いいわけつぶし

真名千

いいわけつぶし

「せんせー、英語を勉強して何の意味があるんですかー?日本から出て生活するつもりないし、もしも英語が必要になってもAIを活用すればいいんじゃないですか?」

「そうだ!そうだ!」

「うちらが社会に出る頃にはAI使った翻訳機が完成しているってー」


 生徒たちが勉強したくない言い訳にずいぶんと無理のあることを言いはじめた。AIを進歩させるためにも英語力が必要なのに――個人レベルでは恩恵だけ受け取ることが最適なのかもしれない。AIでなくなる職業があると聞かされた育つ生徒たちの気持ちを思うと単なる勉強したくない言い訳と切り捨てるのも可哀想だった。

 英語の先生は正面から取り合わず、明後日の理論で生徒たちのモチベーションを引き出そうとした。


「そうは言うけれど……もし君たちが明日トラックに引かれて異世界転生したとしよう」

「「うん?」」

「異世界では謎の力で日本語が通じるかもしれないけど、それなら英語は通じない。通じない言葉を知っているってことは、それを暗号として使えるということ!第二次世界大戦のときのアメリカ軍はネイティブ・アメリカンの言葉を暗号として使ったんだ。君たちが異世界に行った時のために暗号として使える英語を覚えておけば、仲間にだけ英語を教えて有利に立ち回ることができるんだよ」

「「???」」


 生徒たちは煙に巻かれてしまった。彼らの考えがまとまらないうちに英語の先生は課題を出した。

「よーし、じゃあ、好きな子と組んでー。異世界に一緒に転生したつもりで英語でコミュニケーションしてみろ」

 非現実的なシチェーションだが、自分の知っている範囲の英語で楽しんだ生徒もいたようだった。


 翌日先生と組んだ生徒がスマホにスタンドアローンでAIを入れたと言ってきた。バッテリーも太陽光パネルも常に持ち歩いているから、これなら異世界に行っても安心とか何とか。

「トラックで轢かれた時に壊されたらどうすーんの?」

「そもそも持ち込めるの?」

「スマホの力を過信するなよ……」

「いやいや、ここまでやれるなら立派なものだと先生は思うぞ」

 思わず先生の方が擁護に回ってしまった。

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