終わりの始まり

現在、俺の王国内では空前絶後のモノづくりブームが巻き起こっている。


ダンジョンから山のように倉庫に運び込まれるドロップアイテム。このドロップアイテムは武器やポーションなど、使い道がわかる物もあるが、大半は草だの石だの花だの、使い道がわからないガラクタばかり。


これらは大量に倉庫に死蔵されていた。もう倉庫はパンパンだ。


しかしその問題は解決した。


この前出現した鍛冶大工裁縫工房。この設備とシステムを使い、ガラクタから様々なアイテムを作り出すことができるのだ。



ただし、制作難易度の高いアイテムは誰も作り出すことができず、現状ではオモチャのような簡単なアイテムしか作れていないというのが実情である。



他にもシステムに頼らず、工房に備え付けられている技術書を読み込んで、オリジナルのアイテムを生産するホムンクルスもいる。


彼らの腕は未熟だが、一部ではシステムを上回るアイテムも生産できているそうだ。今後に期待。



さらに、彼らが作り出した作品は掲示板から多くの要求を受けている。報酬は全てホムンクルスの物なので、この報酬がモチベーションの向上につながっているのだろう。


この熱気あふれるモノづくりブームは、我が王国の製造業の基礎となるかもしれない。






ところで、掲示板で運命書を頼む奴らが結構いるんだが、どうなっているんだ?何を考えて要求しているんだ?恥ずかしいんだが。


まぁ要求品の割に報酬が豪華だから別にいいけど。どうせ存在しない、自動生成された依頼書だ。いくらでも納品してやる。
















今日のログインボーナスとして5連ガチャコインを手に入れた。


昨日に続いて5連ガチャとは。一体何が起きているのだろう?運営チームに何か問題があったのか?


俺は不思議に思いながらも、5連ガチャコインを実体化させ手に取る。もうすぐ何か特別なイベントがあり、そのためにログインボーナスを豪華にしているのではないかと期待するが、考えるだけ無駄である。


この杜撰な運営にそんな企画力があるとは思えない。


少し不安を抱きながらも、俺はガチャを回す。俺にできることはガチャを回すことだけなのだ。





俺は不安と好奇心などが混ざり合った複雑な心境でガチャを回す。


この謎めいた状況が一体どうなっているのか、今の俺には知る由もないのだ。









ガタンッ








R『スキル 自爆』

C『二階から落とした目薬』

C『豚の貯金箱』

C『緑チューリップの球根』

C『大阪メトロ 南森町駅 1日駅長権』







うーん、相も変わらずゴミが多い。もう少し役に立つものを出してくれ!


まぁ、それでは検品といこう。


俺は手に入れたアイテムを確認する。






まずはスキル。自爆。自爆ねえ。ゲームとかでは、自分が死ぬ代わりに敵に絶大なダメージを与えるという、まぁまともに使われることのない、ギャグとして面白半分で使われる能力だ。



このスキルはどうだろう?


俺はスキル一覧より能力を確認する。




●自爆


レッツ自爆!


山田様の体が大爆発します!もう打つ手が無いときにこのスキルを使い死にましょう。


爆発オチを私は見てみたいです。是非使ってください。ふふふ。







彼は自分の中に湧き上がる感情を抑えきれなかった。は?



「クソ野郎ッ」


何でブックメーカーはこんなにノリノリなんだ?昨日の生命保険でも思ったが、こいつは俺に死んで欲しいのか?


自爆という理不尽、そして爆破オチのためだけに俺にこのスキルを使わせようとすることに怒りが湧いてくる。


誰が、爆死オチのために死んでたまるか。



あーあ、これが秘伝書とかで出現してくれたら、アンデッドに習得させて突撃させたのに。


自爆スキルが秘伝書などの特別な方法で得られたならば、アンデッドなどの存在に使わせて敵を一掃する戦略を立てることができたかもしれないのに。


しかし、現実には自爆スキルは俺に与えられてしまったのだった。













…残りは何の変哲もないガラクタだった。



そんなわけで今日の無料ガチャ!








ガタン












UC『紅葉狩りハンター伊能忠敬』






伊能忠敬。

1745年に伊能忠敬は生まれた。日本史の教科書にも登場する、日本地図『大日本沿海輿地全図』を作った人だ。


なんとこの人は51歳から天文学を学び始め、56歳から日本地図の制作に取り掛かった。残念ながら地図が完成する前に亡くなってしまったが、その後は仲間たちが伊能忠敬の意思を継ぎ、地図を完成させた。


伊能忠敬は地図の作成のために緯度の距離を求めたのだが、その誤差はおよそ1000分の1と、極めて正確なものだ。江戸時代なのにすごい。







ガチャの後ろに、立派な鎧を身に纏った武士が佇んでいた。



その身体を包む鎧は、金色に輝き指先に至るまで、拘りの職人が手を抜かず丁寧に作り上げた一級品だ。素人の俺でもわかる。


さらに、長大な柄を持つ刀を備え、頭上には高貴な毛髪を帯びた兜を載せ、その顔には怖ろしい仮面がつけられていた。




ひえっ、何だこの殺気!こいつが伊能忠敬?絶対違う!怖すぎるし何で天文学者がこんな鎧を着てるんだ⁈



鑑定!



●紅葉狩りハンター伊能忠敬


パラレルワールドの伊能忠敬さんは、死を迎える前に驚異的な偉業を成し遂げました。彼は日本地図の完成を果たしたのです!


魑魅魍魎が跋扈する日本地図を作成した伊能忠敬さんは、その知識と才能を活かし、秋の風物詩である紅葉狩りにおいて星見屋として活躍していた。


伊能忠敬さんの手によって作成された地図は、まさに驚異的な正確さで、彼は魑魅魍魎が潜む山や森、鬼が徘徊する渓谷などの危険な場所の地図を作成しました。


彼の地図がもたらす正確な位置情報と知識は、多くの人々を魅了し、秋の風物詩を一層豊かなものにしていたのです。





いや、意味がわからん⁈


魑魅魍魎が跋扈する日本?パラレルワールドの日本危険すぎるだろ⁈


というか、そんな危険地帯の地図を作るなんて伊能忠敬何もんだよ⁈何でそんな力持っているんだ⁈





「一つ問いましょう!秋は何の季節ですか⁈」


「え、食かな?」と深く考えずに答えた。


どうやらそれの答えは間違いだったらしい。伊能忠敬は大きく声を上げた。


「狩りの秋です!」


「秋の訪れとともに山々は豊かな宝物が多く眠ります!しかし、その美しい風景の裏には貴重な薬剤や肥え太った獲物、そして魑魅魍魎といった存在が跋扈しているのです!」


「秋には腕自慢の武士たちが勢いを合わせて集団で狩りを行うのです!紅葉狩りというその名も響き渡る行事で、私は星見屋としても大いに活躍することでしょう!」


彼の熱くうるさい言葉はショッピングモール中に響き渡る。


彼の力強さと覇気ある態度は、まさに熱血漢。暑苦しい、非常に暑苦しい。



「さぁ、私はどんな地図でも作りましょう!邪魔者は全てこの刀で切り裂きます!」



物騒すぎる。というか、この伊能忠敬、何歳なんだ?老人としてはあり得ないくらい元気いっぱいなんだけど。



あと絶対俺の世界の伊能忠敬、こんな人じゃないだろ。名前が同じだけの別人だ。伊能忠敬要素、地図作りだけだもん。





その後伊能忠敬にダンジョン第1層と第2層の地図を作るように命じた。今でもこの層は遭難者が多発し正確な地図を求められていた。


だが伊能忠敬は一人では時間がかかる、地図作成の知識に長けた人員を要求してきた。


だがそんな人材王国には存在しない。なので俺はホムンクルス製造機のことを教えた。何か地図作りに関する物を入れて合成すれば、それに関係したホムンクルスが生まれるぞと。


そう言うと伊能忠敬は紫雲望遠鏡、測星杖、紅玉鏡、星霊羽衣、朧月傘の5つの道具を材料として、5人のホムンクルスを作り出した。魔王軍測量隊の誕生である。





いや、え?

どこからそんな大きな傘や望遠鏡持ってきたの?この腰の袋の中?


いやいや、そんな小さな袋に傘なんて入るわけないじゃん。


だが伊能忠敬曰く、袋の中は空間が歪んでおり、見た目以上に物が多く入るとのこと。え、何それ。四次元ポケットかよ。


























第61層司令官 中層暗黒魔術師団長 ヘル・エメラルダス・マトル 視点






かつて、我ら暗黒魔術師団と暗黒騎士団は長い間にわたって激しいライバル関係にあった。どちらも鍛錬を怠らず、ダンジョンマスターのために戦ったという。


しかし、ダンジョンマスターが耄碌してからは、その関係性は大きく変わることとなった。


クソ真面目な暗黒騎士団長は、ダンジョンマスターの浪費やダンジョン内の組織の腐敗、ダンジョンの運営について繰り返し助言をしようとした。


正義感の強いあいつは腐敗する組織の将来を危惧して、ダンジョンを昔のように精強なダンジョンに戻そうと努力した。


しかし、ダンジョンマスターはその助言を鬱陶しがり、冷遇するようになった。


あの間抜けなダンジョンマスターに言っても、無駄だというのに。


その後暗黒騎士団は予算の削減や厳しい制約の導入など、数多くの嫌がらせをされた。



だが、我ら暗黒魔術師団は違う。


私はダンジョンマスターのために多くの贈り物や、彼女が喜ぶ魔術の開発などを行い、あの間抜けを魅了し続けた。


その結果、暗黒魔術師団は勢力を拡大し暗黒騎士団をしのぐ存在となったのだ。


今や暗黒魔術師団はダンジョンマスターの信頼と支持を得るに至り、我らの地位は揺るぎないものとなった。


一方で暗黒騎士団に対する苛烈な嫌がらせは勢いを増していた。



…にもかからず暗黒騎士団は、嫌がらせにも負けず日々努力し勢力の衰えはほとんどない。あの間抜けが耄碌してからも騎士団長の地位に居続けているのだ。そのカリスマは流石というべきか。


最近はまた無駄な助言をして罰を食らったという。何でも暗黒騎士団の偵察隊が全滅し、すぐにでも敵軍を殲滅するように助言したとか。



暗黒騎士団は全団員が厳しい鍛錬により鍛えられた精鋭だ。そんな精鋭が何もできずに死ぬとは。



…流石にあの耄碌したババァも、何か手を打っているよな?




一抹の不安を感じながら、ベッドに入る。今下層部に対して兵力を送ることは禁止されている。どうせあのババアのことだ、久しぶりの侵入者をすぐには潰したくないとかいう、馬鹿げた理由だろう。


明日にでも、何か理由をつけて偵察兵を送るべきか。




そんなことを考えながら、目を閉じようとする。眠い。




しかし、その瞬間、ベッドが不気味な光沢を帯びた銀色の何かへと一瞬で変貌する。先ほどまでの温かく心地の良い肌触りのベッドが、恐ろしく冷たい粘りのある何かへと変わった。そして彼女の肌を覆い、視界が覆われる。




「は?」



ゴックン。




●第61層司令官 中層暗黒魔術師団長 ヘル・エメラルダス・マトルが死亡しました。報酬として、魔法関連アイテム確定ガチャコインがプレゼントボックスに追加されます。












「ヘル様?何か物音が聞こえましたが、何かありましたか?」



「いや?気のせいだろう。そんなことより、中層暗黒魔術師団幹部を可能な限り集めてくれ。戦の準備だ」



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