不可逆の真理

国見 紀行

ある博士の実験により

「いいわけがあるなら言ってください」

 何もない原っぱに、白衣の男女が立っていた。

 女の方は男に詰め寄り、男はうなだれて下を向いたままだ。

 その近くには、白煙を上げる巨大なカプセルが横たわっていた。

「だからぁ、間違えたんだって」

「取り返しつかないですよね? なんなら歴史が変わるんですよ」

「いや、もう変わってる恐れが……」

「だったら自覚してくださいよ! さっき拾った新聞! 電気屋で流れてるテレビ放送!」

「ああぁ……」

「完全にきてますよね」

「ほんのちょっと戻るつもりだったんだよ……」

「ほんのちょっとで、五十年もタイムスリップする科学者がいてたまるもんですか!」

「ははは……」

「どうするんですか? もう戻れないですよね? 私たち完全な不審者ですよ? お金もろくに持ってないし、なんなら新しすぎて使えないかもしれないし!」

「大丈夫だって、令和五、六年代なら新札が出る直前だから少し待てば使えるようになるって」

「そういう問題じゃあないって言ってるんですよ!」

「ごめんって……」

「はぁ、なんでプリン一つ元に戻す話が、五十年も過去に行く話になるんだか……」

 そこへ一人の少女が近づき、話しかけてきた。

「あの、もしかしてタケヤ博士と助手のエミさんですか?」

「……きみ、だれ?」

「あの、先生からこれを渡すように言われてまして」

 そう言われて、タケヤ博士は手紙を受け取る。茶色く変色した封筒を拙い手つきであけ、中を読んだとたん博士の顔は満面の笑みに変わった。

「エミくん、我々は未来に帰れるかもしれないぞ」

「どういうことですか?」

「彼女の知り合いに、我々の状況を知る人がいるようだ。急いで会いに行かねば!」

「ちょ、ちょっと! このタイムマシンどうするんですか!」

「どうせ誰も使えないからそのままでいいだろ!」

 すでに博士はダッシュで手紙の主へ会いに走り出していた。

「は、博士! ちょっと待ってくださいって!」


「言い訳があるなら言ってください」

「まさか、こうなるなんて思わないじゃないか」

「タイムマシンの駆動エネルギーがあの時代で手に入るなんて話が上手すぎると思ったんですよ」

「転送座標の時間指定が故障か仕様かで十年単位の転送しかできないなんて思わないじゃないか」

「しかも未来に帰れないし」

「過去にしか行けないっていうのもきっと仕様だ」

「どうするんですか! 昭和中期なんて確実に詰みですよ!」

「仕方ない」

「はい?」

「未来の俺たちがちゃんと帰れるよう、今から帰りの駆動エネルギーを抽出しておけば、未来が変わるだろ」

「五十年待つつもりですか!?」

「逆に考えろ。五十年も考える時間がある」

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不可逆の真理 国見 紀行 @nori_kunimi

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