第6話犬の散歩にマナーが欲しい



 そんな和輝に、なおも注意しようと口を開く前に、正当な主張をする。

 勿論、その内心はかなりの怒りがグツグツと煮えていたが………。


 ったく、少しは察しろよなぁ~……女の子がボロボロの姿なんだぞ

 直ぐに、怪我の手当てとかって、気が廻らないのかよ


「皆さんもお忙しいところ、ご迷惑をおかけしました

 もう、俺がいますので、なんの危険もありませんから


 それに、見ての通り、桜は飛び出して来た野良猫に驚いた時

 こいつらに引っ張られて、派手に転んでしまったようなので


 早々に、手足に負った傷の手当をしなければなりません

 雑菌で傷口が化膿しても困りますので………」


 言外に、傷が膿んだりしたらあんたらのセイでもあるぞというニュアンスを込めて言う和輝に、それでも大きな犬を連れて歩くのは危険だという偏見でもって注意しようと口を開く。


「しかし、君だって、その姿学生でしょ?」


 大丈夫なのかい?何かあった時に、責任問題になった時に、責任取れないでしょう的な言い方をする警察官に、和輝はあえて反論せずに言う。


「ええ、見ての通り、っちぴちの高校生ですよ

 だから、若い分、運動神経も力も、こいつらを抑えられるだけあります


 それよりも、さっきも指摘しましたが、最近、野良犬かと思うような

 野放しの犬がうろついているんですよね


 あと、それって繋いでいる意味があるのかっていうような

 引き綱の紐が付いていても、ズルズルと無用に綱を伸ばして


 引き綱の意味が無いような姿で、散歩している人達を

 あなた達が、きちんと注意してくれませんか?

 はっきり言って、ものすっごく迷惑なんですよ


 こっちは、見ての通り、大きな犬ってコトもあるので

 気をつけて時間をズラしたりして、散歩しているのに………


 わざわざ、俺達がこいつらを散歩させるのと同じ時間帯に出てきて

 面白半分に、自分の犬をけしかけて来たりする人もいるんですよ


 見ての通り、見るからに、こいつらが躾けられていておとなしい犬

 ってコトは、偏った知識・・・・・偏見を持たない・・・・・・・警察官なら、わかるでしょう


 せっかく交番から出てきたんですから、その辺も、良く見て注意して

 歩いてくれると助かります


 ほら、ああいう人とか…危ないから、注意してやってください」


 皮肉が含まれた和輝の言葉に、あっ嫌な展開っと思って、数名がそっちに注意に行く。

 が、まだ納得が出来ずに、和輝が桜の治療をしたくて帰ろうとするのを阻む警察官が、そこに数人残った。


 ったく、まだ居座る気がよ?

 こっちは怪我人が居るってーのに、自分勝手な正義感だけで………


 ボロボロに怪我している女の子が、可哀想とか思わないのかよ

 すぐ治療しなきゃって頭無いのか?


「あっちにも似たような人達が、ズルズル紐で散歩してますけど?

 それに、俺は桜の治療もあるんで、さっさと帰らないと………


 見ての通り、結構傷が多くて、雑菌も入っているようですから

 膿んだりしないように、できるだけ早く消毒とかしてやりたいんですよ

 傷口が膿んだりすると、醜い傷跡残るかもしれないですしね


 俺が言っている意味、理解わからないなら、はっきり言いましょうか?

 流石に、治療する為に帰ろうとするのを邪魔するの止めてくれませんかね


 この桜のボロボロな姿を見て、可哀想って思う気持ちないんですか?

 あっ………あっち行って、止めてやらないと……ああ、危ない」


 和輝の強い言葉にグッと詰まった時に、びっくりした声で指差す。

 和輝の周りに残っていた警察官が慌てる。


 其処には、牙を剥いて飛びかかろうとしている中型犬がいたのだ。

 が、当の飼い主と友人らしきオバサン達は、お喋りしながら歩いている為に、全然そのコトに気付いていなかった。


 警察官の眼前で、ちょうどオバサン達の側を自転車で通り抜けようとしている少年に、牙を剥いて襲い掛かろうとしていた。


 そう、のほほんとお喋りに夢中なオバサン達が連れている中型犬の引き綱は、その意味をなさないぐらい、物凄く長かった。

 中型犬は、紐がズルズルと長く伸びるのを幸いに、自転車で側を通り抜けた男の子を追い駆けて行き、その足に噛み付こうとしていた。


「えっ………本当だ、危ないっ」


 和輝が指差した方を振り返った警察官のうち2人が、慌てて注意しに走って行く。

 それでも、残っていた1人に、和輝は内心で呆れながらも言う。


「結構いるんですよ、ああいう無責任な人達って

 いくらこっちが注意しても、聞く耳なんてないんですよね


 警察官みたいな、治安を守る役職の人に言われても………

 ああ…やっぱりね………」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る