都合の悪い物はぶっ潰せ!
ホムンクルスの製造が次々と完了し、このショッピングモールとホテルは非常に賑やかになってきた。
人数が増えたと言うことは、当然ながら経済も活性化する。人が増えれば増えるだけ、金を使う人が増えるのだ。当然である。
そして大量に増えたホムンクルスは一体何に金を使うか。
そう、飲食である。このショッピングモールにおいて飲食店は3店舗しかない。
そこに何百人ものホムンクルスが集中するのだ。これは大儲けだな、俺は気楽に考えていたが、一つの問題が発生した。
凄まじく混雑するのだ。そのためバーテンダーや寿司職人K、騎士パーシヴァルは大忙し。
この事態の解決のため、バイトを募集し始めた。元から影響されやすいホムンクルスは飲食店の店員に憧れのような物があったのだろう。すぐにバイトは集まり、ホムンクルス達は働き始めた。
ここでさらに問題が生じた。普通に前線で命をかけて戦うホムンクルスよりもお金がもらえるのだ。
俺は慌てて、ダンジョン攻略に参加したユニット、さらに造幣局で働くユニットや、ダンジョンで大きく活躍したユニットには特別手当として追加の賃金を支給することを決定とした。
財源は少しずつベーシックインカムより徴収していたお金だ。
もちろんそれだけでは足りない。なので俺はこれまで税金を納めることなく大儲けしていた店舗より法人税を徴収することを決定した。
もちろん不満はあったがそれ以上に利益が出ているので問題はないらしい。良かった。
さらに俺はこの財源を利用して清掃のバイトを雇った。ホテルや地下の駅、ショッピングモールの掃除である。ダンジョンから出入りするユニットが増えたため、ほこりや塵、汚れが目立ち始めた。
今までは目についた何人かのホムンクルスに命じて一日だけの掃除をさせていたが、これからはしっかりとした報酬を渡すことにした。
ダンジョン攻略で負傷し休憩中のユニットの良い副業となるだろう。
今日のログインボーナスは通常ガチャコイン。
ガタンッ
C『進化する飛車』
飛車。将棋において使用する駒の一つ。将棋は古くからあるが最初期には飛車という駒は無く、鎌倉時代に考案された駒である。
飛車は王を除いて、最も重要な駒の一つ。角行と並び攻撃の要となる駒であり、この駒を対戦相手に取られれば非常に不利な状況に陥ってしまう。
将棋の駒は相手の陣地に入るなどの条件を満たすと「成る」ことができ、駒を裏返し全く別の駒となり性能が大きく上昇する。
飛車が成ると竜王という駒になり、ただでさえ強力な飛車はさらに強くなる。
飛車は縦と横に敵の駒が無い限り何マスも動くことが出来るのだが、竜王はさらに斜めに1マスだけ動かすことが出来るようになるのだ。
「ヘボ将棋、王より飛車をかわいがり」という言葉がある。
この飛車ばかり重宝し、王よりも大事にした結果敗北するプレイヤーのことを表した言葉である。
出現したのは、何の変哲もない、小さな将棋の駒である。
使っている木材の質は良さそうだ。字も達筆で飛車と書かれており、非常に高そうな雰囲気を放っている。
……それだけ。特に何も起きない。
駒を見る。うん、特に何も起きない。普通の駒だ。
これの何処が進化するのだろう。これに経験値を蓄積させれば、何か起きるのか?でも、俺やユニットのような生き物だけじゃ無く、物にも経験値は貯まるのか?
俺は何気なく将棋を裏返してみる。
そこには赤字でこう書かれていた。
『女王』
女王…?
……え、なんで女王?竜王じゃなくて?どう考えても竜王よりも弱いと思うんだが。
というかこの駒、どう動くんだ?
あ、チェスか!
チェスにはクイーンという駒がある。将棋の飛車と角を合わせたような力を持つ駒で、縦横斜めに無制限に動かすことが出来る。
なるほど、確かに進化しているな。普通の将棋の中では確かに最強の、進化した飛車ともいえるだろう。
………で?だからどうした。こんな駒、使えないじゃん。
その後、ホムンクルスの一人がこの駒の貸し出し申請をしてきたので紛失しないよう注意して貸し出しだ。
ホテルの受付には客に貸し出すためにトランプやオセロなどがあり、その中にも将棋はある。
この将棋を友達のホムンクルスとするのだが、ジョークグッズとして使いたいそうだった。
その後、俺はそのホムンクルスから衝撃の報告を聞く。
なんとこの将棋の駒を使って遊び、友達を驚かせようとしたのだが、なんと友達は驚く様子はなく、女王に成った駒相手に特に何の反応を示さず、無双する女王相手に敗北したのだった。
勝負終了後、友達はようやく女王に気づき、友達を怒った。友達のホムンクルス曰く、何の違和感も覚えなかったそうだ。
マッドサイエンスの調査の結果、将棋中対戦相手は違和感を覚えなくなる効果があるようだ。
それだけ。もっと違うことにその効果使おうよ!
それでは、無料ガチャ!
ガタンッ
SR『概念破壊 質量保存の法則』
質量保存の法則。どれだけ時間がたっても、形が変わっても質量は変わらないという法則。
「近代化学の父」と呼ばれたフランス人、アントワーヌ・ラヴォアジエという、酸素の命名を行った偉いおじさんが1774年に発見した法則。ちなみにこのおじさんは最後、フランス革命時にコンコルド広場でギロチンにより処刑されてしまった。その際裁判長に「共和国に科学者は不要だ」と言われる。
さらにこのラヴォアジエの逮捕は、革命の指導者の一人、ジャン=ポール・マラーがかつて提出した論文がラヴォアジエにより却下された逆恨みであるという説もある。ひどい。
様々な分野で使用される法則であり、そのため日本では多くの学生がこの法則について学ぶ。
出現したのは、一枚のプレートだった。おそらく黒曜石のような素材で構成されており、俺の顔が鏡のように反射されている。プレートは俺では解読不能な文字が長々と刻まれていて、神秘的な雰囲気を感じさせる。
そして何より、このプレートは未知の力で浮遊している。
概念破壊。
あぁー、一目見て俺はやばいと感じてしまった。
不穏だ。概念はそもそも破壊なんて出来ないし、破壊する物じゃないんだよなぁ。
概念なんか破壊したら何がおこるか本当にわからない。しかもそれが質量保存の法則ならなおさらだ。
………そこまで考えて俺は気づいた。今更じゃないか?
俺はミダースの手によりあらゆる物質を黄金に変える能力を持つのだが、それは1キロの物を1キロの黄金に変えるというような重さを基準にした物では無く、1立方メートルの物を1立方メートルの黄金に変えるという、体積基準のスキルなのだ。
……つまり、一枚の軽い紙を、一つの紙の形の、重い黄金に変えることが出来るのだ。
なので俺はもう質量保存の法則を無視している。
鑑定!
●概念破壊 質量保存の法則
このプレートは破壊不能オブジェクトです。このプレートが存在する限り、あなたを中心とした一定範囲内と、あなたが治める領土内では、魔法などの使用時、質量保存の法則による抵抗を無視することが出来ます。
創造魔法などをこの世界で使うとき、質量保存の法則の抵抗により使用する魔力が大幅に上昇または魔法の使用難易度が上昇しますが、このプレートがある限りその法則を無視し、抵抗を無力化できます。
使いたくない場合はプレートに一定量魔力を流し込めばオンとオフの切り替えが可能です。
あ、ダンジョンはこの世界の領域では無いので、元から質量保存の法則による抵抗はありません。
つまり、前線で戦うホムンクルスは今まで通り何の抵抗もなく、いつも通り魔法を使うことが出来ると。
そもそもこんな物無くても、ショッピングモールやホテルではなく、ダンジョンに入って創造魔法を使えば良いのでは?
●ダンジョン第61層『悪性商業魔法都市 カオス・フォートレス』
ぷるぷる
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