俺たちも着替えた方が良さそうだ。

 パルケルス帝国で着ていた服に『ドレスチェンジ』したら、非常に褒められた。


「そういえばサラはどこに?」

「今日は夕方までお休みなのです。2時間経つ前には帰って来てますわ」

 それから他愛ないお喋りをしていたら、1時間経って16時だ。

 コンコンとノックの音がする。

 誰何するとサラだったので、レティシア姫は「お入り、応接間のほうよ」と言う。

「姫様!?一体………」

 入ってくるなり絶句したサラ。相変わらず凛々しいな。

 とと、とりあえず状況を説明しなくては。

 状況を呑み込んだサラは、泣きながら姫様に抱き着いた。

「雷鳴、水玉殿、今回も本当にありがとう」

 それから俺たちの武勇伝はギルド経由で聞いているとも言われた。

 レティシア姫様に教えるために、サラは俺たちの功績を列挙し始めた。

 国王も知っているだろうとの事。

「2人共、本当に凄い人だったのね」

 と、レティシア姫様が感心した所で、17時になった。


 王と姫の面会は感動的なものになった。お互い抱き合って涙を流している。

 王は、フルーレの神官長全員にレティシア姫を診せたのだという。

 だが治らなかったらしい。

 それで、あっさりマサンを見抜いた俺たちに驚嘆と感謝を贈ると言われた。

 まあ、同族(死者)でないと見えないという特殊案件だったからな。

 今の俺は「疑似人間」なので死者と生者どっちでもあるのだ。

「褒美はに望むものを取らせる、何がいいか?」

「南大陸の情報を集めております。ご協力くだされば幸いです」

「うむ。城中の文献を当たって教えるので、その件は図書館長に預けておこう」

「ありがとうございます、お礼申し上げます」

「うむ。ところで、あのような状態では言えなかったのじゃが、儂は前々からレティシアを次の王にと思っておった。受けてくれるか?」

「慎んでお受けしますわ。でもエリックはどうされますの、お父様?」

「妥当なところで公爵にしようと思っておるが………これ以上何かあったら考える。この件は、明日の朝皆を集めて告知する!」

 それでやけになったエリックが、これ以上何かしてこなければいいのだが。

 

 謁見が終わって20時。ギルドに帰ろうと思ったのだが、嫌な『予感』がする。

 なので、レティシア姫たちの勧めに応じて、王城で1泊することにした。

 予感は「明日の次代国王宣言後が不吉」と言った感じのもの。

 夕食時は関係ないだろうと、バザールで済ませることにした。

 誘われたが、宮廷料理は食べたくなかったのだ。多分美味しくない。


 バザールの内容的には、ミザンと同じ感じだった。

 懐かしいのは海魚の料理である。俺は迷わず白身魚のフライを選択した。

 それとポテトフライが定番である。フィッシュアンドチップスだな。

 水玉は牛肉の串焼きを頬張り、肉系の屋台を回っている。

 姫様の回復にだいぶ生命力を使ったようだから、好きに食べさせよう。

 だが、屋台はほとんど魚を扱っていた。フルーレはスラウ半島にある。

 なので、周囲はほとんど海なのだ。それでも牧畜をする人間はいるが。

 海賊の爪痕はもう癒えたのか、バザールは盛況であった。


 王城の部屋に帰ると、俺はある事を始める。

 距離関係なく通話できるアイテムを作るのだ。

 レティシア姫といい、オズワルドといい、心配な奴が多いので、俺と水玉に通話できるアイテムを作ろうと思い立ったのである。

 オズワルドに渡しに行くのは、同一大陸にいる限り一瞬で行ける。

 水玉が帰って来たので、女性たちが遊びに来ているが、俺は作業に集中する。

 だがサラは話しかけてきた。もちろんダメではない。

「それは何だ、雷鳴?通話のアイテムだと?私も欲しいな、ダメか?」

「まさか。いいに決まってる。サラの分も作るよ」


 魔化した円形のガラスの板の間に、様々な素材を練り込み長い呪文をかける。

 それを丈夫な布で丁寧にくるみ、花の形に縫って、飾りをつけた。

 作ったのは小さな手のひらサイズの布の花型のお守りである。

 握りしめ、俺か水玉の名前を心の中で呼ぶことによって発動する。

 俺の場合は反対に、対象の名を心の中で呼ぶことによって発動する。

 オズワルドには、ささっとテレポートで渡しに行ってきた。

「そういう不意打ち、ズルいぞ!」

 と言われたが、渡した物の説明をしたら機嫌を直した。

 ちなみにこれは、通話と言ってもテレパシーを可能にするアイテムだ。

 声が出るのではまずいこともあるかもしれないと思っての仕様である。


 みんな気に入ってくれたようで良かった。

「雷鳴は裁縫なんてできるんだな」

「一通り姉ちゃんそだておやに仕込まれたんだ」

「厳しい人か?」

「厳しいけど、優しい人だよ」

「そうか………」

 サラ以外は試しに通話したりして遊んでいる。

「はいはい、そろそろ寝る時間だよー」

 22時である。そろそろ解散させ時か、と思ったのだが。

「あらー。今日はパジャマパーティーするからいいのよ」

「着替えて来ましょう、姫様」

「ふふふ、雷鳴。私も姫のを借りてネグリジェになりますから!」

 おいおい、俺は寝れるんだろうな?

「すまんな、雷鳴。快気祝いだと思って欲しい。………私も着替えてくる」

「サラもか!?」

 結局、女性陣が寝るまで(AM03:00)俺は寝れなかったのだった。


 2月2日。AM07:00。

 ほとんど寝てないので、俺は少し寝坊をした。

 水玉はもう起きていて、ドレスに化粧姿だ。家庭教師時代を思い出す。

「雷鳴。国王陛下の指示した次代国王の告知は8時ですよ」

 そうだった。『ドレスチェンジ』して、髪を整える。

「エリックが何もしてこないといいですけどね」

「いや、絶対何かあると思うぞ」

「やっぱりですか?………なんなら魔界こきょうの方が正々堂々としていますね」

「俺たちと違って、能力がないから陰湿になるんだろうな」


 8時。王の間(謁見の間)に数多くの急遽集められたらしい貴族が並ぶ。

 俺たちもその末席に並んだ。

 まあ、俺たちの見た目のおかげで視線はビシビシ感じるが。

 国王の前では、レティシア姫がひざまずいている。

「余は、余の後継者を、レティシア=イーナ=フルーレにするものとする」

 国王の宣言に貴族たちがどよめく。

 エリックだろう、2番目の上座にいる男をチラリと見る。

 すると、拳を握りしめて震わせていた。姫を睨みつけている。

 絶対何かやらかすなこれは………

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