確かな成長

『新居へお引越ししまーす!』


「まあ、あながち間違いじゃないか」


 ジャックは運搬機械でシューティングスターに運ばれる愛機を眺めながら、腕の端末から発せられる能天気なエイプリーの言葉に同意した。


 綺羅星の指揮官として任命されているジャックは、当然だが綺羅星達の母艦であるシューティングスターに乗り組んで戦場に向かうことになる。つまり愛機であるブラックジョークと搭載AIであるエイプリーもまた、シューティングスターに配備されることを意味していた。


『お大尽様待遇だよ!』


「確かに」


 ハイテンションのエイプリーにジャックは苦笑する。


 元々は綺羅星とキラドウ専用母艦として開発されたシューティングスターだが、機動兵器派閥とAIアポロンの介入でジャックも組み込まれることになった。そのため急遽、キラドウと同じようにブラックジョーク専用に調整された全自動メンテナンスハンガーが準備された経緯があった。


「無理をさせてしまったようで申し訳ありません」


「本当ですよ。綺羅星六人分で設計した居住区画は完成してたのに作り直し、その機体専用の整備スペースもなんとか追加する羽目になりましたからね。幸い特殊機の中では珍しく色々と資料がありましたから問題はなかったですけど、急な仕様変更とか悪夢です」


 そのことを詫びたジャックに、シューティングスターの担当者が直球で個人的感想を述べた。


 いつの世も急な仕様変更は絶対悪だが、不幸中の幸いなのはブラックジョークがかなり大々的に開発された特殊機だったため資料が多く、規格が分かっていたので全自動整備装置の調整に問題がなかったことだろう。


「ジャック隊長」


「ん。少し席を外しても構いませんか?」


「ええどうぞ。することは何もありませんからね」


 そこへ自分の専用機の搬送を終えたアリシアが、真面目な表情をしながらやって来たので、ジャックは担当者に一言断りを入れて彼女に近づいた。


「エイトナイトの自動整備装置は問題なかったか?」


「はい。他の機体も恐らく大丈夫でしょう」


 ジャックはアリシアの専用機である、騎士甲冑としか言いようがない機体を思い浮かべながら尋ねるが、問題は全く起こっていなかった。綺羅星の研究員が完璧主義者だと評したシューティングスターの担当者達は、その言葉通り完璧な仕事をやってのけたのだ。頭が硬すぎる馬鹿であっても。


「ジャック隊長の機体が後回しにされたのは気に入りませんが」


「おいおい。キラドウ専用の母艦なんだから、ブラックジョークが後回しなのは当然だろ」


「順番というものがあります」


「はん?」


「いえ、なんでもありません」


 だがアリシアはジャックとブラックジョークの運搬が後回しにされたことが気に入らないらしいが、ジャックからしてみれば、キラドウ専用母艦にキラドウが優先的に運ばれることは当たり前の話だ。しかし彼を勝手に自分の、いや、自分達の男だと認識しているアリシアにすれば、その男が軽んじられるのは苛立たしいことだった。


 つまり綺羅星達は、苛立ちや怒りの感情も習得していることを意味する。


「それにしても十個のコンテナの内、それぞれの機体の専用ハンガーとパーツ、武器を収めてそれが計七つ。一つが艦を制御するコンピューター。もう一つがシールド発生装置。最後の一つだけが長期作戦のための物資保管用。とても輸送船とは呼べません」


「まあな。欲を言えば大型の艦砲があればよかったが……」


「修復装甲を邪魔しないために小型の兵器だけで、大型兵装は搭載されてませんからね」


 アリシアはタブレット端末を使ってシューティングスターの性能を確認すると、画面にはキラドウの母艦としての役割に特化している情報が並んでいた。しかし特化しすぎているせいでその他の余力がなく、直接的な戦闘力は若干乏しく、ジャックはもう少し火力があればと小声で呟いた。


「その分キャロル姉さんに頑張ってもらいましょう」


「俺達全員でさ」


「そうですね」


 アリシアはその火力不足を補うため、重砲撃戦仕様の機体であるサプライズのパイロットであるキャロルに頑張ってもらうよう提案したが、ジャックに第二十一機動中隊全員で頑張るのだと言われると素直に頷いた。


「ちょっと前から思ってたんだが、キャロル、ミラ、ヴァレリーは姉なのか?」


「はい」


「確かにそんな感じ……と言えばそう……かもしれん」


 ジャックはアリシアが、キャロルだけではなくヴァレリーとミラのことを姉と呼んでいることに納得した、というには微妙な顔になる。


 確かにキャロル、ミラ、ヴァレリーは成熟した大人の女性と表現できる外見だ。しかしキャロルは天真爛漫な雰囲気であり、姉と言うには少々子供っぽかった。


「そしてヘレナとケイティを妹と呼ぶのを拒否されたので、私たち三人は同い年ということになりました


「なるほど」


 続いてアリシアが、自分を含めヘレナとケイティの三人が同い年になったことを伝えると、ジャックはこちらに関しては素直に納得する。この三人はキャロル達に比べると若干年若い外見で、最近は同じレベルの言動でやり取りを繰り返しており、ジャックの目には精神年齢が同じように映っていた。


「ん? 搬送が終わったか。ブラックジョークのコックピットでシステムを確認してくる」


「了解しました」


 ジャックはブラックジョークの搬送が終わったので、一旦確認のため愛機の元へ向かうことにする。


 その後ろ姿をアリシアはじっと見ていた。

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