この場合の良い言い訳とは?

クマ将軍

三年B組〜! 飯分先生〜!

「授業ザマス!!」

「起立! 礼〜!」


 日本の某県にある公立高校にて、とある科目があった。社会的地位を損なわず、効率的な仕事を熟すための方法を教える科目……その名も『言い訳』科である!


「この授業の担当を務める私、飯分いいわけ信子は来年社会人になる、もしくは大学へ進学する貴方たちに最も重要な処世術を教えるざます!!」


 バンッ! と教壇を叩き、生徒を見回す飯分先生。

 彼女は先ず、出席名簿を取り出して点呼を始めた。


「佐田君!」

「はい!」

「斎藤君!」

「はい!」

「佐藤君!」

『欠席です!』


 佐藤という生徒を呼ぶと、他の生徒から欠席の報告がきた。

 そんな報告を聞いた飯分先生は、次の瞬間出席名簿を教壇に叩き付けた。


「これで通算二十回目の欠席でザマスね!!」


 と言っても無断欠席ではない。

 ちゃんと職員室で佐藤から欠席の連絡を受けていたのだ。それも毎回律儀に連絡してくれるので無断欠席だったことは一度もない。それにしたってこの欠席回数は尋常じゃないが、別に飯分先生が憤っているのはそこじゃないのだ。


「欠席するのは別に良いザマス! しかしあなた方もご存知のようにこの授業は『言い訳』科! この科目を履修するなら上手な『言い訳』を考えなくてはならないのでザマス!!」


 その点、佐藤の欠席する理由は実にふざけていた。


「毎回毎回法事というワンパターン!! 佐藤君の周囲で二十人ぐらいの方々が亡くなっているのでザマス!! 言い訳をするならもっとマシな言い訳をするでザマスよ!!」


 言い訳をしてサボるのは別に良い。

 寧ろサボるための言い訳は推奨されている。

 だがその言い訳の内容がワンパターン過ぎたのだ。


「せめてローテーションを組むザマス!! 月曜頭痛、火曜法事、水曜ボーイミーツガールした(動詞)、木曜冒険中、金曜ラスボスを倒しに行く、というように自然な流れを意識して言い訳を考えるザマス!!」


 例えがファンタジーだが自然な流れを考えるのは間違っていない。

 昨日事故に遭い入院したと言ったはずなのに、翌日普通に登校したら不自然だろう。一日だけサボるならその場合の言い訳は翌日に響かない程度の言い訳をしておくべきなのだ。


「言い訳にも適切な使い方があるザマス!! 雑に言い訳して『やったー! サボれたー!』と考えている内は遠くない日に突然留年やクビを言い渡されるので気を付けるでザマスよ!」

『はーい!』

「言い訳とは相手から情を引き出し、仕方ないから免除してやろうという考えをもぎ取る手段!! スケジュールすら考慮せず、雑にバレるような言い訳は言い訳じゃないでザマス!!」


 バンッ! とまた教壇を叩く飯分先生。

 この教師、教壇を叩きすぎである。


「ではこれからあなた方に状況別に適切な言い訳を一緒に考えるザマス!」

『はーい!』


 そう言って、飯分先生は黒板に文字を書いていく。


「『第一問。会社の取引が失敗した。どう言い訳をする?』……この問いにどう言い訳をするでザマスか!?」

「はい!」

「では飯田さんの言い訳を聞くでザマス!」

「『秘書がやりました!』」

「悪徳政治家!!」


 将来が心配になるほどの回答を得た飯分先生は教壇を叩いた。


「自身が失われる社会的地位を極力抑え、他者に責任を被せる王道にして外道の言い訳! 流石成績優秀な飯田さんザマス!!」


 飯分先生の褒め言葉に飯田という女生徒は喜んだ。


「しかし他人を理由にした言い訳は使いどころを誤れば自分にも牙を剥く諸刃の剣でザマス。下手すればその他人の言い訳が出てきて地獄の言い訳連鎖を生み、醜くも悍ましい光景が生まれるでザマス」


 そうすれば仲良く解雇だ。

 今度こそ言い訳のしようもない。


「なので特定の個人を対象にした言い訳は最終手段でザマス!」


 飯分先生はそう言って教壇を叩く。

 そしてこの場合の適切な言い訳を飯分先生が説明する。


「良いでザマスか!? 失敗した時点で既に手遅れ! 圧倒的損失! ですがここで重要なのは自分に向けられる責任を上手く分散することでザマス!! 自分一人だけ責任を負えばそいつを解雇するだけで、少なくとも先方に対する誠意を見せることで一応の解決を見せるザマス!」


 しかし解雇された自分はどうなるのか。

 下手すれば懲戒免職。給料なしの極貧生活。転職もままならない始末。


「しかし責任が会社全体へ分散するよう言い訳をすればどうなるザマスか!? 行き場のない責任追及がなぁなぁになり「今回は失敗したけど次は頑張ろうなみんな」という流れに持っていく! 会社全体の信用は失いますが、先ず真っ先に解雇されてお先真っ暗になる可能性は減ったでザマス!!」


 言い訳とは自分の身の安全を守る手段である。そして困難を一先ず乗り越えれば、後は内心反省して繰り返さないようにした方がいいのだ。

 え? それで会社が倒産したらどうするって?


 ……その時はその時である。




 ◇




 そうして時間が流れていく。


「では次の問題を――」


 そう言った瞬間、チャイムが鳴った。


「――時間ザマスね! それでは号令!」

「起立! 礼〜!」

『ありがとうございましたー!!』


 こうしてまた今日も言い訳の真髄を教えられた。

 まだまだ未熟なれど言い訳は人生で何回も使うだろう。

 未来ある生徒たちには是非言い訳ぢからを養ってもらいたい。


 それはそうと。


「最後に言っておくべき話があるザマス」

『?』




「あくまでネタですので悪質な言い訳はやめるザマス!! 実際に実践しても当小説及び作者に責任はありませんので悪しからずでザマス!!」

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