Mend

想雪

第1話

私たちのいる世界とは別世界にあるとされている幻想国「フィアバ」。

神が作り、天使が支え、悪魔が気ままに踊り狂う世界。

きれいな街並みに、絶えず聞こえる幸せそうな声。

そんな穏やかで優しい世界を疑いなんかしない。

疑ってはいけない。


「起立、礼」

「さようなら」

いつも通りの挨拶を言い終わると多くの生徒が教室の外へと駆け出していく。慌てて荷物をまとめる様子もなく、一直線にドアへと向かっているのだからきっと予め荷物をまとめておいたのだろう。そこまでして早く帰って何かいいことがあるのだろうか。そんなことを考えながらのんびりと帰り支度をしていると、気付いた時には教室にはもう誰もいなくなっていた。いつもならカンナがいるのだが、今日は礼拝の日らしく、授業が終わるとクラスメイトと同じように教室から駆け出していた。他に一緒に帰れるような人もいなく、仕方なく一人で寂しく帰ることにする。

「退屈だなぁ」

いつもと変わらない綺麗に整えられた街並みを眺めていると、そう感じてしまう。平和なことはいいことなんだろうけど、10年以上変わりようのない街を見続けているとやはり退屈な気がする。

「何か面白いことおこらないかなぁ」

平日は学校に行き、週に一回教会で祈りを捧げる。そんな当たり前の日常がかわったことなんてなかった。少しでいいから刺激的な非日常が欲しい。

「痛っ」

何かにぶつかり、後ろに思いっきり倒れた。考え事をしていたため、人とぶつかってしまったらしい。あまりに派手な転び方をして、恥ずかしさで立てなくなっていると

「大丈夫ですか」

と手が差し出されていた。膝を軽くすりむいているのが見えたため、ぶつかってしまった相手の女の子なのだろう。反射的に

「だ、だいじょうぶです。お気遣いありがとうございます」

と返すと、女の子は安心した顔になって

「それならよかったです。では」

と、早口で言うと慌ててどこかに行ってしまった。これもひとつの刺激か、なんて考えていると足元で何かが光った。よく見てみるとあの女の子がつけていたイヤリングだった。

「イヤリング落ちてますよー」

自分にとっての最大ボリュームで声をかけた。が気づかなかったようで、こちらを振り返らずに早足で歩き続けている。急いで変えある理由もなかったので、走って追いかけることにする。

「待ってくださーい」

追いかけることに大した理由はなかったが、自分の「なんとなく」の好奇心に従って見慣れた街を駆け出した。


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