無能ダンジョンマスターと愉快な仲間達のパワハラ会議

ダンジョン第98層 王宮


98層は魔のダンジョン最後の層。

ダンジョンマスターであるシュラハト専用の居住区であり、贅の限りを尽くした、地球の大富豪とは比較にならない住居である。


なにしろ、ダンジョンの層はそれぞれが独立したもう一つの世界とも言っていい。一つの世界そのものを、自分の娯楽のためだけに使っているのだ。地球とは比較にすらならない。


シュラハトの執務室である王城、住居である大屋敷をはじめ、シュラハトの食事のためだけに作られた畑や海が広がり、さらに広大な自然公園や美術館、動物園、水族館、薔薇園、乗馬場、別荘、狩猟場、図書館など、シュラハトのためだけの施設が至るところに建築されている。


シュラハトに仕えるメイドとその家族の為の街も存在しており、まさにこの層全てがシュラハトの家なのだ。


かつては川で釣りをしたいと云う理由のためだけに清涼な川を生み出し、さらに山登りをしたいと云うためだけに霊峰を作り出したこともある。

当然ながら、地形の創造は膨大なDPを消費するため、その度に暗黒騎士団長が止めようとしたが、耄碌したシュラハトは無視し続けた。



そんな98層。王城。

王城はシュラハトの執務室であり、この王城とその周辺にはダンジョンを運営するための上級行政施設や軍の総司令部といったダンジョンの根幹を担う施設が幾つか存在する。


そして王城、その管制室にて。


管制室に設置されたモニターには、ダンジョン各地の様子が映し出されているが、どれもひどい物だった。

至るところで反乱が発生し、各地で火の手が上がっている。


ほんの一月前までは、平和そのものだった。

たった一ヶ月で、多くの命が失われた。何人もの階層司令官、幹部が死んだ。





管制室に集まったのは、このダンジョンを運営する幹部達。


だがその面子も数少ない。多くのモンスターは反乱を阻止するために今も戦い、そしてオロチの出現によりかなりの幹部が死んでしまった。


もはや数えるほどしか残っていない上級モンスターを集めて、会議を行う。


ダンジョンマスターであるシュラハトは苛々とした様子で、顔に青筋を浮かべている。







そう、シュラハトの会議は基本的に、物事の報告とシュラハトのストレスを発散するためだけに行われる、何の意味もない、無駄極まりない会議なのである。








そもそも97層が壊滅してもう丸2日経っている。にも関わらず、なぜ今更会議を行うかというと、もちろん97層壊滅の混乱により事態を把握できていなかったということもあるが、報告すればシュラハトの機嫌を損ねどんな制裁が下されるのかと恐れシュラハトに都合の良い情報しか報告しなかったのだ。



そして現場のモンスターが、シュラハトにこの情報を伝えても碌な命令をしないし変に現場を引っ掻き回されても困ると考えたからである。



結果としてシュラハトは昨日の就寝前に、97層壊滅の情報をダンジョン管理システムより入手し、烈火の如く怒りその結果として何十人ものモンスターが粛清された。


ただでさえ人手が足りないのに、馬鹿である。




だが何故シュラハトは、97層壊滅の情報を知った昨日の夜のうちに会議を行わずに、次の日の14時に会議を行ったのか。

それは単純に夜なので眠たかったから、朝が弱く二度寝するから、昼ごはんを食べた後にお昼寝をするからである。




一部の親ダンジョンマスター派のモンスター以外のモンスター達は内心、さっさと会議終わってくれないかなぁ。と思っていた。

みんな死んでしまったから、仕事が増えているのである。


はっきり言って、シュラハトの自己満足に付き合っている暇は無かった。






みんな胃薬は飲んだな?さぁ、くだらない会議の始まりだ。ダンジョンマスターが、訳のわからない命令を下さないように祈ろう!





「報告せよ」


「54時間前のことです。ピュートン観測所から異常な魔力反応を観測したとの報告が入ります。それと同時刻、97層行政層中心部に突如として蛇型の超巨大モンスターを確認。情報省はこのモンスターをかつて存在した蛇のダンジョンマスター【オロチ】からオロチと命名し」


「名前などどうでも良い!」



これだ、シュラハトは人の言葉を遠慮なく遮るのだ。

逆にシュラハトの言葉を遮って話すと殴られる。




「失礼しました。」


「このモンスターの出現により97層は壊滅的被害を負いました。軍民問わず多くの人民が死亡し、復旧の見込みはありません」


「24時間の絶え間ない攻撃によりオロチを構成する機構の45%の破壊に成功。しかしそのための犠牲として、97層司令官率いる重装魔術師団をはじめとする、悪魔72師団、ファイブスター記念騎士団、迷宮憲兵隊、首都防衛軍などの兵力がほぼ全滅。これによりダンジョンマスター直属の兵力に甚大な被害が発生しました。」


「たったの45%か…ゴミめ」



軍出身の幹部は憤りを覚え反論しようとするが我慢する。皆、自分の命を捨てて戦ったのだ。そんな言い方はないだろう。



「参謀本部はオロチの撃破は非現実的であると考えて、空間魔法によりオロチを強制転移させることにしました」


「なんと軟弱な!臆病な参謀本部め!一体何を考えている!ここまでやられたのだ、何故殺さん!」


「しかし現状では、オロチの撃破は困難を極め、また損害は計り知れないと」



「それを解決するのが貴様ら参謀本部の役目だろう!あぁ、本当にお前達は役立たずだ。あれはいつだったか。たしか300年前のことだったか?いや800年前だったか?お前達は私と側近達が『闘』のダンジョンマスターと戦争になった時、私と側近の突撃を止めさせようとした時があった。なんだったか、そんなことをしても意味はない、もっと効率的な作戦で簡単に倒せると。無粋な奴らめ、彼らは武人だ。なら私たちも武人として彼らに答えるべきだろう。それなのに貴様らときたら…本当に呆れたよ。何が参謀本部だ。ただ卑怯なだけではないかと。それだけではないぞ?いつのことか忘れたが、『鉱』のダンジョンマスターとの戦争の時だ。貴様ら参謀本部の立案した作戦に従ったら、まんまと敵の罠にかかって一つの軍が全滅したことがあったな?その時の言い訳はなんだったか?確か想定外だった、不可抗力、あれは誰にも対応することができないだったか。無能どもめ。無能と言えば貴様もだ、資源管理担当、お前もだサラボよ。どうした、驚いた顔をして。自分は無関係だとでも考えていたのか?何?サラボではなくサラガーンだと?どうでも良いわ。当時まだ生まれていなかったお前に話しても無駄だが、貴様ら資源管理の奴らの計画では……」






1時間後。






「そう、あの時五星の座を巡り、私は当時五星の座にいたダンジョンマスターに勇敢にも宣戦布告したのだ!そして私自ら兵士を率いて敵のラグドゥ要塞に愛馬ティフォンに跨り突撃し、要塞司令官の首を取ったのだ!ああ、あの日のことが今でも夢に見る。勇敢な仲間と共に突撃したあの頃が懐かしい。それに比べてなんだ今のモンスターはやる気がないというか何というか。私の若い頃はもっとやる気に満ち溢れ、自分から困難に挑んだんだぞ?だがお前らはどうだ?まったく、私が五星になってから生まれた最近の若者は…」





1時間後。





「あぁ、恋しい!最近弟子にしたダンジョンマスターは本当に飲み込みの早いやつでな?教えがいがあると云う物だ。我がダンジョンマスターの後継者であったロイドとは雲泥の差だ。ロイドと弟子が我がダンジョンの相続権をかけてダンジョンバトルを行った際は、弟子を応援したんだが、ロイドのやつ、私が勝ちますので、応援よろしくお願いしますだと?滑稽極まりない!私は弟子に多額のDPとモンスターを融通したのだ。誰が貴様のような雑魚を応援するものか。ところで敗北者であるロイドはまだ生きていたか?何?生きている?しぶといやつめ。さっさと消えれば良いものを。あいつは今度処刑すべきか。弟子が我がダンジョンを引き継ぐ時に面倒なことになりそうだ。後でわたし直属の暗殺者を送り込んで、いやそれだと弟子の派閥が文句を言うな、では自害ということにして…」




1時間後。





「話が逸れてしまったな。それで?」


「…あ、はい。ええっと」


馬鹿、お前の話が長すぎて何話してんのか忘れたよ!


「なんだ、早くしろ」


「空間魔術師団のヨネ様が大蛇に対して空間転移魔法を発動、オロチは38層に転移させました。しかしその際、オロチはヨネ様含む魔術師団に攻撃。人員の98%が死亡しました」


その報告を聞いたシュラハトは、先ほどまでの武勇伝を語っていた時とは一変して、顔を真っ青にした。いい気味だ。


「ヨネ…お前まで…」


ヨネ様はダンジョンマスターの親友とも言える関係だった。ダンジョン開設初期の頃よりダンジョンマスターを支えてきたと云う。


…しかしヨネ様はダンジョンマスター側近の一人であり、このダンジョンで最も空間魔法に長けたお方。そんな彼女と彼女が率いる空間魔術師団が壊滅したとは。喜んでもいられない。



「転移先は反乱を起こした上層司令官達が戦闘中の35層。オロチは反乱軍を蹂躙、凄まじい速度でダンジョン内のあらゆる生命を鏖殺しながら、下層部へと向かっております。現在地は47層。47層以下の生存者はほぼいません」


「反乱軍は突然後ろに現れた大蛇になす術もなく壊滅。逃げるようにして必死に、こちらの親ダンジョンマスター派の兵士を無視して下層部へと進軍しています。オロチに追い付かれれば死んでしまいますからね。オロチのことなど何も知らない親ダンジョンマスター派と中立派のモンスター達がオロチを攻撃している隙に、少しでも進軍したいのでしょう」




…苦しいことだ。オロチのことは最大機密として、下層にしか伝えられていない。


仕方のないことなのだ。もしオロチの存在が知れ渡れば、絶対的な命令権が失われた今、ダンジョンを守るモンスター達は転移陣を使い逃走してしまうだろう。


そうなれば今も上層に居座る侵略者や反乱軍にダンジョンの大部分を占領されてしまう。なので逃げ場を封じるためにオロチが現れた階層の転移魔法陣は切断した。


故に、47層以下のモンスターは皆、何も知らないままオロチと戦い、逃げ場もなく死んでいった。





「ザマァ見ろ!この私に逆らうからこんなことになるのだ!」




シュラハトは、心底嬉しそうに笑っていた。

散っていった47層以下の同胞に対して、何のコメントもなかった。


こいつ、何とも思わないのか⁈

味方が、死んでいるのだぞ!数え切れないほどの同胞が、死んでいるのだぞ⁈



「いや、裏切り者のゴミなどどうでもいい!今はオロチだ、オロチはどうするのだ?撃破できるのか?」


「難しいところです。こちらの攻撃によりオロチの45%の破壊に成功。しかしこの攻撃で97層司令官であるネロ様を始めとする、堕天使総軍長、悪魔卿、破滅の申し子、将軍などの、数多くの側近や兵士を失ってしまいました。我が軍は壊滅的状況です。我々にオロチ討伐に割く戦力は残っておりません」


「…何だと?そんなに死んだのか?そんな………ではどうするというのだ!」


「生き残った分析官による報告では、あれはゴーレムの類似生物だそうです。しかも自立稼働型。殲滅タイプかと思われます」


「殲滅タイプ…なんだったかな。ド忘れしてしまった」




シュラハトがはこの言葉を発した瞬間、聞いていた幹部達は思った。




そこまで耄碌したのか。

そんなの普通知ってるだろ。

プルプル

ボケたんじゃないの?いや、ダンジョンマスターはボケないか。

魔物分類学なんて学校で教わるだろう?

アホだ、アホがここにおるぞ

無能め、さっさと死ね。

誰かこいつ殺せよ

プルプル

シュラハト様もド忘れすることぐらいある。不敬であるぞ。



報告者は内心マジかこいつ、と思いながら説明をする。



「えー、殲滅タイプは文字通り敵を全滅させるまで動き続けるタイプです。途中停止不可能。それもオロチはエネルギーチャージ機能を備えていないため、いずれは魔力切れを起こして機能停止するかと思われます」


「それで?いつになったら止まるんだ?」


「オロチの魔力消費量は尋常でありません。こちらが攻撃を続ければ、あと数日あれば機能停止するでしょう」


「ですが、それまでの被害は尋常ではありません。分析官の調査ではオロチは進軍を続け、90層間際にして機能停止します」




「少しまて、整理する」



別に整理するほどのことでもないけどなと皆思った。


シュラハトは連れてきたメイドに紅茶を入れさせ、茶菓子を食べ始めた。

状況わかってんのかこいつ。



「ふぅ…今の反乱軍はどうなっている?」




「ダンジョン内の反乱軍は大きく分けて5つの勢力に分かれています。下層から順に、93層にてかつてシュラハト様に敗れ監禁されていたダンジョンマスター達が率いる勢力です。現在万魔将軍率いる軍と戦闘中。互角とのこと」



「まて。93層の大監獄には、我が派閥の魔物を配置していたはずだ。あいつらは私自ら選んだ精鋭達だ。まさか敗れたのか?無能どもめ」


「…いえ…彼らも反乱を起こし、現在敗北したダンジョンマスター達の指揮下にあります」


「は?」




シュラハトは、本当に驚いたらしい。信じられないことを聞いたかのような、そんな表情と声だった。


逆に我々は思った。



いや、そりゃそうだろう。むしろなんで裏切らないと思ったんだ?

というか、知らなかったのか?




「何故裏切った⁈私の派閥なのだろう⁈普通は私に恩を売ろうと、全力で戦うだろう!」


「その…我々の派閥は脅迫で大きくなった派閥です。派閥に属さないダンジョンマスターや、中小規模の派閥のダンジョンマスターに対して、私の派閥に入らないのなら滅ぼすと言われ、ほぼ強制的に加入させられたため、恨みはあるかと…」


「だが私の加護のおかげで、派閥のダンジョンマスターは他のダンジョンマスターに攻め込まれていないのだろう⁈確かに最初こそ関係は最悪だったが、いずれ私に感謝するはず…」


「派閥のダンジョンマスターから、莫大なDPを会費といって徴収したり、ダンジョンマスターの主力をコレクション目的に無理やり友軍として我らのダンジョンに派兵させていましたからね。派閥から解放されたがっているダンジョンマスターも多いでしょう。派閥の魔物からしたら、今こそがシュラハト様の手から主人を解放させるチャンスとでも思っているのでしょう」


「恩知らずどもめ…」



話聞いてた?




「続いて、91層から92層に存在する下層暗黒騎士団。彼らにより暗黒魔術師団は壊滅。今は進軍していません。こちらも理由は不明です」


「さっさと処刑しておけば良かったな」



あんたが冷遇するから、騎士団は叛逆したんだろう⁈

暗黒騎士団はずっとずっと、ダンジョンのために戦ってきた。なのにあんたが冷遇するから、不満が頂点に達して反乱を起こしたんだ!




「さらに55層を中心に大規模な反乱勢力が存在し、下層へと進軍中です。そして47層にてオロチより逃走中の兵士です。これが最も大規模で、各層の反乱軍を吸収しながら全力で進軍中です。その他ほぼ全ての層で、何万もの反乱勢力が存在しています」


「…よし、方針が決まった」



あ、また何か変なこと考えたなこいつ!

無能は黙ってろ!



「79層以下の階層は放棄する。ダンジョン司令官共に悟られぬように、可能な限り兵力を引き下げその後転移システムを切断し孤立させる」


「そ、そんなことをすれば皆オロチにやられてしまいます!」


「そうだ。それが目的だ。79層以下の兵には最後の瞬間までオロチと戦い、少しでもオロチの魔力を消費させる。かなりの時間がかかるが、また生み出せば良い。それに80層以上の層は私に忠誠を誓う、優秀な者たちで構成されている。彼らさえいれば我々はやり直せる」



そんな…確かに80層以上のモンスターはそれ以下のモンスターと比べて強力だ。そして80層以上は親ダンジョンマスター派で固めており、反乱勢力も79層以下に比べて少ない。


しかし、そんな。

今までもダンジョンマスターは理不尽な命令を下してきた。だが、これは度がすぎている。


幹部が唖然としていると、一人の幹部が話し出した。



「なるほど、それはいい考えですね」



ジェニファー室長。この会議に出席している、親ダンジョンマスター派の幹部である。



「今ダンジョンには深刻な病気が流行しております。その名も空腹病。ダンジョン内の生命体ほぼ全てが感染したこの恐ろしい病気は、食事を必要としない我々が餓死してしまうという病気です。我々の計算では、あと1日もすれば貯め込んできた栄養がつき、食事をとっていないモンスターは死に始めるでしょう」


「ですが物資貯蔵庫があった95層は街ごと失踪。もはや全ての層に配る食糧はありません。ですが、食糧庫は95層以外にも存在します。この食糧庫を解放すれば、80層までの人員を飢えさせない程度の食糧はあります」


「ですので私は賛成ですね」



…そんな。


じゃあ何か?どうやっても、79層以下の同胞を救うことができないのか。

我々は、ダンジョン。そしてダンジョンに住む者達のために、これまでダンジョンを運営してきたのだ。


なのに、我々は何もできないのか?


絶望に支配されていると、何か大きな音が鳴り出した。



ビー!ビー!ビー!ビー!


「これは…システム音か?」



困惑していると、私の前にダンジョン管理システムウィンドウが展開される。私だけではない。他の幹部も、シュラハト様にも展開されている。




『ダンジョン管理権限剥奪決議案 提言者 第61層司令官』


『ダンジョン運営規約第83条3項の適用によりダンジョンマスターはこの決議に参加できません』




な、何だこれは?


全ての幹部がシュラハト様を見る。だがシュラハト様は、今日何度目かの驚いた顔をしていた。


「馬鹿な、ありえん」


「シュラハト様、ダンジョン運営規約とは一体…」


「ダンジョンを運営する上でのルールのような物だ。我々ダンジョンマスターはこのルールに則り運営を行う。だが、このルールを知るのはダンジョンマスターである私だけだ!61層司令官であるヘルが知るはずがない!」



「83条とは?」


「私にダンジョン運営能力がないとシステムに判断された場合に各層の司令官が発動できるルールだ。一般的には、ダンジョンマスターが洗脳状態や病気などで身動きができない時に使われる。投票により、私から権限を剥奪することができるのだ。」


「初耳ですが…?」



「当たり前だ!私から権限を奪う規約を教えるわけないだろう!」



【投票終了】



『賛成数【情報閲覧権限がありません】反対数【情報閲覧権限がありません】無投票数【情報閲覧権限がありません】』



『結果 否決』




「閣下。私には閲覧権限がないようです。投票結果はどうなりましたか…?…閣下?」


「私にもわからん!何故だ!何故閲覧権限がないのだ!私はこのダンジョンのダンジョンマスターだぞ⁈私が見れないというのなら、いったい誰が見れるのだ⁈」




異常だ。


シュラハトの無能さだけでは、説明のつかないことが多く起きている。


ダンジョンの空間的隔離。謎の侵略者。反乱不可能なはずの中層暗黒魔術師団の反乱。絶対命令権の消滅。ダンジョンシステムの深刻なエラー。


これを調査するチームもオロチの出現で全滅してしまった。



「閣下!緊急連絡です!96層にて、黒鴉騎士団が謀反!現在、黒薔薇騎士団、黎明騎士団により鎮圧成功したのとの報告が!」


馬鹿な⁈黒鴉騎士団は情に厚いものだけで構成される、このダンジョンで最も清廉潔白な騎士団だ。彼らはこの内乱の際も、中立を宣言し、非戦闘員の退避を助けていた。ダンジョンマスターからの信頼も熱い騎士団だ。


こんな、混乱を助長するようなこと…



「よくも黒鴉騎士団を!黎明と黒薔薇だな?覚えていろ!後で粛清だァ!」




馬鹿は見当違いのことを言っているが無視だ無視。



「謀反止まりません!!!全ての層で反乱が発生中!中立派や親ダンジョンマスター派も反旗を翻しています」


一体、何が起きている!


「お、おい見ろよあれ!」



モニターにはダンジョン各地の映像が映し出されている。

どこもひどいものだ。突然の同時多発的な反乱により、誰が味方で敵かわからず、混戦状態に陥っている。


なんだあれは…



その中の一つ、その映像には、我々が会議を行う映像が流れていた。


そのモニターの隅には、赤い文字でこう表示されていた。



●Live




「まさか…放送されていたのか⁈」


空腹病による餓死までのタイムリミットも。95層司令官の失踪による食料不足の問題も。

79層以下を切り捨てることも。オロチが下からやってきているということを。


全て。



「閣下!各層の我が軍、総崩れです!離反が相次いでおり、士気は崩壊寸前です!」


「転移陣の接続を切れ!味方は捨てろ!」


「閣下!79層司令官が謀反!80層へ攻撃を始めました!」


「私直属の予備兵力を全軍投入しろ!」


「そんな戦力どこにもありません!!もう既に各層の対反乱軍のために派遣しています!」


「78層司令官より緊急連絡。食料を供給するなら、79層に攻撃を仕掛けても良いと」


「ふざけるな!食糧などないのだ!」



次から次へと、報告が入る。




「煉獄騎士シルヴァ様が討死なさいました…」


馬鹿な⁈ダンジョン最強の一角。シュラハトの剣と言われた、あの男が…


「シルヴァが…そんな馬鹿な…」


シュラハトは憔悴している。目が虚だ。


「どんな最後だった?」


「最後は己の命を犠牲にして反乱軍を魔剣にて吹き飛ばした模様です」


「そうか…シルヴァが派遣されていたのは確か75層だったな。これで75層は安全か。」


「シルヴァ様が派遣されていたのは65層です。それとシルヴァ様を倒したことで反乱軍は勢い付き、そして我らの軍からの離反者も多く相変わらず65層は圧倒的不利です」



「93層にて万魔将率いる軍勢が敗北。現在行方不明とのことです」


「もういい」



その声は、恐ろしく冷たかった。

恐怖で体が動かない。全身が震える。本能が叫んでいる、命の危機だと。


「貴様らに期待した私が馬鹿だった。やはり信じられるのは、私だけだ。」


ダンジョンマスターは、たった一つのスキルを持って生まれる。


一つだけだが侮るなかれ、ダンジョンマスターのスキルは他のスキルとは比べ物にならないほどに強力なのだ。



魔のダンジョンマスターのスキル


【魔神化】



自身の肉体を一時的にだが、神の境地まで引き上げる。


魔神。破壊に特化した、全てを滅ぼす災厄の神。


対神スキルや対神武器がなければ、倒すことはほぼ不可能。









これこそが、私のスキル。『魔神化』である。

かつての私はこのスキルを使い、多くの敵対するダンジョンマスターを蹂躙したものだ。


しかし


「衰えたものだ」


このスキルを使うのは数百年ぶり。強すぎる力に体が馴染んでいない。

今の私は、全盛期の5%と言ったところか。



しかし裏切り者を殺すにはこれで十分。


まずは私にかつて敗北したダンジョンマスターから潰すか?それとも暗黒騎士団を滅ぼすか?いや、オロチを壊すというのもありだな。




…いかんいかん、ダメだな。このスキルを使うと、思考が傲慢になり、油断してしまう。この油断で私は何度も死にかけた。


念には念をだ。


まずは最も弱い敵から潰していこう。ウォーミングアップだ。



「手始めに、侵入者から潰すか」



脆弱な軍隊であるにも関わらず、この異常事態でダンジョンが混乱する隙に、30層付近まで進軍した、運のいいだけの軍隊。



生意気にも、私のダンジョンに入植しようとしているではないか。



さぁ、潰そう。






―――――――――――――――――――




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