いいわけ機能

光河克実

 

●顧客向けプレゼンテーションの様子より抜粋


 このたび、ワタクシども松芝電機が社運をかけて開発した新家電シリーズのコンセプトは、“より人間らしく、温かく”でございます。これはあらゆる高機能を兼ね備え、快適な暮らしを実現した弊社の家庭用電化製品に、更に“人間臭さ”を足すことで各人の生活に和みを与えようという発想によるものでございます。そのシリーズの名称は“人間だもの”。


 この“人間だもの”シリーズの各電化製品には“いいわけ機能”が搭載してあるのが特徴でございます。。

 例えばこのシリーズのエアコンは、十回に一回程度、わざと誤作動を起こし冷房が暖房になるようプログラミングされております。その様子を一つ紹介致しましょう。

例1(アニメ)

女:ぜんぜん涼しくならないと思ったら、暖房じゃない!

ナレーション:室内の人が文句を言うとボイス機能のついたエアコンがいいわけを言います。

エアコン:ダッテ、アナタガダンボウノボタンヲオシマシタヨ。

女:押してないわよ!

エアコン:イエ、オシマシタ

ナレーション:そんな押し問答の末、最終的にはエアコンの方が折れます。

エアコン:ワタシノマチガイデシタ。ゴメンナサイ。

女:いいのよ。人間、誰にでも失敗はあるわ。そう“人間だもの”。・・・


 如何でしたでしょうか?失敗し謝罪した相手を“許容する気持”、たまに失敗するからこその“愛おしさ”の醸成、これこそが現代社会の人間同士のギスギスした関係や緊張の緩和をもたらすのであります。それを各家庭で小さい子どもからお年寄りまで今一度、学び・思い出して欲しい、そんな思いの詰まった家電シリーズなのです。

また、次のような使い道のパターンもございます。例えばトースターです。見てみましょう。

例2(アニメ)

男:あれ?トースト真っ黒だぞ。焼きすぎだ!

トースター:ダッテ、コゲテルグライノホウガスキト、マエニオッシャッタカラ。・・・

男:言い訳すんなよ!

トースター:スミマセン。ヤリナオシマス。

男:馬鹿野郎!パン、もう無いよ。どうするんだよ!

ナレーション:まだまだ続くこの男性の罵詈雑言、罵詈雑言、罵詈雑言。

トースター:スミマセン、スミマセン、スミマセン。

ナレーション:罵詈雑言の続く限り繰り返す謝罪のリピート機能。これは実際に食材を無駄にしてしまう為、誤作動ではなく使う側の人間が事前に焼きすぎるようセッティング致します。。ですからこれにより、思う存分、オーブンレンジに文句が言えるのです。

人間、生きていれば腹の立つこと、文句を言いたくても言えないことなど様々ございます。そう“人間だもの”。・・・


 如何だったでしょう?この様にストレスのはけ口として使えるのもいいわけ機能の利点でございます。

 この”人間だもの”シリーズにはその他、冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機、掃除機などございますので、是非お買い求めください。尚、本シリーズはその付加価値ゆえ、他に比べますと非常に高価でございますが、これはボイス機能やマイコンの学習機能など供えているためにまったく仕方のないことでございまし・・・あ、いいわけがましいですね。申し訳ございません。皆さまからご意見をお伺いするに辺り、ワタクシつい、あらかじめ予防線を張っておきたくなってしまいました。“人間だもの”。・・・


 









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