裏表の0と1から生まれた2〜目指すはゴール〜
@TENDUUI
旅の始まり
第1話 万華の空
私は失敗したのだ。
いや、驕ったと言う方が正しい。
きっと彼等なら、上手くやってくれるだろうと、
初めての嘘までついて、私は彼等に任せたのだ。
結果は悲惨な悲しみを生んだだけだった。
彼女は言った。
ずっとずっと、長い間一緒にいた彼女は泣きながら、
「それでも、子供達を信じましょう」
私達は悲しみの行先を見届けた。
何度も声を上げそうになった。
何度も泣いた。
だが、彼等はやがて我等の考えなかった結末へと至った。
成長である。
とても喜ばしい事だった。
それは即ち、自分達の過ちでは無い事の証明だった。
達は子ども達が上手くやって行くだろうと確信した。
私達は見続けた。
幾つかの異なる終末を。
そして、私達は………。
「イヤッホォーウ!」
「にーちゃん!?これ操縦出来てるん!?」
「さぁ!?」
「さぁ!?えっ!?じゃあレイが操ってんの!?」
「ははっ、そんな訳ないじゃん」
「じゃあ今落ちてるだけじゃねぇかぁぁぁぁ!!」
俺達は万華鏡の様に物体が花開く世界を落ちていた。
正確には、船に乗って落ちている。
顔に風を受けて、手には操縦桿を握り締め、耳には轟々と風を切る音が心地よく響く。
初めての感覚、初めての興奮、俺は今笑みを浮かべていた。
「レイ!クラッチを忘れんじゃねぇか!?」
良いねぇ!ダウンバーストと行こうか!帆を張ろう!
「バカなんか!?」
隣で喚く弟を片方の腕でヘッドロックして黙らせると、もう片方の腕で砂の様な微粒子が線を神器で作って、帆を止めている紐を解いた。
帆は本来の方向と受ける方向の反対の風を受けて大きく撓んだ。
しかし、すぐさま後方から風が船を叩きつけた。
胸を張る様に帆は大きく張って船は更に加速した。
「はっはぁ!!」
さぁいっこぉーう!
「んのクソボケが!もうええわ!やったるやんけよ!」
ジロウの酔狂にようやく火がついたのか、目を燃やして、足を踏ん張って船から飛び立った。
フゥ!さっすが!君の弟なだけあるね!
「当然!さぁ!おいたをした子にはお仕置きや!」
背中に日輪を背負って、着火した俺は口から焔を出しながら、レイと操舵輪を強く握りしめた。
レイの手から迸った黄金の光は、幽霊船だったはずの船体を大きく包んで、祝福で満たした。
大きく加速した船体は、無限に下に続く世界へと更にその身を捩じ込んだ。
「いたぁ!見失うなよ!ジロやん!」
『わぁっとるわ!そっちこそ!逸れるなや!」
赤い光となったジロウは、万華に咲く物質の間を縫う様にして高速で飛んでいた。
そして、遂にジロウは追跡していたものと接触した。
『クッソ!上に!あぁ、違う!前に逃げた!」
そう言った瞬間、ジロウが追いかけていた青色の光がガクッと進路変更して我々の上方向、前に進み始めた。
「おっほぉ!ええやんけぇ!異世界最初のチェイスや!これぐらい無いと楽しみがいないよなぁ!」
俺は操舵輪を手前に力一杯引いた。
船は凄まじく軋みながらも、船体を下向きから上向へと方向を変えて、スピードをそのまま前へと落ち始めた。
「レイ!この先で決まるぞ!閉じ込めてくれ!」
はいよぉ!
レイは身体を俺に脚を絡めて固定すると、両手を使って、画家がパースを図るときの様に人差し指と親指を使って、光を指の四角の中に閉じ込めた。
すると、万華を探していた現実世界の物体達は、途端に規律性を持って光の行先に立ち塞がった。
しかし光は直ぐに再び上方向に向かって進み始めたが、すぐに壁が立ち塞がって五方を囲まれてしまった。
『隙ありぃぃぃ!!』
一瞬にも満たない時間を止まった隙を逃さず、ジロウは空を赤い線を残して、燃やしながら青い光へと突っ込んだ。
間髪入れず、俺達の船もその光に突っ込んだ。
そして船は黄金の光を放ちながら木っ端微塵となった。
ギリギリで船を降りた俺とレイは、地面を何回転もしながらようやく停止すると、体についた土汚れを払って落とした。
突っ込んだ先を見ると、ジロウと船に突っ込まれた青い光は正しく絶叫を発して、船首に取り付けられていた槍に串刺しにされていた。
「さて、泥棒をしてくれたこの子をどうする?」
「別にそのまま殺してもええんちゃう?」
いやいや、反省するかどうか一旦治してあげようよ……それにこのまま死ぬのはあんまりだよ
レイの提案によって、貫かれ、痙攣しながら穴という穴から血を流す子を、治してあげた。
「……うわぁぁぁぁ!?たすけっ!?」
「落ち着いて?大丈夫よ、ちょっと話を聞くだけだから、ね?」
「あ、あぁ、や、やめて、お願いします!何でもしますから!も、もう許して下さい!もうやめて……!」
「人の物勝手に取っといて、許してください?しかも俺らのやつやで?ええ妥協しとるやんけ?」
「ひぃぃぃ!!」
完全に俺達に恐怖してしまった、下半身が魚の様な、背中に天使の様な翼の生えた裸の女の子は、頭を抱えて、完全に話にならなさそうだった。
なぁ、やっぱりもう殺してあげたいんやけど?
「イチヤ、君はもうちょっと他の人に優しく、君なりにしてあげてるんだろうけど、壊れやすいんだから」
お、そ、そうか、もうそんなに……
オレはレイに宥められ、一度大きく息を吐いた。
「すまんな、やりすぎたのは謝る、やけど何であれ取ったん?」
「ふ……あ……」
「あん?何て?」
イチヤ!
「わぁってるって!んん、じゃあ聞き方変えるわ、アレ、どうしようと思っとったんや?」
彼女用の服を出して着せながら、俺はできる限り優しい声で尋ねた。
「高く売れると、思ったから……」
「ん、お金がいるんか?あー、そっちのお金の単価は分からんけど、何か価値の高い金属とか知らん?あー、金属や無くてもええわ」
「?え、と、食べ物?」
「Oh……」
俺はあまりの事に絶句した。
まさかそれ程までに困窮することとなっていたとは、
やはり、
イチヤ、決めたでしょ?
「そう、だな、お前との、そうや、何よりも、お前との約束やからな」
「?な、何をするの?するのでしょうか……」
俺は日輪の輪から風呂敷包を取り出すと、彼女にそれを手渡した。
「乱暴しすぎたお詫びや、それを広げると食べたい食べ物が幾らでも出てくるんや、是非使って」
少女は困惑した様に風呂敷包を手に取って、自分の前に広げた。
すると、広げた所から、質素な料理や、硬そうなパンが出て来た。
「え?」
不安そうにこちらを見る少女にどうぞとジェスチャーをすると、少女はわっとそれらに貪りつき始めた。
「なぁ、この子……」
それはその子次第だよ、番号を付けるのはもうちょっと考えないと、痛い目を見たのをもう忘れたの?
「忘れる訳無いだろ」
なら、もうちょっと慎重に、そして人を思いやって、そして今は練習だと思って?
「いや、まだ俺は俺だよ」
そうだったね、貴方は長い間貴方だったから、変わるのは難しいかもね、でも……
「あぁ、お前はいつだって正しかったさ、そうだな自重する」
そうして、涙目になりながら食事を終えた少女を横目に、日輪を巨大化させて、世界を飲み込ませた。
そこには万華に咲く山も川も雲も無ければ、ただの洞窟がそこに広がっていた。
そして、俺は苦しくなる胸を何とか堪えつつ、少女に聞いた。
「君、俺達と一緒に来ないかい?」
こうして、俺達の世界の果てへと向かう旅が順調とはいかずまでも始まったのである。
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