良いわけねぇだろ!

nou

違う違う違う!

「これは事件ですね」

「いや、違うから」


 事件だとよくも分からない部外者がそんなことを言い出した。


「事件はそうですね。あなたがその方を殺害した。それがこの事件の肝です」

「いやだから違うって」


 これは劇で起きた事。そう言っているのにいきなり出てきた洒落た格好で少し金が掛かっていそうな服を着た男はそんな戯れ言を口にする。おかしな風体。大正染みた古めかしい格好だ。


「倒れた女性を滅多刺し。猟奇的だ。あなたはそれほど迄にその女性に殺意を覚えていた。何故でしょうか?」

「だから、劇場の事だろう。あれは偽の包丁でアイツが死んだのは別の時だ」

「そう、だったでしょうか?」

「はあ?」


 意味の分からない虚言。付き合っていられない。そう思いさっさとお帰り願おうとドアを閉めようとすると男はステッキをドアに挟みこう言った。


「思い出して下さいよ」


 はっ、と目が覚めた。

 嫌な夢見だ。何でこんな夢を見たんだ。そう自問自答をすれば直ぐに答えは出た。


「あ、あぁ。ああ、そうだ。俺……」

「大丈夫?」


 そう尋ねられた時不覚にもどきりと心臓が跳ねた。怖いと思ったのも恥ずい。


高根たかね

「なに?」

「俺、どうして此処に?」

「はあ? あんたが階段から転び落ちたからでしょう?」


 何言ってんだか。そう言いたげにやれやれと肩を上下に揺らす様はいかにもあきれたと言いたげだ。


「なんで?」

「はあ……。それも覚えてないって重症ね記憶喪失にでもなったの?」

「かも、な」


 記憶を辿ればそうだ確かに階段から転び落ちたのを覚えてる。けど何故かがどうしてがどうしても出てこなかった。

 俺は確か。ああそうだ。


「やってない」

「あんたがやったの」

 高根はベッドに寝転ぶ俺に股がってこう言った。


「あんたが私を落としたの」

「違う。違うって! 違うんだ! 俺はやってない。お前とは寝てない!」

「そう。これから寝るの。準備は良いわね?」

「いいわけねえだろ!」

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