第90話何故か襲われています



 ただいま、絶賛、魔物に襲撃を受けています

 いや、馬車には物理遮蔽込みの隠蔽結界を張っているので無事ではあるのですが

 何故か、隠蔽が効いていないようです


 あの後、馬車の御者台にグレンと共に乗り、ルリとユナは屋根の上に乗って、まったりと遺跡を外回りから見学を始めました。

 軍馬達の速度は、見学が目的なので、極力ゆっくりの並足で走ってもらうことにしました。


 軍馬達は機嫌が良いのか、優雅に尻尾を振りながら、セシリアの希望通りに、とてもゆっくりで石畳を走り始めた。

 取り敢えず、遺跡がどういう形式で、どんな遺跡かを確認する目的のモノだったかを確認しようというコトになった。


 セシリアは興味津々で、遺跡をジィーと見て、その目的などを知ろうと、半分身を乗り出して見ていた。

 夢中になって遺跡を見詰めるセシリアに、グレンはちょっと溜め息を吐きつつ、その腹部に腕を回して、御者台から落ちないようにする。


 が、とうのセシリアは遺跡に興奮していて、グレンの気遣いに気付かなかったりする。

 ルリは、その様子を見て、やはり溜め息をひとつ吐いて、長く太い尻尾を伸ばし、グレン同様、胸部辺りをクルリンっと巻いて、落ちないように支える。


 「やれやれ…リアは楽しそうだねぇ……観たところ、そこまで珍しい遺跡には見えないんだけどねぇ……まぁ…楽しいんならなんでもイイけどね」


 そんなことを呟くネリに、ユナは小首を傾げつつ言う。


 「ねぇ…隠蔽結界っていうの張ってあって…外から見えないんだよね」


 「ああ…リアが張ったのは、それに物理防御も入っていたハズだけど……どうかしたのかい?」


 ユナの言葉に、ルリが瞬きをしてハッとする。


 「えっ……こっちを視て居るモノがいる気配………いや、見えないはずなのに? グレンっ…リアの隠蔽結界を無効にして、こっちを視ているモノがいるよ…警戒しなっ」


 その声に、セシリアはビクッと身体を震わせ、今の状況にハッとする。


 えっ……隠蔽結界を無効にして視ているモノが居るの?

 ってぇ…えぇぇぇー…グレンのぉ…う…腕が……腰にぃ~……

 ルリの尻尾が胸部を巻いてるんですけどぉぉぉぉぉぉ~…のぉぉぉぉぉ~


 自分の状態に驚愕したセシリアだが、大きく深呼吸をして、無理矢理に意識を整える。


 お…落ち着くのよ…私……きっと、身を乗り出して遺跡を観ていたからね

 私が御者台から落ちないようにって措置よ……コレは………じゃなくてぇ……

 隠蔽結界を張ったのに…こっちを感知して見て…いや視ているの?


 そう思考を無理矢理に冷静なモノへと持って行きながら、セシリアは前世の乙女ゲームでの知識を総動員する。


 ……っと……あったわ…そういう古代遺跡群

 あれって先史文明って設定だったような気が………

 ああ、肝心なところを覚えていないじゃないのぉぉぉ………


 内容とかなんかは…かなぁ~り…うろ覚えだけどぉ……

 攻略キャラの好感度を上げるアイテムか何かを、探していた時だったと思う

 そのアイテムがあるって言われていた…どこかの『ダンジョン』に入ったのよね


 確か『ダンジョン』の最初の方の小部屋に入ったら、いきなり転移されたのよ

 そして、その先にあったが、えらく精巧な彫刻の群れだったわ

 同時に、彫刻と巨大植物の他に、色々な魔物が居たのよねぇ……


 あの時は、出た先が判らなかったから、無用な戦闘を避けようってコトにしたのよ

 だから、隠蔽とか隠形とかのスキルを使ったのに、襲われたのよね

 何故か、敵キャラからは隠れても隠れても、感知されちゃって大変だったわ


 結局、散々アイテム使ったのに、全滅したのよねぇ……はぁ~……

 攻略サイトのスレに、遺跡の名前は書いていなかったけど

 視力が退化している分、異様に感知能力が高い魔物がいる場所に飛ばされた


 っていうの見付けて、妹がソコの攻略はスルーしてイイって言ったのよね

 それで、別のアイテムを探しちゃったから、結局、解決の糸口にならないわねぇ

 あれ? そう言えば、どうしてここは明るいのかしら?


 誰も、ライト系の呪文も唱えていなければ、アイテムも使っていないのに

 もしかして、この古代遺跡って、まだちゃんと稼働しているってコトなのかしら?

 意思ある誰かが、制御しているってコトで良いのかなぁ?


 そんなコトを考えている間に、遺跡の中から犬に似た魔物が出て来て、軍馬と馬車に襲い掛かって来た。

 が、物理遮蔽込みの隠蔽結界を施しておいたセイか、障壁のようなモノにぶち当たって、ギャンッと鳴きながら、結界の外側を滑り落ちていった。


 「え~とぉ……感知力が強くて、隠蔽されきれなかったってコトかな?」


 同じように、結界にぶち当たって落ちる犬のような魔物を見て、グレンも微妙な表情をする。


 「たぶん…そうじゃないかな……ここの魔物は、感知能力が強いみたいだな」


 セシリアは、思わず襲撃して来る犬のような魔物を観て、首を傾げてから、耳飾り型の魔道具に魔力を込めて、鑑定してみる。


 ピロ~ン………ピッピッピ………


 シャドウハウンド(改良型)※飢餓状態

 錬金術師によって凶悪に品種改悪された種

 錬金術師の宝を護る番犬の役割を持つ

 リーダー犬に統率されて集団で襲い掛かる

 感知能力が極限まで引き上げられているので、隠蔽や隠形が効かない

 改良した錬金術師が使用した犬笛が有れば支配できる


 その鑑定魔道具によって浮かび上がった内容に、セシリアはちょっとコメカミをくりくりする。


 えーとぉー…正体不明の呪術師に続いて……今度は、錬金術師ですかぁ……

 いや、確かにゲームって言うと、わりとどこにでもいるキャラよね、確かにさぁ

 魔法使いに魔術師に錬金術師、それと、魔道具師なんかも居るわねぇ


 とはいえ、改良ならぬ、改悪された魔物って不味いよねぇ………

 本来のシャドウハウンドとかいう魔物より凶悪ってコトよね

 錬金術師が持っている犬笛を使えば支配できるねぇ……


 それって、その元凶の錬金術師を倒さないとダメっことぉ……無理だよぉ

 だいたい、ここにまだ、その件の錬金術師って居るのかしら?

 と…取り敢えず、鑑定結果をグレンとルリとユナに教えなきゃ……


 そう思ったセシリアは、ただいま猛然と張った物理遮蔽込みの隠蔽結界へと何度も突撃を繰り返すシャドウハウンドの情報を口にする。


 「みんな…今襲って来ているのは…シャドウハウンドっていう魔物で…錬金術師に改悪されているみたいなの………あと、飢餓状態らしいわ………改悪した錬金術師が持っている犬笛が有れば、支配できるって………」


 一生懸命にそう言うセシリアに、冷静に軍馬達に馬車を引かせているグレンが声をかける。


 「取り敢えず、このまま突っ切るか? 区域が変われば、追い駆けて来ない可能性もあるし……停まって、討伐するのは悪手だからな……この辺の見学は諦めて、振り切るで良いか?」


 グレンの言葉に、セシリアは頷く。


 「うん…取り敢えず、振り切れるなら振り切って……」


 「了解……ってコトで、ユナ…落ちるなよっ」


 一番危険そうなユナに、グレンがそう声を掛ければ、ルリの腰に引っ付いた状態で答える。


 「平気だよぉ~……グレンお兄ちゃんっ思いっきり飛ばしてぇ……」


 と、楽しそうに答えるユナに、セシリアは無意識に周囲を確認する。


 「グレンっ…あそこ………あの…二本の柱の間を超えたら、追い駆けて来ないかも……あそこから色がちょっとだけ違う」


 セシリアは、心配そうにいまだに腰に腕を回して支えてくれるグレンの腕に、ひっしとしがみ付きながら、見えた柱を指さすのだった。


 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る