あと一日

俺はなんでも武力で解決するちょっと脳みそがやばめな『皆殺し探偵』が探偵事務所を開業したとの噂を聞き、事務所を訪れた。












『1日1殺 絶望探偵事務所』







…どう考えても探偵事務所とは思えない名前だ。正気を疑いながら俺はノックをして事務所に入った。







「はははははは!我が無敵のアルコールアタックを喰らうがいい!!!」


そこには防塵ゴーグル帽子マスク手袋エプロンその他諸々完全武装の皆殺し探偵が雑巾で床を拭いていた。


床はアルコールで洪水が起きたかのように水浸しだ。


歩くたびにチャプチャプと音が鳴っている。



「ん?これはこれはミスター山田、我が事務所にようこそ!気づかなくて申し訳ない!ささ、まずは靴を脱いで手をアルコール消毒したまえ」



そういって探偵は俺にアルコールで濡れたタオルとカツ丼を渡し、ドアノブと俺が踏んだ床を掃除し始めた。



「何故カツ丼?」


「警察署の取調べ室で出す料理はカツ丼と相場が決まっている」


意味わからん。




「さて、皆殺し探偵の私に会いに来たということは、やはり依頼かな?マフィアの壊滅?汚職政治家の粛清?犯罪組織幹部の暗殺?」


「お前のどこが探偵なんだよ………まあいいや。明日、クソ鳥との戦争が始まる。結構武闘派っぽいけど、戦力として期待していいんだな?」


「もちろんだ。先ほどこの国の法律を確認したら、山田ドラゴンガチャ王国に対して敵意を抱いた時点で犯罪者という、実に私好みの過激な法律があった。間違いなく、天使たちは犯罪者、つまりは皆殺し対象ということだよ」


「ええ…あいつら、そんな法律を考えていたのか。…まぁとりあえずそのままにしておくか」


「他にも敵の財産はいくら奪ってもいいとかもあったぞ」


「それは別に問題ない。ドロップアイテムや奪える物は全部貰った方がいい」


「それもそうだな。だが自分の国の法律を知らないとは感心しないな。今は大丈夫だが、いつの間にかとんでもない法律ができるかもしれないぞ」


「大丈夫だろ。俺はあいつらを信頼しているからな」



●山田ドラゴンガチャ王国民は、何か事情がない限り毎週一回はラジオ体操をせねばならない。

●山田ドラゴンガチャ王国民は、最強を目指さねばならない。

●山田ドラゴンガチャ王国民は、食物を粗末にしてはいけない。

●山田ドラゴンガチャ王国民は、何か事情がない限り毎日三食食べなければならない。



…うん、大丈夫だな。



「それともう一つ。お前には、殺人犯の捜索をしてもらいたい」



3つのワールドクエストの一つ。殺人鬼ジェイドの逮捕。

オロチはダンジョンにて休眠中、名もなき聖剣と殺人鬼ジェイドの所在も不明。


だが当然ながら山田ドラゴンガチャ王国にそんな殺人鬼はいない。当初はダンジョンにいるのかと思ったが、その様子もない。捜査は完全に手詰まりというわけだ。


探偵から事件を解決してくれるかもしれない。殺人鬼に関することは何か知っているのかもしれない。





「ええ⁈正気かい⁈皆殺し探偵の私にぃ!」



探偵は目を大きく見開き、今までよりも大きな声で驚いた。



「…いや、失礼。久しぶりだ、頭を使う仕事は」


だろうな。


「ようは、今この世界に存在しない犯罪者を逮捕すれば良いのだろう?なら出現させればいい。ついてきたまえ」


探偵は事務所を出て歩き出す。俺はそれに着いていく。


辿り着いた先はショッピングモールの中、ガチャの前であった。


「ここだ。これを使えばいい。」


「…ガチャのことを言っているのか⁈ワールドクエストの依頼品が、ガチャから出ると⁈」


「今更だろう?ガチャはあらゆるアイテムを出す。殺人鬼も例外ではなかろう」


「いやまぁ、そうなんだけど」


確率どうなっているんだ。こんなの、俺の運が良くなければ、何百年かかっても逮捕できないぞ!



「安心したまえ!私の持つスキルの中に『呪われた探偵』という、探偵には必須のスキルが存在する!これは事件と犯罪者に遭遇しやすくなるという非常に便利なスキルだ!」


便利だと思ってるのお前くらいだよ



「これがあれば、ほぼ確実に殺人鬼と会えるぞ?ささ、ガチャを引きたまえ!」



俺は渋々ながらガチャを回す。

確かに探偵の言うことにも一理ある。探偵漫画では露骨なフラグ、例えば漫画内のテレビ番組やラジオで未開解決事件に関する放送を主人公が視聴した際、ほぼ確実にその未解決事件にまつわるエピソードが主題となる。


フラグは立っているのだ。俺という依頼人、未解決の事件、ジェイドという名前しかわかっていない殺人事件。





ガタンッ






UC『チーズハンバーガー』


出現したのは、チェーン店に売っているようなチーズバーガーではなく、個人料理店が作り出すような、一つ千円くらいする大きなチーズバーガーだった。


こんがりと焼けたパン、トロトロに溶けたチーズ、肉汁溢れるビーフ、瑞々しいトマトとレタス、複雑な調理工程を得て作られたソース。


非常に美味しそうだ。



…だが、このチーズバーガーのレア度はCではなく、UCである。

そして探偵のスキルは不発だった。おい。



「ふーーむ、どう考えても怪しいな」


探偵は虫眼鏡でチーズバーガーを観察する。だが特にこれと言って目立った特徴はない。


「よし、では私が食べよう。毒味というわけだ」


「いや、鑑定するから大丈夫だよ⁈」


「鑑定は殺人鬼ジェイドのために残しておきたまえ」


そう言って探偵はチーズバーガーを手に取る。自信満々だなコイツ!


「本当は誰が作ったのかわからない料理は食べたくないのだが……まあいい。なに、私が信頼できる探偵だということを教えてあげようじゃないか」


探偵はチーズバーガーを前に大きく口を開け、食べた。



無言。探偵は手元にあるスピリタスを飲んで一言。



「絶品じゃないか!」



そう叫ぶとガツガツと、食べることを再開してあっという間に食べ終わった。毒味じゃなかったの?俺の分は?


「いやぁ、絶品絶品!なるほど、これがUCの味ということか!レア度が高い理由は、単純に美味だからという理由だと私は考え…ん?うおおおおおおおおおおおおお!」


突如として探偵が叫び出し、体からは何とも香ばしい匂いのオーラが溢れ出す。



な、何が起きているんだ⁈



●食の好みにチーズハンバーグが追加されました。

●スキル チーズバーガー鑑定、チーズバーガー調理、チーズバーガー召喚、チーズバーガー博士、チーズバーガーを食べても太らないなどがスキル追加されました。



「だ、大丈夫か?」


「うむ!特になんの問題もない!ただただチーズバーガーが無性に食べたくなっただけさ!」



そう言って探偵はチーズバーガーを召喚し、食べ始めた。


「うむ、絶品!」


「誰が作ったのかわからないチーズバーガーだぞ、いいのか?」


「チーズバーガーの前にそんなこと些細な事だ」



…なるほど、チーズバーガー好きに洗脳するチーズバーガーか。




「さて、もう一回回そう。今日のログインボーナスは何かね?」


「…刃物確定ガチャコインだ」


「おお!殺人犯の凶器は青酸カリとロープと刃物と相場が決まっているからね!これは期待出るぞぉ!さぁ、ガチャを回そう!」





俺は刃物確定ガチャコインを入れ、レバーを回す。





ガタンッ






C『殺人鬼ジェイド』



出現したのは、青いシャツを着た細身の男性だった。年齢は二十代後半だろうか、手元には青い液体を滴らせるナイフを持っている。



「うわマジで来ちゃった」


「だから言っただろう?これで事件は無事解決ということだ」


殺人鬼ジェイドは状況を理解していないのか、目を泳がせて周囲を窺っている。

 


俺は問いかける。


「お前が、殺人鬼ジェイドか?」


「ち、違う!」


鑑定!


●殺人鬼ジェイド


その鮮やかな手口で証拠を残さず、数多くの人間の殺害に成功した伝説の殺人鬼。能力は【我儘な迷子の子】。自らが指定した条件(監視カメラに映らないように、国道沿いになど)を設定して使用すると、その設定通りのルートが視界に表示されます。

この能力を使い、彼は目撃者も監視カメラの映像も存在しないルートを割り出し、事件を起こしていました。彼が殺人犯であるという証拠はありません。


「システムはお前がジェイドだって言ってるぞ」


「だが証拠は何一つないはずだ!」



叫ぶジェイドの前に俺と探偵は顔を見合わせる。



「「あはははははははははははは!!!」」


「な、何がおかしい!」


「わかってないなぁ」


「うんうん、わかってない」


「うむ、ここは君の常識が通用する世界ではないのだよ」


「俺が黒といったら黒なんだよ」


「クソッ、来るな!」


「逃げるな!さっさと4番打者寄越せ!」


「安心したまえ!取調べの際はカツ丼代わりにチーズバーガーをやろう」




●殺人鬼ジェイドの逮捕に成功しました。報酬として、4番打者を召喚します。おまけとして野球場が出現します。












「やあ、伝説の野球選手である僕を召喚してくれてありがとう!」






「何だこのハンバーガーすごく美味ぇ…!」

「手を洗わずに食べるなああああ!!殺菌殺菌殺菌殺菌殺菌殺菌!僕のスピリタスアタックを受けるがいい!」

「今帰って来たぞ!豊洲地下ダンジョンで殺してきた新鮮なチーズドラゴンだ!これでチーズバーガー作ってくれ!」

「血塗れで僕の事務所に入るなあああああああ」













「召喚されるマスター、間違ったかなぁ」




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