第20話 レッツゴー!新婚旅行(ただし二人とも、二度とこの家に帰らない)

 ボクがハンナちゃんにプロポーズして、お互い、祝ってほしい知り合いとかがいないのもあって、式は挙げずに結婚したボクら。

「これからどこ行く? 新婚旅行」


 でも、犯人ボクの顔と名前が広まってないとはいえ、キャサティーさんの失踪に関して情報提供を求めるビラとかが、あっちこっちにあるし。


 ハンナちゃんをフェアリーミルクやシロップもどきを出せる身体に改造した奴が、ハンナちゃんを追ってくるかもと思うと……派手なことはやめたほうがいいかなって、思うときもあるけど。


 ハンナちゃんと二人で幸せな思い出を作って……ハンナちゃんを殺す。

 それで、故郷に帰ってマナに会えたら「ボクに死を思い止まらせてくれた命の恩エルフ」って、ハンナちゃんを紹介するんだ。



 山より高く飛ぶとドラゴンブレスを食らう法則は、ナロヨミンゲンより遠いこの付近にも来そうか、ボクはハンナちゃんに尋ねる。

 ハンナちゃんは「油断はしないほうがいいかと」と言うので、

 近場の山を越えない範囲を、魔法で翼を生やした黒いエセペガサス・ベロちゃん――元々ケルベロスって名前の軍馬だったんだけど、普通に頭一個しかないし、明らかに名前負けしてるから、ボクが呼び名を付けてあげた――で、空中ドライブしているボクら。


 当てもなく飛んでると、ポツポツ雨が降り出し、眼下に人里を見つけたので、ひとまずそこへ向かう。


 厩舎の屋根の下で、ハンナちゃんがベロちゃんから降りるのを確認したあと、ボクはベロちゃんの鼻を撫でて小ちゃくして、そっと布にくるみ、懐へしまう。


 雨が小ぶりになってきたので、ボクとハンナちゃんは雨合羽を着て、「セイタン村」と日本語以外にも複数ヶ国語で書いてある門を――待って。

 日本語表記に思わず足が止まる。

「どうしました、ロビンさん? かなと漢字が珍しいですか?」

「うん……ていうか、読めるの、ハンナちゃん?」

 イーカセイザ大陸に着いて以来、初めて見た気がするよ? かなと漢字。

 気を取り直して、門をくぐってすぐ、宿の案内が出てたので、そこへ向かう。


 入ってすぐ、係の人からタオルを手渡され、濡れた雨合羽を拭く。

 受付がてら時計を見つけたので、時刻を確認すると、もうすぐ午後四時になるところ。



 受付で渡された鍵で、部屋の扉を開けると、「ここで、はきものを脱いでください」とあったので、ボクもハンナちゃんも、その指示に従う。

 ちゃんとしたとこに読点があって、よかった〜。


 はきもの置きの段差をあがると、左手に洗面所とトイレと浴室、正面の引き戸を開けるとまあまあ広い部屋がある。

 この部屋の床……長辺が縁取られてる緑っぽい床……、確か、畳っていうんだっけ? 本で見たことある。

 ふちの部分、踏んじゃ駄目なんだっけ。


 荷物を置いたら、部屋のローテーブルに、お茶とお菓子のセットと、この部屋及び宿に関するガイド冊子が置いてあるのを見つけたので、日本語の奴を手にとって見る。


 お茶の入れ方からお菓子の内容、それらがここに置いてある意味、部屋の戸棚に浴衣が入ってること……へー、今ハンナちゃんが座ってる、あの窓のそばの椅子一対とテーブルの空間、広縁ひろえんって言うんだ……、とにかくいろいろ書いてある。

 宿に入ってからちょっと思ってたけど、至れり尽くせりだね。


 だいたい入れ方通りに入れたお茶と、お菓子を持って、その広縁の方へ行って、テーブルにそれらを置く。

 ハンナちゃんが座ってない方の椅子に座ると、窓から村を見下ろせる。

 ……手前には、ボクらが入った村の出入り口と……あ、もっと向こうにも出入り口がある。あとは、市場とかお店とか民家とかかな?

 奥の方は……見慣れない物が多いなぁ。


「ハンナちゃん、左の大文字のTと大っきい小文字のtを隣り合わせたようなアレってなに?」

「あれは鳥居、っていうジンジャの門です」


「ジンジャ? 生姜ジンジャーの親戚かなにか、には見えないけど……」

「ロビンさんって、なにか信仰してる神様などはいませんか?」


「神様? エカテリーナ、もといおばあちゃん。

 元々、おばあちゃんが死んじゃったから、ボクも死ぬためにイーカセイザ大陸に来たからね。……今はキミがいるから、死のうとは思わないけど。

 それで、なんでそんなことを聞いたの?」


「ジンジャは、その神様をまつっている場所、といったところでしょうか。

 祀っている神はジンジャによって様々ですけど、あそこは太陽の神様と、もう一つ……先祖の霊でしょうか? 鳥居の向こうに、お墓のようなものが見えるのは少し不思議ですけれど」

「お墓?」

「え、ロビンさん……おばあさんに連れられて、ご先祖様のお墓参りとか、したことありませんか?」

「んー、無いね。エカテリーナ、孤児って言ってたと思うから」


「じゃあ、ロビンさんは、おばあさんにお墓を建てたことも……」

「無いよ。……建ててって言われたこともないし」

「ちなみにおじいさんは――」

「ボクを引き取ってすぐ死んだ。お墓は無い、いらない、お金とかの無駄」

「おじいさん嫌いすぎません……? そこまで食い気味で、間髪入れないほどって……」


「それはそうと、なんでジンジャにお墓が不思議なの?」

「ジンジャでは、死は穢れとされてますから。ほら、あのジンジャの位置に対して、墓地は右のあそこ、離れているでしょう?」

 ああ、あの石の柱の群れって全部お墓?

 ……結構いっぱいあるね。ボクが知らないだけで、どこもあんなもんかもしれないけど。


「真ん中の商店街かなんかの向こうの、あのどっしりした感じの鳥居もジンジャ?」

「え? ……なんでしょう? 前にここに来たときは無かったような……」

「え、ハンナちゃん、ここ来たことあるの?」

「まあ……。故郷でお世話になった人……エルフの女性の両親のお墓参りに同行して。

 彼女の実家は左のジンジャなんですけど、弟さんに会いたくないとかでお墓参りだけして出ていったので」

「ふーん……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る