永遠の友達枠

六畳庵

20XX.3.14

 ギィィ……。

 近所の公園にあるベンチが、二人分の体重を受けていつ壊れてもおかしくない音を上げる。

「律儀にありがとね。あ、これ好きなやつ。今食べてもいい?」

「どーぞ」

 俺が渡したチョコの詰め合わせから、君は一つ取り出して銀紙を破く。

 口紅の色が変わっていた。前は大人っぽい真紅だったのが、淡いピンクに。

「……ダメだ、ここでチョコ食べてると先輩のこと思い出しちゃう」

「あー、あんときまじで寒かったなぁ」

「悪かったって」


 一ヶ月前、君が片思い相手に渡せなかったチョコを二人でここで消費した。俺が貰ったクッキーより何倍も手間のかかってそうなラッピングを、君は乱暴にむしり取った。

 追い打ちのように雪がちらついていたのを覚えている。


「でも私、先輩のことはきっぱり諦めたよ。今度こそマトモな恋愛するんだ」

「そのセリフ何回目だよ」

「立ち直った心もっかい砕くのやめて? 鬼じゃん」

「誰が鬼だ、チョコ返せ」

「嫌ですー、まぁ一個ぐらいならあげるけど」

「え、頂戴頂戴」

 君が渡してきたそれは、ピンク色の包み紙だった。

「あ、俺いちご味はいらねぇわ」

「いや、それさくら味だよ、期間限定の」

「あー本当だ。……桜なんてまだ咲かねぇのに」

「咲いてからじゃ遅いのよ、すぐ散っちゃうから」

「誰かさんの恋心みたいだな」

「あーあーあー聞こえません」

 口の中に、桜の香りが広がる。一足先に、春を堪能する。

「……どうやったら、できると思う? マトモな恋愛」

 ちらりと見れば、君は真っ直ぐ前を見据えていた。その真剣な眼差しが俺に向けられることはなくて、苦しくて。

「知らね」

 いつも素っ気ない反応しかできない。

「つめた」

「はっ」

「鼻で笑うなチョコ返せ?」

「もう食った」

 俺だったら、とか、言ってみたらどうなるんだろう。今の関係すら壊れてしまいそうで勇気が出ない。だって俺は、いや、だから俺は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

永遠の友達枠 六畳庵 @rokujourokujo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ