星屑の光に溺れて、君を見る

LeeArgent

前編

 あいつに惹かれ始めたのはいつだったか。

 初めてあいつに声をかけられた、入学式の日だっただろうか。

 それとも、教室の窓際で本を読みながら髪をかき上げるあいつを見た時からだっただろうか。


 ただ、あいつのことをどうしようもなく好きだと気付いたのは、紛れもなくあの日からだろうと思う。


.。*゚


「ウィリアム。ウィリアム・カークランド。聞いているのですか」


 化学の授業中、担任教師から声をかけられて、俺はハッと我に返った。

 ぼうっとしていたらしい。俺は、教室の前方にある壁掛け時計を見て、授業が終わりに差し掛かっていることに気づく。

 元より俺は、あまり勉強熱心な質ではないが、こんなにもぼぅっとしているのは我ながら呆れてしまう。全部あいつが悪いんだ。あいつの髪が、あまりに視界をちらつくものだから。


「これにて授業を終わります。カークランドは後で職員室に来るように」


 担任教師が、俺の顔をじとっと見つめてくる。あーあ、めんどくせ。


「目をつけられちゃったね」


 俺より一つ前の席に座っていたが、振り返って笑う。苦笑とも、からかいともとれる、曖昧な笑い方。


「誰のせいだと思ってんだ」


「え? 誰のせいって?」


 きょとんとするあいつの顔。俺は鼻で笑ってやった。

 お前のせいだよ、クリストファ・ワーカー。


 クリスは、少しだけ長い金の髪を耳にかけながら、俺の言葉の意味を考えてやがる。


「でも、さっき習ったところは次回の期末テストで出すって、先生も言ってたから。ちゃんと復習しておかないと」


「げ、まじで?」


 クリスの言葉に、俺は顔を歪めた。

 内容なんて全く聞いてなかったし、黒板はもうすっかり消されてやがる。テストで出るってことは、かなり大きな点の配分になりそうだ。

 途中までは覚えてんだ。星屑の結晶を燃やすことで爆発的なエネルギーが得られる。だが、従来の火で炙る方法じゃあまりに危ないからってんで、今は別の方法が使われてるとかなんとか。

 あー、覚えてねーよ、そんなん。


「ウィル、今夜時間ある?」


「んあ?」


 クリスが尋ねてきた。

 今夜だって? 時間なら有り余るほどにあるけどよ。


「なんで?」


「今日の復習。ウィル、どうせ授業聞いてないでしょ?」


 あーくそ。聞いてませんよ。ケラケラ笑ってんじゃねぇよ。

 誰のせいだと思ってんだ。お前の金髪が目の前をちらついて、気になって仕方なかったんだ。俺のせいじゃねぇ。


「せっかくだから、実験しようよ。先生が言ってた、星屑の炙り方」


「実験ならいつでもできるだろ? なんで夜なんだ」


「いいから。ね」


 クリスは俺の目をじっと見つめてウインクしてくる。今時、女でもウインクなんてあざといことする奴いねぇぞ。

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