うわあああああ、いやだぁ!

奴隷剣闘士のルーカスは何故か俺に対して感謝しており、これからマスターとして忠誠を捧げると言い出した。


なぜ?なぜおまえは初対面の俺に対してそんな感謝しているんだ?はっきりいって全く心当たりがない。


ルーカスは意気揚々と語ってくれた。


自分が少数民族『イーラ』出身であり、森の中で一族と共に暮らしていたこと。

奴隷狩りにあったこと。一族を守るため殿として戦い、数多くの奴隷商人とその手勢を打ち取るも奮戦むなしく囚われてしまったこと。


その後闘技場に売られ、奴隷剣闘士として休みなく戦い続ける日々。

まともな食事もなく、武器だって碌な手入れのされていないガラクタ。


そして限界が訪れた。明日の試合で俺は死ぬだろう。




そんな中、あんたが俺を召喚して助けてくれたってわけだ!




召喚?



おう、あの魔道具で俺を召喚したんだろ?にしても変な形だなあれ。





いろいろ聞いたが、こいつはガチャについて、何も知らなった。

俺がなぜ監禁されているのかも、ガチャガチャの存在そのものも、運営のことも何も知らない。


今までガチャで排出されたものは、大きく分けて3パターン存在する。


バーテンダーのように、俺がガチャを回した瞬間に1から生成されるタイプ。

ヘルメスのお地蔵様のように、モデルとなったものをコピーして生成するタイプ。

ルーカスのように、どこからか召喚されて排出されるタイプ。





ルーカスは自分の人生について簡単にだが、語ってくれた。

これは、そういう設定のNPCなのだろうか。







今日のログインボーナスは、乗り物確定ガチャ。




いや、今乗り物もらってもなぁ。

乗り物をもらっても燃料なんてないし、そもそもこの部屋から出られない以上、不要だ。

だが回さないという選択肢は存在しない。何がでるのかわからないガチャ、もしかしたら思わぬものが脱出のきっかけとなるかもしれないからだ。





ガタンッ






UC『ゲパルト自走対空砲』


大きな衝撃とともに現れたのは戦車だった。

大きな戦車だ。キャタピラの中には多くの車輪があり、その多さがこの戦車の重量を示して言える。

ゲパルトの車体の上には左右一門ずつ、大きな対空砲が設置してある。これなら射程内に入ればどんな航空機でも撃ち落とせるだろう。

車体後部には大きなアンテナが設置されている。ゲームで見た通りならこれがくるくる回転するのだろうか。


幸いにして壁際で実体化したのでそのまま放置。










ではでは無料ガチャ!






ガタンッ






は?


排出されたのは金色のカプセル、SSRと刻まれている。

まじで⁈来た!






SSR『首無し』








カプセルを開けた瞬間、部屋の電気が消え真っ暗になった。

おかしい。この部屋の電気は夜になったら薄暗くなるだけで真っ暗になったことは一度もない。



光が戻る。





それは目の前にいた。

黒いスーツに、薄い黄色のコートを着た男。

顔がない。


いや、顔だけではない。首や胸。本来あるべき場所に、あるべき肉体がない。



他の、皮膚と言える場所はどうだろうか。いや駄目だ、手袋やブーツを付けているから皮膚がみえない。



恐怖した。

理解不能の存在。本能的な恐怖を訴えてくる





さがれマスター!





ルーカスが俺の前に出て剣を向ける。



駆けつけてきたホムンクルスやカワウソ、バーテンダーに機械馬が首無しを包囲する。




そ、そうだ。何が理解不能だ!俺には鑑定があるじゃないか。




鑑定!




●首なし


発見場所 ロンドン  時代 1970年11月20日


起源不明。正午12時のロンドン市街地にて現地住民により目視にて初観測。

首無しを中心に領域を展開。領域内を強制的に夜にし、魔力を使わない光を消失、領域内に閉じ込める能力を確認。30分後スコットランドヤード偵察魔術部隊が結界侵入後捕縛。抵抗はほとんどなし。


空間に閉じ込められた民間人は突如として魔術と芸術に対して高い興味を持ち始めた。精神洗浄や記憶消去などによる治療も効かず、彼等は数多くの魔術作品を民間に流通させ多くの事件を発生させた。

その後首無しは【編集済】により日本に引き渡された。




…まずい、いろいろまずい。

鑑定してもこいつがいったい何なのか全くわからなかった。

わかったのは、暗闇に閉じ込めて周囲の人間の精神に干渉する。そして俺たちは暗闇の中に先ほどまでいた。





「…おや。警戒されているのですね」


首無しは語りかけてくる、口がないにも関わらず。



「お初にお目にかかります。私の名は首無し。スコットランドヤードが私に対して与えた名です。名乗る名がこれしかありませんので。申し訳ない。」



紳士的な、礼儀正しい口調で頭を下げる。




「まずいぞ。こいつ、化け物だ。」



ルーカスだけでなく、皆が顔を強張らせる。




「落ち着いてください、勇敢なる戦士たちよ。私は戦闘が得意ではありません。たった数人の警官相手に負ける程度です」




確かに戦闘能力はないだろう、だが人を狂わせることはできるはずだ。





「ああ、知っているのですね。千里眼などをお持ちで?」



そんなところだ。




「何か誤解があるようですが、私に敵意はありません。むしろ感謝しているのですよ」



感謝だと?




「はい、我々は今、非常に苦しい戦況の中戦っていました。あのままでは全滅していました。そんな中、あなたに召喚して頂いたおかげで私は助かった。」


「ええ、もしよろしければ、私の仲間も召喚していただければ幸いです。」







「…なぜまだ警戒しているのですか?そもそも、私たち召喚されたものの所有権はあなたにあります。嘘をつくことも危害を加えることも命令に逆らうこともできません」



「…そうなのか、皆」



皆が頷く。


じゃあなんで俺たちを一瞬だが暗闇に閉じ込めた?



「ああ、それは私の召喚時に発生する特殊演出です。SSRユニットですので、特別扱いなのでしょう」



一応、命じておく。俺たちに対して、おまえがガチャから排出される前の状態にもどせ。



「私に恐怖するのは構いません。このような見た目ですから。しかし、感謝をしているということだけはわかっていただきたい」



再び、頭を下げてくる。





まあ、お前に敵意がないことはわかったよ。



その瞬間、システムウィンドウがいくつか展開した。




『業績が達成されました!』


『初のSSRユニットを獲得』


『報酬として排出されたユニットの関連ユニット限定5連ガチャコインをプレゼント!』






は?





『日本国法務省特別囚人管理部6課確定5連ガチャコインがプレゼントボックスに追加されました』





「改めて自己紹介を。私は日本国法務省特別囚人管理部6課所属、首無しです。以後お見知りおきを」




つまり、この厄ネタと同じような奴らが5人も出てくるってこと?







うわあああああああ、いやだあああああ、回したくない!




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