告白

くにすらのに

告白

「俺、恋愛に興味ないから」


 モテない言い訳に使ってきた常套句。気付けば独身のまま40歳を迎えようとしていた。独身の友人は少なくなり、それぞれが家庭を持っている。


 SNSでかつての同級生の名前を検索してみるとそれぞれおじさん、おばさんになっていた。


 実家に帰ればお見合いだの婚活だのと小言がうるさい。それでも青春時代を過ごした場所がどんな風に変化しているのかは気になるもので、こっそり地元に足を運んでいた。


 大型のショッピングモールができて雰囲気はすっかり変わっている。もはや別世界で感傷に浸ることもできない。


 全国どこでも同じようなテナントが入っているモール内を散策しても新発見はない。ただただ無為に時間が過ぎていく。


「……帰るか」


 近所にも同じ店はある。休日に時間とガソリンを浪費しただけなのはあまりにも悲しい。さっさと帰って一杯やる方がよっぽど有意義だ。

 だが、その考えは一瞬で変わる。


 思い出の中にいる初恋の子がそのまま大きくなったような美人が知らない男と歩いていた。

 ただのそっくりさんにしてはあまりにも面影がある。周りはすっかりおばさんになる中、当時のあどけなさを残したまま成長したような可愛らしさだ。


「子供までいるのかよ」


 年は中学生くらいだろうか。二十代半ばで出産すればそれくらいの年齢になっている。お腹を痛めて産んだ子供が中学生。片や俺はずっと一人で生きている。人生の中身の差に吐き気を催した。


 あの日、社に構えずに告白していたら隣を歩いているのは俺だったかもしれない。


「今更言ってもな」


 相手は家庭を持つ身だ。今になって思いを打ち明けていいわけがない。


 でも、あの子なら……最近は年の差婚も多い。親子ほど歳の離れた夫婦も珍しくなくなった。


 子供を残し夫婦はどこかに立ち去った。これは天が与えたチャンスだ。鼓動が早くなる。こんなにドキドキしたのはいつ以来だろう。俺は今、青春を取り戻そうとしている。


「あの」


 スマホをギュッと握りしめて警戒しながら俺を見つめる。正しい反応だ。ほいほいと知らない大人に付いていくようではちゃんとしつけされているのか心配になる。


 母親によく似た美人で、思い出の中にいる子を現代風にアレンジした印象を受ける。よほど美人の血が強いらしい。まるで生き写しだ。


「実はお母さんの同級生なんだ。あまりにそっくりで、驚いてつい声を掛けてしまったんだよ」


 握りしめたスマホを利き手で触れて何か操作しているようだ。そんなに怯えないでほしい。


「お義母さんは本当のお母さんじゃないんですけど。人違いじゃないですか?」


「……は?」


 そんなはずはない。この場をしのぐ言い訳にしてももっと他にあるだろう。血は争えないとはよく言ったもので、キミとお母さんは本当によく似ている。父親の遺伝子が弱いんじゃないか?


「あの、うちの子に何かようですか?」


 声を掛けてきたのは母親の方だ。近くで見るとますます同い年には思えない。肌の艶も張りもまるで中学生だ。美魔女という言葉で片付けらない美貌を持っている。


「俺だよ。中学の時に同じクラスだった」


 首をかしげられると周囲が俺を見る目も少しずつ怪訝なものに変わっていく。


「怪しいやつだな。今警察を呼ぶから」


「違う。俺は本当に」


 父親……旦那に弁明しようと一歩踏み出したところで取り押さえられてしまった。俺は何もしない。一方的な誤解で暴力を振るうのはやめてほしい。

 必死に抵抗するも旦那の力は強い。暴れれば暴れるほど体の自由が利かなくなり、意識が薄らいでいく……。





「はぁ……はぁ……」


 目が覚めると見慣れた天井が視界に入った。使い慣れた布団は汗でぐっしょりと濡れている。今日は3月15日。中学の卒業式の日だ。


「将来の俺じゃないよな……?」


 40歳までずっと独身で、思い込みで子供に声を掛ける。最悪の未来だ。


「告白しよう」


 どうせダメでも、ちゃんとフラれれば未練は残らない、はずだ。

 たしか占いが好きだと言っていた。

 突然告白した理由を聞かれたら「夢占いで告白した方がいいって出た」なんて言い訳してみよう。


 告白する良い理由わけが出来た。

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