やっぱり運営はクソ
白亜聖域の攻略に成功したその後、我ら山田軍は第14エリア、天空山脈墓所クラレントへと進軍を始めた。
このエリアは中央に高く聳え立つ山々とその周辺の広大な平野で構成されており、平野には山脈を囲むように何百層にもなる塹壕や結界、トーチカなどが存在し、さらにその山脈はアリの巣のように掘り込まれ複雑に要塞化、山脈中央に大規模な神殿が待ち構えている。
俺たちは戦争開始時刻である12時にエリアに侵入、早期に大軍を送り込み入場ゲート付近を制圧後、簡易的な陣地を構築、こちらも塹壕を掘り込み、第一次世界大戦のような泥沼の塹壕戦を繰り広げている。
塹壕同士で銃を撃ち合い、味方の砲撃や魔法により敵塹壕付近を吹き飛ばした後、銃弾が雨のように飛び交う中突撃、そして近接戦闘により塹壕を奪う。
この一回の突撃が成功しても第2第3の塹壕が待ち構え、進めるのはほんの僅か。しかも天使は基本的に全員飛べるため、制空権はあちらにある。
こちらの塹壕なんて飛んで無視して制圧した陣地に攻撃してくるため、まともに爆撃機用の滑走路も建設できずにいる。
なんとか改造したゲパルト戦車と飛行可能なホムンクルスにより迎撃しようとはしているが、天使の数が多すぎて手に負えないのが現状だ。
さらに塹壕は延々と横に広がっている為、敵塹壕を縦に突破しても横から天使が殺到するのだ。
おまけに山脈には多数の超長距離砲台が幾つもあるらしく、遠い山々からの砲撃が止まらない。
しかしそこはホムンクルス。絶えることのない不屈の戦闘狂であり、制空権がないにも関わらず銃弾の雨を強引に突破して戦場を優位に進めている。マジか。
兵士はホムンクルスを主力として構成された魔王軍と他のユーザーの戦力との合同での作戦を実行中だ。
他のユーザーとは直接会えなかったが、ユーザーの支配下にあるユニットとは会うことができた。
だがそのユニットの大半は偵察隊で、このエリアの攻略が非常に面倒臭そうだとわかるとすぐに撤退していった。さらにこのエリアに俺は大規模な軍を投入している為、ユーザー達は戦果の大部分が俺に独占されると思い、このエリアの攻略は諦め他のエリアの攻略へと向かってしまった。
今いるのは俺の情報を集める監視役と、俺のおこぼれを狙う戦力だ。
こちらの奥の手である高レアリティユニットの投入はまだ行わない。あいつらは戦線が膠着して敵が油断した際に投入する予定だ。
そんなこんなで一夜明けた。
では、今日の無料ガチャ回してみよう!
ガタンッ
C『靴下』
現れたのはクリスマスカラー、つまり赤緑白色の毛糸で編まれた大きな靴下だ。
………いや、かなり大きい。
人間が履けるサイズではないので、おそらくプレゼントを入れる用の靴下だろう。
靴下は同じくクリスマスカラーのリボンで飾られ、雪の結晶、ベル、サンタクロース、トナカイ、プレゼントボックス、ツリー、星などのクリスマス的な物でゴテゴテと飾られている。
俺は中身を確認する。きっと何かプレゼントが入っているのだろうとわくわくしながら見たが、特になかった。
は?
はーーーー、なんだよこれ。ガチャ産だろう?何かないのか?開けたら爆発するプレゼントとか。
がっくりとしながらため息をついていると、天井から作業服を着た透明なおっさんがあらわれた。
は?
「どうも、サンタクロースじゃよ」
「いや、どうみてもサンタクロースじゃないだろ。ただのおっさんじゃん」
「あの服は制服じゃ。副業に制服はつかわん」
鑑定!
●伝説の惣菜屋 配達員 サンタクロース
伝説の惣菜屋はクリスマス以外基本的に暇なサンタクロース達を配達員として雇用しました。
トナカイが牽くそりに乗って素早く移動し子ども達にプレゼントを送り届けるサンタクロースは配達員として最高の人材です。透過のスキルをもっており壁などを無視して移動できます。
サンタクロース達は金銭とトナカイを食材にしないことを条件に契約しています。
………どうやらマジモンのサンタクロースらしい。サンタクロースを雇用し、宇宙艦隊まで持っている惣菜屋の謎が深まる。
「ほれ、プレゼントじゃ。サインを書いてくれ」
「あっ、どうも」
俺はサンタクロースが出した紙に万年筆でサインをする。サンタクロースはそれを受け取ると、靴下の中に何かを入れた。
いや、目の前に俺がいるんだから靴下に入れるんじゃ無くて俺に渡せよ。
「フォッフォッフォッフォッ。一週間に一度、届けに来るからのぉ。それがこの靴下の特典じゃ」
そうしてサンタクロースは去って行った。俺は靴下の中身を確認すると、スーパーで売っていそうな唐揚げが入ったプラスチックのパックがあった。風情の欠片もない。本当にサンタクロースか?
唐揚げは味付けがされていないのか、天ぷらのように衣が黄色い。
一口食べてみると、味付けがされていない分、素材の美味しさが際立っていた。
衣は軽やかでサクサクとし、中からは柔らかくジューシーでありながら、素材自体の風味を引き立てていた。
最近ホムンクルスが作るやたらと味の濃い料理ばかり食べていたが、この唐揚げは、濃厚なソースなどを使わず、シンプルな美味しさだった。
ふう、旨かった。あっさりとした、淡泊な味だったな。
俺はパックの蓋を閉め、生け贄の棺に捨てに行く。その際、俺はパックの裏に貼られたシール、製造日や賞味期限、原材料などが書かれてあるあれを何気なく見てしまった。
原材料 ウシガエル
うわああああああああああああああああああ!!!
その後、ホムンクルス達に、サンタクロースにカエルを食わされたという話をすると、どこから聞いたのか暴食の魔王が「カエルはおいしいですわ!」、暴食の邪神ベへモットが「何故カエルを食わん!」といい、カエル料理のフルコースを食べさせられた。
カエルフルコースは、見た目だけではカエル料理だとわからないように丁寧に調理され、そのどれもが絶品だった。正直カエルを食材にすることに対しての拒絶感は薄まった。
いやぁ、美味しかったんだよ?だけどさ、それは暴食の魔王が、カエルの見た目が苦手な俺のために丁寧な調理をしたからこそだ。
問題は、ホムンクルスにカエル食ブームが来てしまったことだ。
屋台を見るとカエルをまるごと焼いた串焼きが売っていた。
あっちではカエルの炙り寿司が売ってあった。豊洲地下ダンジョンで3メートル級のカエルをハントに成功したらしく、大きなカエルを捌いてシャリの上にのせていた。
味は美味しかった。
今日のログインボーナスはイベント確定ガチャコイン!
イベント、これはまた珍しい。俺はイベント系のアイテムを一回しか手に入れたことはない。
100連ガチャをした際に初めて【戦艦墜落】というイベントが発生し、どこから現れたのか地面に不時着していた。
そういえば、戦艦なのだが技術が高度すぎてほとんど解析が進んでいない。そもそもうちに研究者が少なすぎるのだ。研究者系ホムンクルスの生産も僅かだがしてみてはいるが、興味のある分野しか研究をしようとしない。この前作ったホムンクルスは【マグロの水族館飼育】に興味を持ってしまった。何でだよ。
戦艦墜落場所は今や観光地として戦艦の周りにお土産ショップが出ているくらいだ。
それではガチャ、いってみよう!
ガタンッ
UC『朝貢貿易』
中国の歴代王朝が行った貿易。周辺の国家が中国の王朝に対して特産品などを献上し、それに対して王朝による下賜という形で交換を行う物物交換での貿易。基本的に中国王朝が多い時で献上される品の数十倍もの宝物を下賜していた。
ショッピングモールの外からざわめきが聞こえ、外に出ると数百名の小人達がまるで大名行列のように道を進んでいた。
彼ら小人は自らを、【レプラコーン百支族連邦共和国】の、山田ドラゴンガチャ王国国王に臣下として貢物を贈りに来たと主張し出した。
レプラコーン。アイルランドの伝承に登場する妖精で、靴職人として有名で、儲けたお金を土の中に隠しているらしい。
連邦共和国の場所を聞いてみると、案の定先ほどまで何もなかった場所に小さな森が出現していた。おそらくこの地下に連邦共和国が存在するのだろう。
俺はレプラコーンの贈り物をありがたく受け取った。貰えるものは貰う主義なのだ。
…中身は、小さなレプラコーン用の靴だった。
うーん、要らない!
だが受け取り拒否するのも失礼なので受け取っておく。魔のダンジョンの小人達にでもあげよう。
さて、ガチャから出たこいつらのイベント名は朝貢貿易。臣下の礼を取ってはいるが、それは形だけでこいつらはただ利益のために臣下のフリをしているのかもしれない。
なら、やる事は一つ。俺に従った方が得だと考えさせる為に、大量の宝物を与えよう。
俺は黄金や宝石細工、豪華な食べ物などを振る舞ったらレプラコーン達は大喜び!喜んで今後も従い、レプラコーンはショッピングモール周辺に大使館を作るそうだ。
ホムンクルス魔術師兵の魔法によれば、どうやら嘘はついていないらしい。
その後、レプラコーンに足のサイズを測って貰い、オーダーメイドの靴を作って貰った。片方だけの。
レプラコーンは靴職人として有名だが、何故か片方の靴しか作らないのだ。
何故片方の靴しか作らないのかと聞いても、黙るだけ。そこは伝説の通りらしい。
融通の利かない種族だ。
だが記憶忘却剤をレプラコーンに飲ませ、俺の靴を作らせた。記憶を消すともう片足を作ってくれた。どうやら自覚がなければ大丈夫なようだ。
第1エリア ホド島
俺は他のユーザーのユニットからの情報で、第1エリアに大勢のユーザーが攻略に参加していることを聞き、ユーザーと情報交換をするために第1エリアへと向かった。
入場ゲート付近は、驚くべき事にまだ戦争開始から24時間も経っていないにもかかわらず既にコンクリートで敷かれた軍事基地が完成していた。
戦車に装甲車、兵員輸送車が基地内を行き交い、航空基地よりひっきりなしに航空機が出撃と着陸を繰り返している。
さらにこの付近に砲兵陣地でもあるのか砲撃音が途絶えること無く聞こえ、さらに軍事基地内には大勢の軍人が闊歩していた。
そんな光景に呆然としながら俺は入場ゲート付近にいた軍人に案内され、司令部があるという移動式陸上戦艦の中に入った。
「やあ、待っていたよ!」
そこにいたのは軍服姿の西洋人女性だった。コスプレのような見た目では無く、本物の軍人といった印象を受ける。だがこんな軍服を俺は見たことがない。
「失礼……よし、そのまま爆撃を続けろ。15分後作戦通り、パワードスーツ隊は軍港へ奇襲し制圧。すぐに艦隊を召喚し制海権の奪取を始める」
どうやらお飾りの軍人というわけではないようだ。周りの軍人は彼女に報告し、彼女が命令を行っている。
「まずは挨拶だ。私はスイス指定ユーザーのエマ・ミュラーだ。今は下位ユーザー連合軍の総司令官を務めている。早速だが、よければ君も連合軍に入らないか?」
「いやあ、俺は一人で戦いますよ。自分でいうのもあれですけど、結構戦力はある方だと思いますので」
「うん?そうか。これまでイベントに参加しなかったことを察するに、自身の戦力に自信がなかったと考えていたのだが」
「………俺だってイベントに参加したかったですよ。でも、俺はイベントのことを知ったのは、2回目が終わった後でした」
「そうか。さてはあのクソ運営が何かしたんだな?」
「ミュラーさんも運営に何かされたんですか?」
「下位ユーザー連合軍に所属しているほぼ全てのユーザーが運営に対して不満を持っている。残念ながら、運営により与えられた能力とアイテムの差が激しいからね」
「あーー、わかります!俺も最初はひどいめに遭いましたから!」
「本当に運営はクソなんだ!あいつらは能力の想像外の使用にすぐ制限をかけてくるんだぞ!君は能力の制限されたことはあるか?私はあるぞ、おかげで計画が台無しだ!」
「ミュラーさんも!マジで最悪でしたよ!俺もただガ」
「おっと、能力の開示はやめておいた方がいい。与えられた道具や能力が知られることは命取りになるからね」
「あ、そうなんですか。すみません」
「しかし私はあえて言おう!私の能力は【傭兵会社】簡単に言えば様々な世界から傭兵を雇用、兵器を召喚することができるのさ」
「連合軍に加入しなくてもいい。だがそれでも私は君と協力してエリアの攻略を進めたい。人手はあるほうがいいからね。それに私はユーザーに対してお金と引き換えに傭兵の派遣を行っている。もし戦力が足りないというのであれば、遠慮無く言うと良い。ちなみに連合に入れば格安で派遣するからね」
「もし力に自信があるならば上のエリアの攻略に乗り出すのもいいだろう。連合に属さない、力あるユーザは自分に合った難易度のエリア攻略を始めている。彼らと協力し合い、攻略するのも良い。初対面の相手に攻撃するほど彼らも余裕はない」
「ああ、でも上位エリアに行くのはおすすめしない。上位ユーザーがひしめく上位エリアは地獄だよ」
俺が攻略した45層は敵が何かする前に潰したからな。他の上位エリアはどうなっているのだろうか。
「そんなに天使が強いんですか」
「ああいや、そういう意味じゃない」
「上位ユーザーはね、天使そっちのけでつぶし合っているんだよ。ランキングが高いユーザーの戦力を落とすためにね」
――――――――――――――――――
某グルメ漫画のあれがカエルなことに納得がいかない。
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