【未完】メタ・アース・オンライン 〜仮想空間で殺された俺は『特別な力』を授かって舞い戻る〜
結城 刹那
第1話:2XXX年の朝
『朝の8時を迎えました。柃(れい)様、起床の時間になります』
女性の機械音声が部屋に流れると、部屋を閉鎖したカーテンが自動的に開く。窓から照る光により俺は目を覚ました。事前に光の遮断量をAIが調節していたため快適に目覚めることができた。
『柃様、おはようございます。朝食の準備が完了いたしましたので、ダイニングの方にお越しください。柃様の歯ブラシの使用期限が切れましたので新しいものに変わっております』
ベッドから起き上がったタイミングで再び機械音声が流れる。布団に加わった圧力を分析し、家主が起きたかどうかを判断している。
「オラクル、おはよう。歯ブラシの交換ありがとう」
俺は機械音声を流す家庭用AI『オラクル』に向けて、挨拶を返した。身の回りの作業は全てオラクルが行ってくれているため、感謝の気持ちを忘れないように言葉にしている。
歯ブラシが新しくなっているのも、俺たちが眠っている間に部屋中をスキャン、解析し、必要に応じて操作してくれたからだ。
ベッドから立ち上がり、腕を上げ、体を伸ばす。
学校の始業時間は8時30分。残り時間は30分。それでも、急ぐ必要はない。いつもこの時間に起きて、学校へ行っているのだから。
自室を出て、一階へと降りる。ダイニングの方へ足を運ぶとオラクルが用意した朝食が並んでいた。バナナと瓶に入った200mlの牛乳。バナナは皮が綺麗に剥かれ、五等分されている。右端の一個には爪楊枝が刺さっていた。
椅子に座ることはなく、立ったままバナナを召し上がる。両親、妹は先に出かけてしまったようで部屋は静寂に包まれていた。オラクルに頼めば、テレビやラジオ、音楽などを流してくれるが、静寂が好きな俺にはこの空間が一番落ち着く。
朝食を食べ終えると洗面所へと足を運ぶ。歯磨き、洗顔、微小の髭が生えていたので剃る。洗面所の横には今日着る服が完備されていたので、パジャマを洗濯機に入れ、着替えを行った。
ここまでで8時20分。残りは10分。今日は余裕で間に合いそうだ。
全ての用意を終え、洗面所を出た。次に向かうは『転移室』。この部屋だけは入念に整備されている。普通の部屋は近づく際に自動的にドアが開くが、ここは開く前に入るに適した人物か検証する。
それが家のデータベースに登録されている人物であればドアは開き、そうでなければドアは開かない。ドアは分厚い鉄製でできており、簡単には壊せないようになっている。
理由は簡単。この部屋こそが、今の人類にとって生活の基盤となっている場所なのだ。
転移室のドアが開かれ、中へと入る。四方の角に取り付けられた照明機が光る薄暗い空間。中心には四つのカプセル上の装置が設置されており、それらを囲うように大型のコンピュータが設置されている。
四つのカプセルのうちドアから一番近い位置のカプセルのみ蓋が開いた状態で聳え立っている。閉まったカプセルには両親、妹が入っている。家族ルールとして、奥のカプセルから順に入るようにしているのだ。
まだ使われていないカプセルへと歩み寄る。カプセルの中には革製の椅子が設置されている。そこに腰を下ろすと右側にある装置が作動した。『転移場所を選択してください』と言う表記とともに『登録された場所から選択』、『手動で選択』の二種類のパネルが映る。
『登録された場所から選択』をタッチすると上から三番目の場所を選択した。
場所は『自分の高校の、自分のクラスの、自分の席』。選択を終えたところで椅子でゆっくりとくつろぐ。
カプセルが閉まるとともに、頭部から現れた装置が顔全体を包み込む。手足をしっかりと固定され、瞬間的な痛みが手首に走る。麻酔が走り、俺の意識はゆっくりと現実世界から遠のく。視界は白く包まれ、『Login』の文字が映し出された。
こうして、俺はもう一つの地球『メタ・アース』へと転移した。
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