え⁉今からでも入れる保険があるんですか⁉

ダンジョン第3層。それは知恵を必要としない、力と力のぶつかり合い。


両軍は一つの長い通路を舞台に敵軍と真正面から衝突し潰し合うのだ。


前の味方が死んだら一歩進む。敵が死んだら一歩進む。


後退は不可能。後ろには大量の兵士が敷き詰められているからだ。

まさに数と数の押し合い。死体で地面が覆われる地獄絵図。


ダンジョンを守護する魔物たちにとって、それは避けようのない地獄だった。




魔王軍はこれまでの戦いで鍛え上げられた精鋭たち。なぜか豪華なドロップアイテムで武装した、戦闘型ホムンクルス相手に作業のように撃破される。


7号を通じた一糸乱れぬ壁のような陣形は突破不可能。どれだけ攻撃しても巧みな連携の前になすすべがない。



そして最悪なことに、このダンジョン第3層はマッドサイエンティストの兵器実験場として、徹底的にデータを搾り取られるのだ。




次から次へと新兵器が実戦投入される。

その中でも主力兵器として活躍している兵器がある。


その名も、おめでとうバズーカⅡ。


アンデッドの人魚、レーンが率いる飛行可能なホムンクルスで構成された魔王軍音楽隊はこのバズーカを使い、敵軍を攻撃する。


しかし届けるのはお祝いの言葉ではない。呪いの言葉である。


寿命を削り、心身を蝕む呪いの言葉だ。それをバズーカにより、凄まじい大音量で敵兵に向け放射、呪いの言葉を届けるのだ。


敵兵は突然の轟音により鼓膜は破られ、呪いの言葉により全身に疲労感、寒気、脱力など多くの症状に襲われ衰弱死する。




そしてもう一つが砲弾だ。


我が魔王軍砲兵隊が撃ち放ち、弧を描いて敵軍の奥深くに着弾する魔弾。


弾種はケーキサンプル弾。


闇を司るチョコケーキサンプルを解析して製造された照明弾とは真逆の性能を持った弾薬。


砲弾は地面に着弾後大爆発。周囲の兵士は爆風で吹き飛ばされ、熱により火傷させる。


さらに大量の破片が飛び散るのだが、この破片にチョコケーキサンプルの性質、一定範囲内を完全に真っ暗にするという力により敵軍は何が起きたのか分からず恐慌状態に陥ってパニックだ。



その他にもロボット騎兵隊、ラジコン星間戦闘機などによりダンジョンはマッドサイエンティストの玩具となっている。


俺はやることが無くなった怠惰な指揮官と共に、ステーキを食べながら前線でボロ雑巾のようになる敵軍に同情した。


隣でマッドサイエンティストは良いデータが取れたとニコニコしていた。ドン引きだよ。








さて、無料ガチャ!





今日のログインボーナスは5連通常ガチャコイン。

おお、今日のログインボーナスは随分太っ腹じゃないか。


今までのログインボーナスは一回しか回せないガチャコインを一枚だけもらうというもの。しかし何故急に豪華になったんだ?


何かあったのだろうか。まあ考えても仕方ない。



では、ガチャ!




ガタンッ











C『シークヮーサー炭酸ジュース』

HR『道連れ生命保険』

C『群馬ハリウッド村フリーパス』

R『失われた奥義』

C『淀川 直送天然水』




うん、いつも通り。


使えそうな物は『道連れ生命保険』と『失われた奥義』だろうか。



だが失われた秘伝書は非常に古びていて、多くの傷やしわがあり、色褪せていた。


中のページは黄ばみ、汚れ、折り目などが目立ち非常に読みにくい。そもそも書かれている文字が見たことの無い文字で書かれていて何が書かれているのか本当にわからない。


鑑定してもこの字が読めるようになるわけではないので、鑑定しても無駄だろう。






そしてよく分からないのは道連れ生命保険だ。出現したのは一枚の契約書だった。『道連れ生命保険 契約書』『YOUR NAME』とだけ書かれた、上質な紙。





生命保険。


生命保険は加入者が死亡時に、保険会社が一定の保険金を支払うことを約束した契約のこと。


この保険金は経済的に苦しまないように基本的に遺族などに支払われるのだが、道連れという、不穏なワード。生命保険という組み合わせだ。非常に嫌な予感がする。




何に鑑定を使うかは無料ガチャを回してから決めるとしよう。







無料ガチャ!







ガタンッ








C『九州在住マッケンジー夫妻のおいしいクランベリー添えの七面鳥』






「クランベリー添えの七面鳥」。俺は今までに七面鳥を何度か食べたことがあったが、クランベリーの添え物というのは初めてだった。


好奇心と期待で胸がいっぱいだ。


だが不安もある。肉と甘いソースは合わないだろ。やっぱり肉は塩と胡椒、他には味の濃いソースが一番だ。


フルーツを使った甘酸っぱいソースが肉に合うとは思えない。


だが出現した料理はその思いを吹き飛ばした。


皿には香ばしい七面鳥の薫りが広がっており、金色に焼きあがった皮は食欲を刺激する。まさに至高の一品といえる出来栄えだった。俺はロマネコンティをグラスに注ぎ、美しい色合いのクランベリーソースを七面鳥に添えた。


ナイフとフォークを手に取り、俺は七面鳥の身を切り分ける。やわらかくジューシーな肉は、口の中で広がる旨みで俺を魅了した。クランベリーソースとの絶妙な相性は、甘酸っぱさと七面鳥の風味を引き立て、舌の上で踊るような味わいを生み出していた。



もう、本当に旨い!クランベリーソースと七面鳥がここまで合うとは思わなかった。


俺は一口食べる度に、クランベリー添えの七面鳥の素晴らしさに感動していく。俺は料理を堪能し、敬意を払った。



顔も知らないマッケンジー夫妻よ!ありがとう!感謝!









さて。



何を鑑定するか。


七面鳥は当然ながら鑑定不可。既に俺のお腹の中にあるからだ。ジュースと群馬ハリウッド村とかいう、聞いたことのない遊園地のフリーパスも論外。



失われた奥義は結構興味をそそる。武功のように役に立てるかもしれないが、武功『不壊門』とは違ってなにを書いてあるのか読むことができない。意味のわからない文字で書いてあり、もし鑑定しても読むことはできないだろう。





というわけで、今日はこの道連れ生命保険を鑑定することにする。








鑑定!


●道連れ生命保険


正式名称『道連れ生命保険 〜愛称 君、弱すぎ。そんな雑魚なお前にはこの陰湿な保険がお似合いだ〜』


あなたが戦死した時、それは誰かに殺された時です。敵は勝利を祝い、仲間と笑い、酒を飲むでしょう。


そんなの許せますか⁈


この保険はあなたが死亡する要因となった敵に対して私たちハゲタカ保険組合が攻撃を行うというものです。


いまなら何と、たった金塊1000kgで山田様にだけ、最高レベルの報復が行われるインペリアルコースをご紹介いたします!


さらにこの保険はいつでも!加入できます!

 

さあ、あなたもこの『道連れ生命保険〜愛称 君、弱すぎ。そんな雑魚なお前にはこの陰湿な保険がお似合いだ〜』に加入しませんか?








……なるほど。確かにこの説明には一理ある。俺の死体の上で敵が笑うなんてそんなことは許せない。

俺を殺した奴には相応の報いを受けさせてやる。


それにインペリアルコースだ。ハゲタカ保険組合、名前が信頼できないが、鑑定が説明する内容は基本的に真実。徹底的に復讐をしてくれるだろう。




だが、俺は死んだ場合どうなるのだろう。本当に死ぬのか?それとも何事も無かったかのようにリスポーンでもするのか?



分からない、だが、俺は一応あいつらの王なのだ。俺の死亡時、こいつらが少しでも楽になるのなら俺は喜んでサインしよう。


俺はこの契約書にサインした。





ただ一言言わせてくれ。




ネーミングセンスクソだな。


〜愛称 君、弱すぎ。そんな雑魚なお前にはこの陰湿な保険がお似合いだ〜って何だよ。ハゲタカ保険組合とかイメージ悪すぎ。









その後、賭博場で保険を売り込むホムンクルスが出現した。


彼が扱う保険は破産保険。賭博場入場前に一定額支払うと、一文無しになった場合は一定額支給されるらしい。


次から次へと破産するホムンクルスたちは、この破産保険に殺到した。もし破産した場合、その日はベーコンキャベツと蜜柑ジュースだけになるからだ。


それを避けるために加入しているのだろう。


俺は保険料で大儲けしているホムンクルスより税金を徴収した。やったね、税金が増えたよ!

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