きららむし番外編

鳥尾巻

三森世那のいいわけ

「信じらんない!」


 奈子なこちゃんは僕の手を振り払って走り去った。今日は楽しいデートだったはず。

 

 夏休みに入って、僕は一大決心をした。これまでの後ろ向きで投げ遣りな自分をやめて、好きな子に告白しよう。今までの経験から思うに、自分の容姿はそんなに悪くない。だからまずは外見から整えた。

 

 当日は心臓が飛び出すかと思ったけど、彼女は僕の精一杯の告白をOKしてくれた。もう天にも昇る心地。

 何度かデートに誘い、夏休み中は楽しく過ごせたと思っていた。なのに何が駄目だったんだろう。


「あんたが悪い」


 数少ない話し相手である姉の芙蓉ふようが、話を聞く前から決めつけるように呟いた。自分だって建築物オタクで人類の雄には興味ないくせに、「女心が分かってない」なんてのたまう。


「なんで?」

「じゃあ今までデートで行ったところ言ってみ?」

「図書館、恐竜博物館、水族館」

「今日は?」

「寄生虫博物館」

「馬鹿なの?そんなの喜ぶ訳ないじゃない!」


 世界最長サナダムシ。見せたかったんだけど駄目だった?

 姉の罵倒を聞き、大いに反省した。生物オタクの僕の話は聞いてくれるけど、彼女は虫が嫌いだったんだ。


 数日後、以前一緒に夜光虫を見た海に彼女を呼び出した。お盆過ぎだから海月も発生していて海水浴客の姿もまばらだ。

 なんて謝ろう。言い訳のしようもなくて、もう腹を括るしかない。一緒に砂浜を歩きながら、僕は重い口を開いた。


「この前はごめんね」

「いいよ。それが世那せな君だもん」


 奈子ちゃんは、潮風に舞う髪を押さえ、諦めたように笑った。

 そんなこと言わせたかった訳じゃない。と、俯いた僕の視界に光るものが映る。砂に紛れたそれを拾い上げ、彼女に言った。


「今度は奈子ちゃんの好きな所に行こうよ」

「うん」


 次の映画デートの時に、僕は砂浜で拾ったシーグラスで作ったネックレスを贈った。奈子ちゃんは「やっぱり世那君は器用だね」と可愛く笑ってくれた。

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