言い訳の代償
武海 進
言い訳の代償
友人たちとの予定も無く、やることのない暇な休日の昼下がり。
リビングでだらだらしていた俺は母さんに財布とメモとエコバックを持たされ、家を追い出されてしまった。
まあ、お釣りで何かお菓子でも適当に買って良いらしいので渋々近所のスーパーへと向かった。
スーパーに着いた俺はさっさと買い物を終わらせる為に、手早くメモに書かれた食材をカゴへと放り込んでいく。
材料から察するに今日の夕飯はカレーらしい。
あっという間にメモの材料を全てカゴに入れ終えた俺は、あることに気づいた。
カゴの中の食材たちの合計金額が、渡された財布の中身とほとんど一緒なのだ。
これでは駄菓子が一個買えれば御の字ではないか。
恐らく母さんは端からこうなることが分かっていたのだろう。
そもそもあのケチな母さんが、買い物程度でご褒美をくれる訳がなかったのだ。
事実に気付いた俺は怒りに震えたが、直ぐに冷静になった。
家に帰って母さんを問い詰めたところで、ああだこうだと言い訳するに違いない。
そうなると口が上手い母さんに勝てずにこちらが泣き寝入り、というのがいつものパターンだ。
だが、いい加減負け続けるのにも飽きた。
今日こそは勝ってやろうと、良い策は無いかと俺は脳をフル回転させ始める。
そうしてスーパーをうろつく不審者と化した俺は、店員に怪しまれながらもとある名案を思い付いき、家路に着いた。
「ちょっとアンタ、メモ通りに買ってこなかったでしょ!」
「それしか見つかんなかったんだよ。別に物は一緒なんだからいいだろ。それより
母さん、お菓子なんて買わせる気なかっただろ」
「な、何のことかしら。さあてお夕飯の準備しないと」
そそくさと台所に行く母さんの後ろ姿に俺はしてやったりと思いながら、余った金で買ったポテトチップスの袋を空ける。
俺が思いついた妙案とは、メモに書かれていた食材を少し量が少なくて安い物や、特売の物に変えたりして予算を浮かせるというものだ。
母さんにメモのとおりに買わなかったのは何故かと責められても、書かれていた物が売っていなくて仕方なく少し違うものを買った、と言い訳も出来る。
この見事な案を閃いた時、俺は母さんに始めての勝利を確信した。
そして案は成功し、俺の食べるポテトチップスの味は最高だった。
「……今日のカレー、微妙だな」
夕飯の時間になり、出てきたカレーを一口食べた俺の顔が歪む。
いつもは美味しい筈なのに、今日は不味いからだ。
「あらごめん、材料がいつもと違うせいかしらね。でも仕方ないわよねえ、売ってなかったんだから」
母さんからの冷たい視線に俺は顔を逸らしながら、やはり言い訳は良くないなと美味しくないカレーを食べながら思うのだった。
言い訳の代償 武海 進 @shin_takeumi
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