まるで鎖みたいだ。

そばあきな

まるで鎖みたいだ。


 ――――お前さあ、だいぶ重いよな。ああ、体重とかじゃなくて気持ちの方な。


 ……急にどうしたんだ、って?


 いや、ちょっと思うところがあってさ。


 ま、オレにとっちゃ、お前がどんなに重かろうが関係ないから別に好きにしとけって感じなんだけど……。

 でもさあ、今お前とルームシェアしているアイツとこの間ばったり会ってさ。

 その時に見たんだよ。


 アイツが手首に嵌めていた……リストバンド?  ラバーバンドか?

 どっちだったっけな……ああ、今お前が手首につけてるやつだよ。

 見た感じラバーバンドか。それのさ、色違いのやつ。


 それさ、アイツとペアなんだろ?  

 アイツからそう聞いた。


 アイツは『安かったからくれた』って言ってたし、多分お前もそう説明してアイツに渡したんだろうけど。


 ……なんか、重りみたいだなって思ったし「安かったから……」ってのは絶対に言い訳だなと思ったんだよ。


 実際お前が何を考えて渡したかは知らないし、別に知ろうとも思ってないけど、少なくともオレにはそう見えたんだわ。


 ……さっきも言ったが、いくらお前が重かろうがオレには全く関係ないから、そう強くは言わないし、聞き流してもらっても全然構わないんだけどさ。


 ……あんま縛り付けてやんなよ。


 いくら気の置けない友人でも、限度ってものがあるからな。



 でもさ、オレが手首のラバーバンドを見た時、嵌めていたアイツが何て言ったと思う?


 ◯


 ――鎖みたいだよな、これ。


 なんで分かったんだ、って顔してんな。めちゃくちゃ表情に出てたぞ。


 ……まあ、僕も渡された時に思ったから、気持ちは分かるけどさ。


 コイツ、他人に対する執着が凄いなって。


 こんなんで安心できるのなら、いくらでも付き合ってやろうとは思うけどさ、僕相手でこんなことするんだから、アイツも相当追い詰められてるんだろうな。


 時間で問題が解決してくれるならいいんだけど。……ああ、悪い。こっちの話。


 ……なあ、もし僕がこれを外す時、アイツは過去の渡した自分自身に何を思うんだろうな。

 誰かに縋らずアイツが生きていける時が、来るといいよな。



 細い手首に巻かれた、色違いの友人の執着の証。

 首をすくめて笑ったアイツの達観したような表情。

 それらが交互に頭の中を駆け巡っていく。



 ―――アイツは、ちゃんとお前の執着を分かってて、敢えて乗ってやっているのだから。



 それを言えたらどんなに楽だろうと思うけど、やっぱりオレには関係ないことだから口を閉ざして笑っておいた。

 時間や同じラバーバンドを嵌めたアイツが解決してくれるだろうから、と言い訳をして。



「……なんでもない」



 いつかその執着を、自身で笑い飛ばす日が訪れるようにと願いながら。

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