息子のいいわけ [KAC20237]

イノナかノかワズ

息子のいいわけ

 五歳の息子はここ最近、お化けを言い訳にするようになってきた。


「湊。これはどういうことかしら?」

「うぇええっと……」


 私が洗濯物を取り込んでいるちょっとした間に、湊がお菓子箱からお菓子を盗み出して、押し入れでこっそり食べていたのだ。


 もう、何十回と注意した。


 お菓子箱の位置も変えたり、湊の手が届かない場所にしたにも関わらず、湊は懲りずにお菓子箱からお菓子を盗み、こっそり食べていた。


「それで、湊? どうしてお菓子を食べているのかしら? いつもそれで夕ご飯、むしゃむしゃできなくて、ママ、いつも怒るよね?」

「う……」


 湊が泣きかけるが、ここは心を鬼に。


 そう思ったとき、


「お化けがいたの!!」

「はぇ? お化け?」


 いいこと思いついたと言わんばかりに、顔を輝かせながら、湊が必死に言う。


「お化けがお菓子箱からお菓子をもってってたの! だから、僕、いけないって思って追いかけて! そしたらお化けがおかしむしゃむしゃしてたの!」

「……それでそのお化けはどこにいったのよ?」

「ええっと……ま、ママの足音がしたら消えちゃったんだよ!」


 ……はぁ。実際には漏らさないけど、心の中で溜息が漏れてしまう。


「そうなのね。お化けがむしゃむしゃしたのね。それで、どうして湊のお口にチョコレートがついているの?」

「う、うぇ!? あ、これは――」

「湊? ママ、怒っているからね」

「う……うぅぅぅ……うわぁ~~~~ん!!!」


 言い訳できないと悟ったのか、湊が泣き出した。


 いつもこうなのだ。



 Φ



「湊。どうして、あかりちゃんを叩いたりしたの?」

「うぅ……」


 冬のある日。保育園のお迎えに行ったとき。保育士さんから湊が灯ちゃんと喧嘩した話を聞いた。


 灯ちゃんのお母さんや保育士さんを交えて、湊と灯ちゃんから情報を聞き出した結果、喧嘩の原因は湊が灯ちゃんを叩いたからだということが分かった。


「ごめんなさい……したもん。ごめんなさい……したもん」

「灯ちゃんにごめんなさいしたのはわかったわ。けど、どうして叩いたのか、ママは知りたいの」


 叩いたのは悪い。だから、それを謝るのは正しいことだと思う。


 けど、湊が理由もなしに誰かを叩くとは思えない。理由を聞かずに叱るのは違う。


 そう思って、根気強く、根気強く湊に理由を聞いたのだが、


「お化けが、お化けがあかりちゃんにいたずらしようとしたから、おいはらおうとしたら、あかりちゃんに!」

「……湊。もう、ママは怒ってないわ。だから、怖がらなくていいから叩いた理由を教えて。ね?」

「だから、お化けがぁぁぁぁ~~~!!!」


 息子が泣き出してしまった。


 ……もう、ここ最近、本当にお化け、お化けって。


 はぁ、もうどうすればいいのよ。



 Φ



「湊!!」


 いつも買い物をしているスーパー。夫と一緒に湊を連れて三日分の食料を買いに来ていた。


 私が目を特売品のお肉の争奪戦から特売品のお肉パックをよっつ勝ち取り、カートを見てくれている夫のところに戻ったら、夫がおなかを抑えて倒れていたのだ。


 そして湊が買い物カートをガコンガコンと大きく揺さぶっていた。


 周りのお客さんもいるから、慌てて湊を落ち着かせて夫を休ませ、急いでレジで会計を終わらせた。


 それから、何があったか夫から事情を聞いたのだが……


「湊! どうしてカートに向かって飛び込んだのよ!」


 夫が一瞬、目を離したすきにカートから少し離れた湊が大きな助走をつけて、カートの下部分に飛び込んだんだそう。


 そして急に押し出されたカートが夫の鳩尾みぞおちにクリーンヒットした。


「スーパーで走って他の人にぶつかったら危ないでしょ! しかも、カートは遊び道具じゃないのよ!」

「うぅ、ごめんなさい」

「美和。僕は大丈夫だし、ね。落ち着こうよ」

「落ち着いているわよ、あなた! それと、危ないから叱らないとだめなのよ! ほかの人を傷つけるのもだけど、この子にもしもがあったらだめでしょ!」

「まぁ、そうだけど……」


 全く。優しい夫は大好きだけど、こういうところはちょっと嫌いだ。


 そう思いながら、私はぐずる湊に声音を落ち着かせて聞く。


「どうしてカートに飛び込んだの、湊? 遊びたかったの? それとも他に理由があったの?」


 叱るなら、どうしてそれをしたかを聞かなくちゃいけない。


 行動を叱るのはそうだけど、同じことを繰り返さないためにも理由を聞いた方がいい。


「お化けがぁ、お化けがパパの足をぉぉぉぉ! だから、ぼく、おいはらおうとしたの!!」

「……湊」


 けど湊はお化けお化けと言っていた。




 Φ



 ぼくのまわりにはお化けがいっぱいいる!


 みんな、ぼくの好きな人たちをいじわるする!


 だから、ぼく、頑張ってお化けを退治しようとしたんだよ!


 だけど、けど、ぼくがみんなを傷つけちゃうぅ………………



「う……う……うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~」

 






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