第88話これは、イベントでしょうか?



 尻尾が異様に太く長い直立ワニの了承も得られたというコトで、セシリア達は奥へと向かう。

 その背中を、直立ワニは心配そうな表情で見送るのだった。


 あの人族と…その連れ達は大丈夫だろうか?

 2人の人族が居たが、ひとりは隷属された奴隷だったが………

 イヤ…でも…奴隷としての卑屈さが…彼には無かった


 どちらかというと……保護者のような視線をしていた

 そう……幼子を護るような…いや…愛しい者を護るような瞳をしていた

 かれらの関係性が……わからない


 それに、一緒ついて歩いている……2人の獣人あれは…人族ではない

 獣人のフリをしているだけの神獣と魔獣だ

 それも…神獣の方は…えらく幼いようだ


 まだ…誕生して…さほどの歳月を経ていない…本当に幼い…神獣

 ……そう…神獣なのに…やはりあの人族と従属契約がされていた

 ただ…あの神獣も…とても…あの人族を慕っている


 いや…それよりも…なんだ…あの魔獣は……もの凄く強い

 人族の基準からすれば災害級の存在

 …でも…アレも…何故か…あの人族に従属契約されている?


 あれは…魔神の領域に入り込んでいる…えらく危険な存在だ

 ただ…視たところ…力が不安定な部分があった

 もしかして…あの魔獣は…孕みなのかもしれない


 なんと危険なモノを…連れているのか……怖いな

 なのに…どの個体も虐げられているような雰囲気など無かった

 災害級の魔獣にいたっては…人族を護る対象のように大事にしているようだった


 何にしても……今の我には…なにもできはしないのだが………

 できうるならば…何事も無く…戻って来れればよいのだが

 あの遺跡は…もの凄く気まぐれだからな……


 そう…信じられないコトに…あの遺跡には意思があるのだ

 ある日突然、遺跡が意思を持ち…我々を見限った

 ただ、理由は…実は…思い当たるモノがいくつかあった


 ………が……禁忌に……触れたのだろう……

 あれの名前や容姿など…わからない…何時から…分からなくなった?

 これは……記憶から消去されているのか?


 ただ…漠然と…そうだと…感じるだけだが……

 遺跡が意思を持ち……我から本来の姿と力を奪った


 そして…我の同族達も…変化させられた

 しばらくして…変化した同胞は招かれるように…遺跡の奥へと消えた

 たぶんに…いずこかへと跳ばされてしまったのだろう


 遺跡の奥へと向かった同胞達の姿を、それ以来見掛けていない

 本来の姿と力を奪われ……姿を消した同胞達は何処に居るのだろうか?

 なのに…あの遺跡は…我の姿と力を奪い…この地に縫い付ける


 そう思いながら、直立ワニは洞窟の壁を見て、肩を落とす。

 その壁には、なにやらガリガリと傷付けた跡があるだけだった。

 自分が傷付けた洞窟の壁の傷を指先でたどり、諦観のこもった溜め息を落とす。


 我が遺跡から離れて…外に出て来れるのは……やはり…ここまでなのだな

 外へと出るコトが叶わぬならと…遺跡の中へ入っても…我は奥にまでは入れない

 嗚呼……我がこの地に縛られて…どのくらいの時が流れたのだろうか?


 あの冒険者らしい者達に…今が何時なのか…聞けば良かった

 我の姿を観ても…怯えなかった…あの人族だったら…聞けただろうか?

 問答無用で魔物として切りつけられたコトは何度もあったが………


 こんにちわ…などという言葉……はたして…何時ぶりの言葉だろうか

 もはや…他者のと会話など……失われて久しい

 変異させられた同胞達は…みな…どこかへと…消えてしまった


 …ハハハハ………言葉を忘れかけているのが……今日……わかった

 そして…喉も退化しているコトがわかった

 簡単な会話ですら…思うように……出来なかった


 そんなコトを思いながら、セシリア達が消えた遺跡に続く洞窟と、その奥に見える遺跡に、直立ワニは言葉無くゆるゆると首を振るだけだった。



   ◇  ◇  ◇



 自分達が、直立ワニに諦観と寂寥の混じった視線で見詰められてコトなど知らないセシリア一行は、難なく遺跡が存在している空間へと入り、みんなしてびっくりしていた。


 「はぁ~…これだと…外から観た巨大な岩の中をくり抜いて…ここに造ったのかしらねぇ?」


 うわぁ~……想像以上に本気で、おっきな空間よねぇ……

 いや『ダンジョン』には、そういうフィールドがあるって聞いたコトあるけど

 ここって『ダンジョン』なのかしら?


 そういう雰囲気がぜんぜんないんだけど………

 はぁ~……これって、いったいどうやって作ったのかしらねぇ?

 エジプトの3つ並んだピラミッドとが、全部はいるぐらいかなぁ


 本当に、天井は見えないし、空間自体ももの凄く広い感じねぇ

 そして、私の気のセイじゃなければ、全部が大きいのよねぇ

 建造物のサイズ考えると……巨人でも住んでいたのって感じよねぇ


 ここが本当に『ダンジョン』だと仮定したらなら

 スフィンクス並の魔獣とか現われてもおかしくないわねぇ

 ただ…なんていうか……もの凄い虚無感のような…静寂が支配しているわね


 死臭ではないけど…それに類似したモノが漂っている感じ?

 けして、澱んでいるわけでも無いし…瘴気っぽいモノもないけど

 そう……生き物の気配が…しないのよねぇ………


 んぅ~つい最近…これと似たような………何処だったっけ……

 あっ………そうよ…この妙な静寂と…冥府を連想させるような雰囲気……

 これって…龍帝陛下が繋がれていた場所に似ているんだわ


 ってなに……うわぁ~……もしかしてぇ~……やらかしたぁ~…

 うえぇ~…私ってば自分でイベントを引いちゃったってコトぉ~

 もう、ヒロイン疑惑はお腹いっぱいだっていうのにぃ~……


 嗚呼……好奇心に負けて、またやっちゃったってコトなのね

 そうなると、あの直立のワニさんも、イベントのキーだったりするの?

 素通りしちゃったんですけど……まだ、間に合う?


 選択に寄って、解放ルートや破滅ルートがあったりして………

 いやいや……まだ、取返しが作って思いましょう

 まだ本格的に『ダンジョン』に踏み込んでないハズ……たぶん


 だって、遺跡の中に入ると強請転移させられる場所があるっぽいコト言ってたし

 周囲は大丈夫らしいから、まだセーフってコトで………

 そうよ、ここは仕切り直しして、ルリやグレンと今後の方針を考えよう


 そう思ってから、セシリアはハッとして、周囲を改めて見直してから、みんなに言う。


 「ねぇ…取り敢えず、休憩にする? どうも危険は無さそうだし……あの直立ワニさんも、周囲は大丈夫って言っていたから……奥に行かなければ、大丈夫そうだし……」

 

 セシリアの言葉に、ルリがまず賛成する。


 「そうだね…別段、嫌なモノは感じないから、休憩しても良いんじゃないかい」


 ルリの言葉に、ユナも賛成する。


 「ユナもさんせ~い」


 「そうだな…取り敢えず、冒険初心者なリアのコトを考えると、適度な休憩は必要だな…ユナだって、まだまだ子供だからな…無理は禁物だ」


 周囲を警戒しているグレンも、危険なモノを感知しなかったコトで、了承する。


 「リア…結界を張れるか確認した方が良いよ……結界が張れるなら、ナナ達を出してやれるからね……特に、子供達は何処に行くか分からないからね」










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