物には意味がある。誰がつけたのかは知らないが。

彼岸キョウカ

 

 3月14日。ホワイトデー。


「なぁ、百合。俺達、結婚しようか」


「はっ! はぁ、はいぃ!?」


  放課後。ワタクシの家でティータイムを共に楽しんでいた彼——直也様の口から、さも当然かのように出てきたお言葉に、私はあろうことか素っ頓狂のような声をあげてしまいました。


「嫌だったか?」


 少し目を潤ませて私を見る直也様。まるでワンちゃんみたいで可愛い……って!


「い、嫌ではないですがっ。そんなプロポーズでいいわけないでしょう!」


「そ、そうか……」


 肩を落とす直也様。外見はとてもクールなのに、私に対しては感情表現が豊かなところも大好きで……って!


「そもそも、直也様がプロポーズされなくても、私達は婚約者ですわよ。お、お気持ちはとても嬉しいのですが……」


「俺ももう18歳になった。これでいつでも百合と籍を入れられる。本当は豪華なディナーでプロポーズしたいが、俺はまだ学生だから用意してあげられない。でもこの気持ちは伝えたくて」


 婚約者と言っても、親が勝手に決めたものですが。ですが直也様と過ごすうちに、勉強熱心なところも、真面目なのに気さくなところも、何より私のことを一番に考えてくださるところに惹かれていきましたの……って!


「わ、私、いつまでも待てますわ。直也様の為なら……」


「ふふ。百合は本当に優しいな。そういう所も好きだよ」


「は、はぅ……」


 さらり、と私の髪を撫でる直也様。

 お顔が爆発しそうなのを誤魔化したくて、私はモンブランを一口いただきました。私が大の栗好きとご存知な直也様は、私の家にお越しになる時はいつもモンブランを買ってきてくださいますの。そんなところも大好き……って!


「これ、ホワイトデーのお返し。今回は父上の元で一日働いて、そのお給料で買ったんだよ。まぁ、働いたというより、おままごとみたいなものだったんだろうけど」


「まぁ、私の為に……とっても嬉しい、です。ありがとうございます」


 薔薇の花束に顔をうずめると、ふわりと良い香りに包まれます。まるで直也様の近くにいる時のように……。


 12本の薔薇の花束と、マロングラッセ。直也様は毎年同じものをくださるので、もう開けなくてもわかるのです。


 この幸せな時間が、ずっと続きますように。

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物には意味がある。誰がつけたのかは知らないが。 彼岸キョウカ @higankyouka

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