第91話安全第一



 当座の目標していた柱の間を抜けると、シャドウハウンド(改)は追い駆けて来なかった。

 どうやら予想通り、区域が変わると追わないらしい。


 ただ、飢餓状態とあっただけあって、もの凄く未練たらしく柱が立ち、石畳の色が変わった其処に悔し気にガリガリしながら、ガウガウと吼えていた。

 まるで、そこに透明な壁があるかのような様子に、ルリが嗤う。


 「おやおや、物理的に越えられないようにされているようだねぇ……しかし、面白いねぇ……今回は見学ってコトで、手を出さなかったけど、次に回って来たら殲滅するかねぇ……」


 と、ルリが楽しそうに呟いているのを見て、セシリアは肩を竦めていた。


 あらあら……ルリったら、瞳をキラキラさせて楽しそうねぇ~……

 はぁ~…あんな姿を見ると思い出すわねぇ~

 前世で好きだった、心霊モノのマンガの中のルリちゃんを………


 アレは獲物よ……って、獲物って書いてオモチャって読むを地でいってた

 実家のにゃんこ達は、どの子も甘やかされてコロコロしていたから

 ネズミなんてモノを、獲るなんてコトしてなかったのよねぇ……


 近所の野良ちゃんは、たまにギョッとするようなの咥えていたけど

 マムシやシマヘビなんかの蛇を振り回しながら、尻尾立てて歩いていたわねぇ

 あれで、ちゃんと頭を潰してあるんだから凄いわよねぇ


 こんなところにも、蛇っているのってところにも居たわねぇ…そう言えば

 先進国っていうわりに、前世の自国は自然がかなり残っていたのよねぇ……

 まぁ…この世界は、自然の中にぽつぽつと国があるだけどね


 はぁ~……もっと、簡単な転生だったら良かったなぁ……

 悪役令嬢疑惑が下がって、ヒロイン疑惑が急上昇なんだもの

 普通に学園モノの婚約破棄に追放なら、苦労無かっただろうなぁ


 割り振りが悪役令嬢とかって……思っていたら、ヒロインかもなんて最低だわ

 どうせなら、負担の少ない当て馬やモブだったら良かったのになぁ……

 ほんと、モブが良かったなぁ~……安全第一…いのち大事に……


 ………じゃないでしょ、私……

 現実逃避しても、なにも始まらないわ

 せっかく、未知の領域の冒険なんだから、楽しまないとね

 本物と古代遺跡なんて、素敵じゃない……


 前世じゃ、暇とお金が無くて有名どころの遺跡にすら行けなかったし

 まぁ…この際、錬金術師が改悪したモノが蔓延っていたって構わないわ

 こっちには、ルリっていう最大戦力の猫型巨大魔獣がいるんだし


 グレンもかなり戦えそうだし、ユナにも武器を持たせているし

 私だって、魔法がちゃんと使えるみたいだからね

 っと、そうそう…あれから時間が結構経っているのよねぇ……


 取り敢えず、支援魔法はまだ切れていないようだけど……保険は大事…

 確か、魔法って重ね掛けとかも出来るはずだから、もう一回掛けときましょう

 あと、カウンター魔法もかけて、怪我したら即時再生も掛けとこう


 そんな、不確かな前世の知識でもって、セシリアは魔法を発動する。

 そういうモノは絶対無理とか、出来ないという概念が無いセシリアは、不条理としか言えないようなオリジナル魔法を発動する。


 セシリアの思い込みで作った創作魔法なのだが、前世でのゲーム知識を基にしている為に、イメージがはっきりしている為、出来てしまうのだった。

 ちなみに、即時蘇生なる魔法も、保険として開発して掛けたセシリアだった。


 この世界には、治癒魔法は存在しているが、蘇生魔法というモノは存在していなかった。

 アゼリア王国では、時期王太子妃としての責務で、休日なしで常時浄化をさせられていた上、エイダン王太子がするハズの書類の決済などをさせられていた為、余分な知識が無いのだ。


 だから、そんなごく一般的な市民の、物が少し理解る程度の子供でも知っているようなコトを知らないのだ。

 そう読み書きが出来ない者達でさえ知っている、ごく一般的な常識すら知らないセシリアは、ゲームでの蘇生シーンのエフェクトまで克明に覚えていたので、難なく出来てしまったのだ。


 ちなみに、セシリアの使う魔法は、全部前世のゲーム知識を基にしたモノなので、かなりの威力があるのは確かなコトだった。

 例えるならば、初級のファイアーボールでさえ、現在の魔法の威力と比較すると、上級並の威力のモノを放てるのだ。


 前世のセシリアは、本人にまるっきり自覚はないが、お局様の気まぐれな嫌がらせを受けていたのだ。

 特に休日前には、就業間際に仕事を回され、残業をするのが恒例と化していた。


 週明けの朝一に提出する書類を、何とか終わらせて終電間際、または一本前に滑り込み、何とか帰宅したりしていたのだ。

 そうなると、かなり疲労困憊になるので、節約の為に自炊が億劫になり、結局コンビニ弁当のお世話になっていたのだった。


 その上、たまにスイーツを付けて、深夜のアニメなどをボーっと見ていたりしたセイで、妙な魔法知識とかが刷り込まれていたりするのだ。

 そう、疲れすぎて、変に脳裏にそういうシーンが残っていたりするが、無自覚だったりする。

 また、貯金が思うように溜まらなかったのは、そうやって無意識の買い食いをしていたセイだったりする。


 それだけに、本人に自覚はないが、前世知識として、かなり妙なモノを記憶しているセシリアだった。

 原因は、疲れすぎによる判断能力の低下によって、アニメの流し見したあげく、エフェクトが綺麗で、思わず何度も再生していた…が、そんなコトは記憶に無いセシリアだった。


 だから、たまに電気量が高くて、あれ?と思うコトがあったのは、前世のセシリアの知らない事実だったりする。

 判断力低下は、ろくなことにならないという典型な前世のセシリアだった。


 そんなセシリアだからこそ、妙なオリジナル魔法を創造してしまうのが、そんなコトはこの世界の一般的な常識が無い為に、ついぞ気付くコトはなかった。

 ちなみに、ユナも常識を知らないので、セシリアの魔法をまんま模倣して使うのは確かな事実だった。


 そして、ルリもグレンも、セシリアとユナに、それはおかしいと注意などしなかった。

 戦力になるんなら、それはそれだし、セシリアは主だから、命に関わらなければ、注意も助言もしない2人だった。


 ちなみに、現在は、自由になったというハイ状態の為、深く思考するコトの無いセシリアである。

 そうでなければ、自分の悪役令嬢?で主役?の婚約破棄騒動その後のコトを、娯楽映画でも観るかのように楽しむコトなど出来なかっただろう。


 そんなセシリアだけに、のど元過ぎればで、今は未知の古代遺跡の観光を、ごく自然に楽しんでいた。

 再び古代遺跡の中から魔物が襲って来るというコトもなく、パッカラパッカラというものすごくローペースで、軍馬達は馬車を引いている。


 セシリアは、好奇心で身を乗り出しては、グレンとルリの尻尾に引き戻されるを何度も繰り返しながら、見たこともない文様を描く壁画に注目していた。


 え~とぉ……どれかのゲームで見たコトあるような気がするんだけどぉ……

 これって、乙女ゲーム…のはずよねぇ……もしかして混ざってる?

 まぁファンタジー系のRPGは、同じ世界の違うところを垣間見てってのもありかな?


 それにしても、この古代遺跡って見た感じは、都市型遺跡ってやつかしら?

 たぶんに、中央辺りに宗教施設っぽいのがある可能性が高いわね

 それとも、王城が鎮座しているのかな?


 まぁ…中にまで入ってみないと、よくわからないのは確かね

 ここからだと、全体像が見えないのよねぇ……

 だから、って幽体離脱みたいなのしたら、怖い目にあいそうだしねぇ


 今更だけど、馬車ン中で何度も魂離れしたのは不味かったわねぇ

 いや、一応自衛の為の保護魔法、2度目以降はちゃんと掛けているけどね

 この世界って、何が起こるかわからないから、無茶は出来ないもの


 とはいえ、馬車が余裕で走れる石畳がちゃんと続いているんだから凄いわ

 現在のアゼリア王国やロマリス王国の都市よりも、綺麗に整備されているわねぇ

 はぁ~……古代文明…ロマンだわぁ~……


 っと、そうそう…一応石畳に転移のトラップないか確認しておきましょう

 こんなところから、別のところに跳ばされるのはゴメンよ

 せっかく、ここは面白そうなんだから………









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