第87話洞窟の中は?



 3時のオヤツと称して、お肉と付け合わせのフライドポテトを楽しんだセシリア達は、当初の予定通りに洞窟へと足を踏み入れていた。

 勿論、洞窟に入る前に、一度軍馬達とナナに子供達も出して、ちゃんと3時のオヤツを食べさせたコトは言うまでもない。


 なにせ、洞窟の奥の方にあるらしい遺跡らしきモノが、古代遺跡で『ダンジョン』化などしていたら、どんなコトになるか分からないからだ。

 何せ、本物の『ダンジョン』だったら、足を踏み入れたが最後、いつ次の食事にあり付けるかわからないという事態にだってなりかねないのだから。


 だから、洞窟に足を踏み入れた時から、セシリアは緊張していた。

 ここに洞窟が存在しているコトが周知されているモノなのかにも寄るが、その可能性は限りなく低いコトを全員りかいしていた。


 何故なら、一番近い小街道が途切れ途切れになっていて、近くの村がスタンピードによって崩壊しているコトを考えれば、その遺跡が『ダンジョン』である可能性が高いのだ。

 問題は、今、セシリア達が居る地域が、どの国に属しているかに寄るのだ。


 本来は、古代遺跡や『ダンジョン』などは、その地域を支配している国が、定期的な討伐などをする義務があるのだ。

 ただし、うまみが無い地域などは、国の支配地域とはならず、国家間の空白地帯となっているコトも多々あるのだ。


 また、その地域を領地としていた国や領主などが滅びて、空白地帯となったままだったりするコトもあるのだ。


 強大な妖魔や魔王などと呼ばれる、人知を超えたモノの逆鱗に触れ、滅亡に追い込まれた場所などは、どの国も手を出さないのがほとんどだったりする。

 そう、其処には、何も無かったコトとしてスルーする傾向にあるのだ。


 誰だって、火中の栗となっている場所に手を出して大火傷などしたくないから。

 そうやって、滅亡後に放置される区域もそこかしこに点在していたりする。


 過去には、そういうモノを無視して、逆鱗に触れて崩壊した地域に眠る財宝に目がくらみ、手を出して連鎖で消滅した王国や属国もあるのだ。

 そう、宗主国の無謀なコトに巻き込まれて、属国まで同じ咎を背負わされて、一蓮托生で滅ぼされた国もあったのだ。


 一応、王太子の代わりが務められるように、そういうモノの処理もさせられていたセシリアは、首を傾げていた。


 ん~……なんか…記憶に引っかかるのよねぇ………はぁ~…困ったわ

 どうして、あの廃村の名前を視た時に、気付かなかったのかしら

 たぶんだけど…あの…ロマリス王国よりもずっと古い時期のモノだわ


 子供の頃に読んだ歴史書に、消えた王国を書いたモノがあったのよね

 今よりも、国の数が多くて、空白地帯になっているところにも国があったのよね

 それを題材にした、古典風の娯楽小説なんかもあって面白かったわねぇ


 その中には、魔王と取り引きして、魔物化したエルフの話しなんかもあったわね

 結局、その原因は人族の王侯貴族で、美しいエルフを捕らえて弄んだコトだし

 妖精や精霊にも、似たようなコトして似たように国が滅んだの多かったな


 洞窟の奥にある遺跡も古代遺跡で、そういう経緯の末路ってコトありそうだし

 だいたい『ダンジョン』が出来る原因て、人族が調和を乱したモノが多いのよねぇ

 一応、みんなに警告しておいた方がいいかしら?


 これから踏み込むのは、古代遺跡の可能性が高いのよねぇ

 その上で、かなぁ~り高い確率で『ダンジョン』化しているかもって

 それにしても、洞窟の中入ってそこそこ時間が経っているのに何も居ないわね


 セシリアが小首を傾げて、不思議がっていると、ルリとグレンがピタッと足を止める。

 それにあわせて、ユナとセシリアも足を止める。


 セシリアは、足を止めたルリとグレンを見て、一応声を潜めて問い掛ける。


 「どうしたの?」


 「しっ……」


 ルリの言葉に、セシリアは問いかけをやめて、周囲に意識を向ける。

 と、少し奥から、何かが這いずっているような音がした。


 え~とぉ……もしかして、這いずりモノがいるの?

 乙女ゲームでの古代遺跡の『ダンジョン』だと……

 このパーティーは女性が多いので、ゴブリン系やオーク系が多かったのよね


 男性は、グレンしか居ないから、ラミア系の魅了持ちじゃないはずなんだけど

 いや、それでも、よく似た世界観なだけあって、これはゲームじゃないのよね

 現実に生きているし、個々にちゃんとした意思を持っているんだから………


 そう思いながら、息を殺して這いずるモノの音にドキドキしながら、音の正体が見えるのを待つ。

 と、さほど立たずに、直立のワニのような生き物が姿を現わす。


 ただし、その尻尾が異様に太く長かった。

 身長の倍ほどの長さの太い尻尾を引き摺りながら、洞窟の方へと足を踏み出し進んで来る。


 セシリアは、その姿を思わずマジマジと見て小首を傾げる。

 と、長い尻尾を持つ、直立ワニのようなモノと視線が合う。


 あら……もの凄く綺麗なエメラルドグリーンねぇ…

 ちょっと蒼みががっていて、深い色合いだコト

 翡翠とはちょっと違って、透き通るような色で……


 なんか、随分と知的な雰囲気ねぇ……ン……

 あらあら……もしかして……会話とかの意思疎通が出来るような気がしますねぇ

 ここは、思い切って、声をかけてみようかしら………


 身を隠せるような物陰の無い洞窟の中で、距離があるとはいえ、ばったりと真正面から相対してしまい、警戒心が最高潮になっている中で、セシリアは交信を試みた。


 「え~とぉ…その…こんにちわ……ここに、住んでいるんですか?」


 セシリアの行動というか、言葉に、緊張しきっていたグレンとルリとユナは、思わず気が抜けてしまう。

 それは相手もそうだったらしく、表情は乏しい…というか、ワニによく似た鱗模様の皮膚の為、読み取りずらいが、ちょっと驚いているようだった。


 「…………コン…ニチ…ワ……」


 少したどたどしいものの、返事が返って来たコトで、セシリアはにこにこしながらルリ達よりも一歩前に出て、もう一度問い掛ける。


 「もしかして、ココに住んでいるんですか? たんなる洞窟だと思って入ってきちゃったんですけど……仲間が…奥で遺跡みたいなモノあったっていうから、探検しにきたんですけど……」


 セシリアの言葉に、直立ワニもどきは、首を傾げてから口を開いた。


 「ココ…スンデル…デモ……タ…ンケン……スルナラ……スレバイイ……タダ…遺跡ハ…キケンダ……周囲ナラバ…観テモ…イイ…奥…ニ…転移……ドコ……跳バサレ…ル」


 セシリアが友好的に挨拶をして、会話したコトで、遺跡の周囲程度なら大丈夫だが、奥に入ると転移でどこかに飛ばされるらしいコトがわかって顔を見合わせる。


 「どうする? 観るだけ観るか?」


 グレンの言葉に、セシリアは瞳をキラキラさせながら頷く。


 「観てみたいっ」


 いや、危険かもとは思うけど、こう…なんかワクワクして……

 ちょっと冒険してもイイよね……ルリだって居るし……

 見た目はちょっと怖いけど、なんか危険な感じもしないし






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