【KAC20237】ブラコン妹は兄が書く物語を読みたい
猫月九日
第1話 大好きな兄
「嘘だ……、信じられないよ……」
私には兄がいた。
8も歳上になる兄はとても優しく優秀で、共働きで忙しい両親に変わって私の面倒を見てくれた。
いわゆる親代わりというやつだろう。
今考えると、兄だって遊びたい盛だったと思うのに、私の面倒を文句一つ言わずに面倒をみてくれたのは感謝しかない。
兄は物語を考えるのが得意で、将来は小説家になりたいとのことだった。
私は兄が考える物語が好きで、いつも新しいお話を聞かせてくれとせがんでいた。
もっとも、少しおかしなところがあったりすると、
「あれ?異世界転生したのは、王子様だけって神様が最初に言ってなかった?」
「えっ、えっと……、それは……」
「それに、王子様はこの世界で惟一の勇者じゃなかったっけ?」
「あー、きっと神様が忘れてたんだよ」
「ふーん、神様なのに、間違ちゃったんだ」
「神様だって間違うこともあるさ」
子供らしくない指摘をする私に兄は困ったように笑っていたっけ。
私が成長して中学に上がるころ、20を超えた兄は家を出ることにした。
立派なブラコンになっていた私は泣いて嫌がった。
「嫌だ嫌だ!なんでお兄ちゃんが家出ちゃうの!」
「こら、いい加減にしなさい」
「あなたもそろそろ兄離れの時期よね」
両親は泣きつく私を兄から引き剥がす。
今思うと、特殊な才能を持っていたせいで、学校で友達も全くできず、兄に依存していた私を両親は心配していたのだと思う。
「
泣きつく私に兄は優しく撫でながらこう言った。
「いつもお前が聞いてくれたお話をもっと沢山の人にに届けたいんだ」
兄が作った物語が多くの人に届く。それは素敵なことに思えた。
ダダを捏ねていた私だったけど、最終的には、兄を応援して送り出すことになった。
……週一で連絡する約束を取り付けたりしたけど。
兄が死んだと聞いたのは、それから3年後のことだった。
中学も卒業し、高校に上がろうかなんて頃。
私はなんとか兄離れをしようと、友人を作ろうと努力したけど、相変わらず一人だった。
「愛衣、急いで東京に行くよ」
「どうして……?」
「いいから!急ぐよ」
両親が私を連れ出した。
連れて行かれた先は病院……
信じられなかった。今も信じられていない。
あの大好きだった兄が死んでしまったことを受け入れられることなど私にはできなかった。
「嘘だ……、信じられないよ……」
兄が死んでしまったその事実を受け入れられない私は高校に通うこともなく引きこもるようになった。
いつも、兄が作ってくれた物語を思い出しては、書き出す毎日。
小説家になりたいと言っていた兄、その物語を思い出すと兄が近くにいるような、そんな気がしていた。
「……これで終わり」
兄が話してくれた物語は全部覚えている。1年くらいかけて、全ての物語を書き出してしまった。
書き出してしまった私は呆然としてしまった。
少しの満足感と大きな虚無感。
これでもう、兄に会えることがなくなってしまった。
兄が紡ぐ物語もこれ以上増えることはない。
それでも、私はなんとか兄と触れ合えることができないか考えた結果。
兄の言葉を全部書き出すことにした。
兄が私に話してくれた物語以外にも、私との日常会話、両親との会話。
覚えている限り全部。
このときばかりは、特殊な才能を持って生まれてしまったことに感謝をした。
そして、兄が生きた痕跡を示す、膨大なデータが出来上がった。
これで、また一人に戻ってしまう。
そんな時に私に一つの情報が飛び込んできた。
それはネットの記事。
『あの大物歌手の歌声が再び蘇る!』
それは、過去に生きた伝説的な歌手の声を再現して、新しい歌を歌わせることに成功したというニュースだった。
もっとも、聞いてみたら、凄く違和感があったけど。
そのネット記事にはこうも、書かれていた。
『新しい歌を歌わせることは成功した。次は日常会話をさせることを検討している』
死んだ人の声を再現して話をする。
それは夢のような出来事に思えた。
膨大なデータさえあれば、死んだ人さえも蘇らせることができる。
私は、兄を、蘇らせることにした。
幸いにも私には才能があった。
そのおかげで、周りからは浮いてしまったけど、今はその才能に感謝をしている。
そして、ちょうど世の中には彼を作り上げる環境が整っていた。
決まっていた高校を辞退し、遠くの学校に通うことに決めた。
私がやろうとしていることがおかしなことだとはわかっている。
それを両親に咎めれるのが億劫だった。
結果、兄の死から立ち直ったと勘違いした両親は私を別の国に送り出してくれた。
通う学校はその分野の専門家が教授として教えている学校だ。
一石二鳥になった。
元々才能があった私は無事に兄のプロトタイプを作り上げることに成功をした。
自宅で一人緊張をしながらVRHMDを被って彼に会いに行く。
バーチャル空間は実家を完全に再現した。
玄関から入り、少し急いで兄の部屋に向かう。
ガチャっと兄の部屋を開けて入ると。
「やぁ、愛衣。おかえり」
思わず、泣きながら抱きついてしまったのは秘密だ。
こうして私はまた兄に出会うことができたのだ。
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短編ですがちょっとだけ続きます
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