KAC20237 「いいわけ」はいいわけや。

せやかて、やってもうたもんはしゃあないやん

「あ」

　足元には、画面がバッキバキに割れたスマホ。

「あぁっ！　やってもぉたぁぁ～っ！ ごめんなぁ、スマホぉぉぉ～っ！」

　慌てて拾い上げて、画面をタッチしても、全然反応せぇへん。

　あかん……完全に逝ってしもた。

　スマホがないと、ホンマめっちゃ困るんよなぁ。

　まず、誰とも連絡が取れん。

　時計代わりにしていたから、時間も分からん。

　スマホひとつで済んでいたことが、なんも出来んくなった。

　スマホを壊しただけで、こんな不便になんねんなぁ。

　早よ、修理に出すしかないわ。

　面倒臭いけど、ケータイショップ行かんと。

　スマホの修理って、なんが必要やったっけ？

　壊れたスマホ本体。

　身分証明書。

　修理代。

　あ、財布に金が入っとらん。

　行きしな（行く途中で）、銀行で金降ろさんと。

　ついでに、記帳もしとこ。

　完全に取り乱して、あたふたと探し回る。

　悪いことは重なるもんで、手を滑らせて、コップを落として割るし。

　ガラスの欠片で、手をザックリ切ってまうし。

「なぁんっ！　もぉぉぉおおお～っ！」

　カーペットに、ボタボタと血が流れ落ちて、さらに焦る。

　半ベソ掻きながら、台所までドタバタ走って、水で傷口を洗い流した。

　タオルで水気を拭くと、白かったタオルが、あっという間に真っ赤に染まる。

「うわわわっ、えげつなっ！　これ、ヤバないっ？　救急箱、どこやったっけっ？」

　真っ赤に染まったタオルをゴミ箱へほかし（捨て）、どうにか応急手当した。　

「あ～あ、服も血まみれやん。これ、落ちるかなぁ……」

　どうせ出掛けなあかんかったから、ちゃっちゃと着替えよ。

　パニクっとったから、もう部屋中、しっちゃかめっちゃか（めちゃくちゃ）。

　扉も、引き出しも、全部開けっ放し。

　我ながら、散らかしすぎたなぁ。

　でも何よりも、スマホが最優先。

　直すん（片付けるの）は、帰ってからでええか。

　とにかく今は、スマホのことで頭がいっぱいで。

　うっかり、玄関のカギを掛け忘れて飛び出した。

　これがのちに、大変な事態へ発展するとも知らずに。