第14話 やさしくしてね?

「お風呂が沸きました」と浴室の方から聞こえてきた。体を強張らせる私とは裏腹に、凛音は白いワンピース姿で楽しそうに微笑んでいる。


「お風呂、一緒に入りましょうか」


「……うん」


 私は頬を赤らめた凛音に手を引かれるまま浴室へと向かう。胸がばくばくと脈動して、平常心が吹っ飛んでしまいそうになるから、頭の中で可愛い子猫と戯れる想像をしてみる。純粋無垢な子猫がにゃーとなくたび、邪な気持ちが消えていくようだった。


 私は悟りを開いた状態で、脱衣所に入る。無表情でトップスを脱ぎ、インナーを脱ごうとすると、凛音が凝視してくる。私がちらりと見るとぷいとよそをみるけれど、バレバレだ。


 そんなに私の体、見たいのかな。


 ちょっと嬉しいと同時に興奮しそうになってしまう。だけど興奮はだめだ。凛音に手を出すわけにはいかない。凛音は十七歳なのだ。六歳下なのだ。いたいけな年下の子を汚すわけにはいかない。


 私は頭の中で子猫の喉元を撫でて、にゃーと鳴かせた。悟りを開いた状態で目を閉じ、インナーを脱ぐ。そしてスキニーも下ろした。ちらりと細目を開けると、凛音はワンピースを脱ぐのも忘れて、私の体をガン見していた。


 なめるように上から下へ、下から上へと視線を這わしている。顔は真っ赤で、息は荒く、放っておけば今にもライオンのように飛びかかって来そうな気配すらある。流石に我慢できなかった私は、ジト目で凛音をみつめた。


「あの、恥ずかしいんだけど」


「えっ。な、何のことですか?」


 凛音は数センチくらい飛び跳ねてから、鏡の方を向いた。鏡の中から視線を感じるなと思って目を向けると、またしても視線が合う。凛音はかぁっと顔を耳まで赤くしていた。


「だ、だって仕方ないじゃないですか。好きな人の裸なんですから……。美海さんこそ私の裸、興味ないんですか? 私は顔と唇だけの女なんですか!?」


「いや、興味はあるけど……」


「……だったらもっと、こう。がばって無理やり脱がすとか! そのまま床に押し倒して、えっちなことするとか!」


 凛音は激しいジェスチャーで、願望の強さを表現していた。私は凛音をジト目でみつめながらつぶやく。


「……本当にいいの?」


 私にだって性欲はあるのだ。もしかすると凛音は私に性欲がないとか思ってるのかもしれないけど、今日はもうずっとドキドキさせられっぱなしで。


「……はい。だから美海さん、ワンピース、脱がしてもらえますか?」


 思わずごくりと生唾を飲んでしまう。これまでの人生で誰かに欲情するとかなかったから、初めての感覚だった。脳が興奮して、凛音のこと以外、何も考えられなくなってしまうのだ。


 私は凛音に背中を向けさせて、ワンピースのファスナーに手をかける。


「で、でも脱がすだけだからね? そんな、襲ったりとかはしないからねっ?」


「……はい。分かってますから、早く脱がせてくださいっ」


 私は顔に熱を感じながら、ファスナーをさげていく。下げ終わると、白いインナーがみえた。その下にうっすらとブラが透けている。私がワンピースを脱がすと、凛音は上半身こそインナーで覆われているけれど、下半身はショーツだけの姿になっていた。


 そこまで来ると、凛音は自分の手であっという間に下着姿になってしまった。凛音の胸は着やせするのか思ったより大きくて、今度は私がガン見する番だ。


「……どうです? 襲いたくなりましたかっ……?」


 凛音は顔を赤くしながら、甘い声でささやいてくる。我慢しろという方が酷なこの状態で、私はなんとか凛音から目をそらした。やっぱり凛音に手を出すわけにはいかない。こういうのはもっと深く愛をはぐくんでからすべきことだ。


 私は下着を脱いで、浴室に入る。凛音は不満そうに頬を膨らませていたけれど、すぐに私の後をついてくる。私が湯船につかると、凛音も湯船につかった。


 湯船の中で凛音は私に抱き着いてきた。その豊満な胸が体に押し付けられるせいで、胸の先端の硬さがありありと伝わってくるのだ。


 凛音は艶めかしい表情で、私の唇にキスを落とした。


「……好きです。美海さん」

 

 熱い視線でみつめてくるものだから、私は思わず目をそらしてしまう。


「わ、私も好きだよ。だからなおさら大切にしたいんだよ。……こういうのはやめて欲しい」


 でも凛音は私から離れてくれなかった。


「えっちなことをするのって大切にしないってわけじゃないと思うんです。むしろ大切だからえっちなことをするわけで。……私、美海さんに大切にしてもらいたいです」


 そんなこと言われたら反論できなくなってしまう。でもやっぱり私の道徳や倫理は凛音に手を出すことを良しとはしていなくて。


 私は逃げるように湯船を出て、体を洗い始めた。すると凛音はすぐに湯船を上がって、手にボディーソープをつけた。そしてそのまま、後ろから私の背中に触れてくる。


「ひゃんっ」


 突然のことに、変な声が出てしまった。すると凛音はますます興奮した様子で、私の背中を撫でまわしてくる。


「……気持ちいいですか?」


 気持ちは良い。でも、凛音の手はなんだかいやらしくて、否応なしに性的な気分を刺激されていくようだった。背中を洗い終わったのか、凛音は前にまで手を伸ばしてくる。


「ちょ、ちょっと!?」


 凛音は胸を背中を押し当てるようにして、私のお腹を撫でまわしている。やっぱり凛音の先端はすっかり固くなってしまっていて、私の体でこんな風になっているのかと思うと、どうしても興奮は抑えきれない。


 私の先端も張り詰めてしまっている。触らなくても分かってしまうほどだった。


 やがて凛音は私の胸に手を伸ばした。優しく丁寧に洗っている風だけれど、円を描くようにして指先が少しずつ頂点へと近づいている。


「私は美海さんのこと、大切にしてるだけです。だから美海さん。美海さんだって私のこと、大切にしていいんですよ?」


 そうつげて、凛音は頂点を軽くはじいた。


「……んっ」


 大切な人に大切なところを触れられて。それだけで全身に電流が走っていくようだった。不快感はなくて、むしろ幸せで、とても抵抗する気にはなれない。


 やがて凛音の指先は、下腹部へとのびる。私は凛音の方へ顔を向けるけれど「やめて」とは言えなかった。そのまま、凛音は目に情欲の炎を宿らせて私の唇を奪った。


 当たり前のように、舌が入ってくる。かと思えば凛音の指先は私の大切な場所の周りをなぞり始めた。快楽の渦に飲み込まれそうになるけれど、何とかこらえる。このままだと全てを凛音に任せてしまいそうな気がした。


 だから私はなんとか、声を絞り出す。


「り、凛音っ。私も、凛音のこと、大切にしたいっ」


 すると凛音は甘い声でささやいた。


「……私のこと、襲ってくれますかっ?」


「……うんっ」


 凛音は喜びに表情をきらめかせていた。凛音は私の体から手を引くと、完全に無防備な状態で目を閉じる。私は荒い息のまま、貪るように凛音にキスをした。そして豊満な胸に手を伸ばして、先端に触れる。


「あ、ん……っ。美海さんっ……」


 先端をはじくたび、凛音は腰をよじらせていた。だけど胸だけじゃ満足できなくなったのか、私の手を自分の手で下腹部へと持っていく。


「……ここも、触ってくれませんかっ?」


 美海の大切な場所はとろりとした液体で溢れていた。私は興奮のままに傷付けてしまわないように、大切に大切に触れていく。だけどそれがもどかしかったのか。


「いれてくださいっ……」


 なんて甘い声をあげるのだ。私はあまり自分で慰めることをしなかったから、どこを触ったらいいとか分からない。でも爪はちゃんと切ってあるから、入れても大丈夫だとは思う。


「い、いれるねっ?」


「はいっ」


 とろんとした表情の凛音に微笑まれて、私は指を差し込んだ。その瞬間、凛音は痙攣するように震えた。かと思うと、溢れさせながら脱力して浴室の床に倒れ込んでしまう。


「……私、性欲が強いんです。だから、昔からずっと触ってて、敏感でっ」


 言い訳するように、凛音はつげた。興奮が抜けたのか、恥ずかしそうに顔を手で隠している。だけどすぐに手をどけて、私に微笑みかけてくれる。


「でもまさか、好きな人の手で気持ちよくなれるなんて、思ってもなかったですから。一人で死んでいくものだと思ってましたから、本当に、幸せなんです」


「……私も、幸せだよ」


 それは本心だった。これほどまでに誰かと深く関わったことがなかった私は、身体的なつながりというよりも、こんなことまで許してくれるまでに凛音と深い関係になれたことに、心から喜びを感じていたのだ。


 私は興奮のままに、床で脱力する凛音に覆いかぶさった。そしてそのまま、唇を触れ合わせる。手を伸ばしてまた凛音の大切な場所に触れようとするけれど、凛音は突然、私を押しのけて、私の上に覆いかぶさってしまう。


「……今度は、私が美海さんを大切にする番です」


 凛音はその美貌をふんだんに活用した、サキュバスのような妖艶な笑みで、舌なめずりをした。その瞬間、体の芯がぞくぞくするのを感じた。


「……やさしくしてね?」


 そう告げた瞬間、凛音は理性を失ったかのように、私の体をいじめてきた。でもその根底にあるのは優しさで、私を大切にしたいという思いだった。


 苦しいわけではなくて、心から幸せになれる。そんな交わりだった。だけれど家事だけでなく夜のスキルですら勝てないのだと知って、少し悲しくなった。

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