自称犯人じゃない人

カニカマもどき

供述

 違う。違うんですよ。

 僕は犯人じゃない。

 どうしてそんなに僕を疑うんですか。

 え、証拠がある? なんですか、その証拠というのは。

 伺いましょう。


 ふむふむ、現場に僕の指紋が残っていると。

 べったりと。しっかりと。

 だから僕が犯人である、と。

 いやいや、そうは言いきれないでしょう。


 これはほら、アレですよ。

 公園に行って、ベンチに座って、「アッ! しまった、ペンキ塗りたてだ!」ってなること、ありますよね。

 僕は先週、3回ありました。

 ええ。そこ、そんなに驚きます?

 で、話を戻しますが。

 ペンキ塗りたてのベンチには、くっきりと指紋が残るでしょう。

 その指紋から型をとることで、真犯人は僕の指紋を再現し、それを今回、現場に残したんですよ。きっと。

 今思えば、ペンキ塗りたてのベンチも、指紋を取るための罠だったんだ。

 というわけで、僕は犯人ではないのです。


 なんですか、納得いかない顔をして。

 僕の話が信じられませんか。

 え。いまの話の真偽はおいておくとして、まだ他の証拠がある?

 そういうことは早く言ってくださいよ。

 まあ、伺いましょう。


 ふむふむ、現場の防犯カメラに僕の顔が映っていたと。

 故に僕が犯人に違いない、と。

 いや、まだそうは言いきれないでしょう。


 これはほら、アレですよ。

 最近は技術の進歩がすごいから。

 いろんな方向から僕の顔を撮影して、そのデータから3Dモデルを作って。

 さらにそこから3Dプリンタでマスクを出力して、それを被り、僕になりすまして犯行に及んだのでしょう。真犯人が。

 きっと僕が先週、ペンキ塗りたてのベンチでしばし茫然としているところを撮影したんだな。うん。

 しかして、僕は犯人ではないのです。


 なんですか、まだ納得いきませんか。

 さらに他にも証拠がある?

 防犯カメラの映像には続きがあって、僕が現場近くの自宅に帰るまでの様子がばっちり映っていると?

 その映像を見たあなたが、すぐに僕の家にやってきてこうして話しているから、犯人は僕で間違いないと?

 だから、そういうことは早く言ってくださいって。

 正に動かぬ証拠じゃないですか。


 しかし、意味がわからない。

 僕は本当に犯人なんかじゃないんですよ。

 殺人なんて、とても僕には……

 え? 殺人じゃない?

 刑事さんがこういうふうに聞き込みをするからには、てっきり殺人事件かと。

 刑事でもない? え。あなた、ペンキ塗りの業者の方?

 今日、ペンキ塗りたてのベンチに座って、業者さんの作業を台無しにしてしまった犯人を捜していると?

 なんだ、そうでしたか。

 だから、そういうことをこそ、最初に言ってくださいよ。


 うん。その件でしたら、僕が犯人です。すみませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自称犯人じゃない人 カニカマもどき @wasabi014

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説