第99話こんなイベントってありましたっけ?
たぶんに、トレントとか呼ばれる魔物の亜種だろう、寸足らずな大樹の魔物をシャドウハウンド達が取り囲み、それ以上の移動を制限する。
トレント亜種らしき大樹は、真っ先にセシリアを狙う。
あははは………たぶん、私の内包する魔力量が高いからよねぇ
乙女ゲームでも、魔力量が一番多いのが真っ先に狙われていたモン
だからと言って、負けてやる必要なんて無いから………
と、セシリアが思った瞬間、お腹の中へとしまい込んだ、龍帝陛下の御霊を抱え込んだ卵がドクンッと鼓動する。
「えっ?」
びっくりして声が漏れたと同時に、セシリアの腹部から、大きな龍の手が延びて、トレントの頭頂部にある蕾みをガシッと鷲掴んだ。
そして、そのままグイッと引き上げるようにして、トレントからむしり取ってしまう。
思わず、全員が驚きすぎて硬直する中、シャドウハウンド達が一斉にトレントへと襲い掛かる。
カブカブと幹や枝や蔓に齧り付き、むしり取って行く。
一方、セシリアの腹部から出た、たぶんに龍帝陛下だったモノの手は、シュルッと小さくなって、むしり取った蕾みをその足元にコロンと落とし、そのまま腹部に消えてしまう。
えぇ~とぉ~……なんで、私の足元に蕾みを転がし置くのでしょう?
もしかして、この蕾みに、龍帝陛下由来のモノが入っているってコトかしら?
前世の乙女ゲームに、そんなイベントってあったかしら?
全部が全部、物語りとかストーリーの流れを覚えているわけじゃないから困るわ
何にしても、確認しないとダメよねぇ?
取り敢えず、蕾みを分解したら何かわかるかしら?
御霊移ししたお腹の卵は、うんともすんとも言わないから困っちゃうのよねぇ
まずは、状況確認ね
セシリアの戸惑いは、全員の共通する思いだった。
だからと言って、戦闘時にそればかりに意識を持って行かれるのは危険というコトで、グレンとルリは、トレント亜種?をとにかく攻撃していた。
「くそっ…こいつ、めちゃくちゃ再生するし、引き剥がして引っ付き治りやがるっ」
「シャドウハウンド達が引っぺがしたのを、小まめに焼き払うしかないよ」
ユナはその言葉に反応して、シャドウハウンド達が齧って剥がしたモノを必死で燃やしていた。
おっ…流石、神獣の狐火ねぇ……ユナに焼かれると再生しないで灰になるのね
通常焼いただけじゃ、どうも焼けないみたいね
ルリとグレンも、火の魔法で対応しているが、ユナほどは焼き切れず、本体の幹や枝などに引っ付きなおして、再生している。
「全員、離れてっ………」
セシリアは、足元に転がる蕾みを片足で踏みつけながら、浄化と火焔の合成魔法を放つ。
「全てを焼き清めよ 浄焔(じょうえん)」
呪文じたいを最短縮して発動させる直前に、セシリアの指示に従って、グレンやルリと共にシャドウハウンド達もトレント亜種から離れていた。
そこに、セシリアの放った、浄焔(じょうえん)が対象となったトレント亜種を焼き清めて行く。
まるで溶け崩れるかのように、トレント亜種はそのままゆっくりとじょじょに小さくなり、一塊の灰になる。
残ったのは、トレント亜種の蕾みだが、こちらはうんともすんともいわないで、セシリアの足の下にあった。
「取り敢えず、討伐できたようだね………ほら、灰の中に魔石が転がっていたよ」
と言って、ルリが大人の男の人のコブシを二回りぐらい大きくした魔石を持って来た。
「ふわぁ~……すごくおっきいねぇ~……」
ユナが瞳をキラキラさせるので、ルリはセシリアへと視線を向ける。
どうする?という視線に、クスッと笑って、ユナに魔石を手渡すように、ルリに視線で促す。
「ほら、ユナ…落とさないようにね」
そう言いながら、ルリにセシリアの視線に頷いて、ユナへと手渡した。
「ほわわぁ~……なんだろう…あったかい………」
と、握ったトレント亜種の魔石に無意識に頬摺りするユナを微笑ましく見ながらも、セシリアは足裏でいまだに踏みつけたままにしてある、蕾みを見下ろす。
「ところで、コレって何かなぁ? 見た目には、あのトレント亜種の蕾みなんだけど」
ルリには、最初の頃に指摘された時に、ちょっと言葉を濁して、腹部に入れてあるモノのコトを話してはいたが、グレンは覚えていなかったらしく、ちょっと、いや、かなり心配そうな瞳でセシリアの腹部へと視線を向ける。
ちなみに、ユナは手渡されたトレント亜種の魔石にうっとりしていて気付いていなかった。
ルリとグレンの視線に気付いて、セシリアは肩を竦める。
「えっと……このお腹にあるのは、あとで…もっと落ち着いたら説明するね……それよりも、この蕾みよ…トレント亜種に付いていたモノなんだけど……何の反応もしないのよねぇ………」
セシリアのお腹から出たモノに不安を覚えつつも、本人が承諾しているモノらしいコトを読み取り、グレンはその足に踏まれる蕾みへと視線を移す。
「それが、本当に蕾みや実ならば、本体のトレント亜種が討伐された瞬間に、発芽して襲い掛かって来るんだが………本当に、蕾みなのか?」
グレンの言葉に悩む中、ルリがバッサリと言う。
「んじゃ、確認してみよう……アタシが蕾みの花びらを一枚ずつ剥ぐから、リアは後ろに大きくさがって、さっきの浄焔(じょうえん)を……グレンは、剣を構えてな」
そう言ったルリの指示にともなって、セシリアは蕾みを踏んづけていた足を外して、大きく距離を取り、今度はちゃんと詠唱して、浄焔(じょうえん)を待機させる。
グレンはグレンで、何時でも切れるように構える。
シャドウハウンド達は、様子見しつつも、やはり周囲を取り囲んで、警戒態勢を見せていた。
ちなみにユナの周りには、三頭のシャドウハウンド達が護るようにしていた。
セシリアが、ユナを大事にしているのを見て取り、こびこびのシャドウハウンド達だった。
そう、できれば、自分達を大事にしてくれる、セシリア達に付いて行きたいと思っていたから。
チラリっと周囲を見て、安全を確認したルリは、大きな蕾みの花びらをベリッベリッと剥がしていく。
ゴロリンッ
その中心部から出て来たのは、大きな魔石に似たモノだった。
ちなみに、ルリに引っぺがされた花びらは、キラキラして硬質化し、全部が美しいグラデーション水晶のようになっていた。
うん? ううん? アレ、なんか…見たことあるんですけどぉ?
こんなイベントで、出現するようなモノでしたっけ?
いや、全部のイベントが、前世の乙女ゲームの通りってコトは無いはずだけど
もし、出て来たのが……アレだったら…とんでもないモノなんですけど
だって…もし、本物の龍帝陛下の第三の瞳だったら……
セシリアは、前世の乙女ゲームで…見付からなかった…幻のレアなアイテムの出現に頭痛を覚える。
ファンデスクでも、本当にチラッとしか出なかった映像と同じモノを目の前に、大きく溜め息を吐くセシリアだった。
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