居酒屋に出会いを求めるのは間違っていますか?

MARIMOMARU

第1話 即決

「君、合格ね」




来る前に考え込んできたネタがいい意味で不発となった俺は呆気に取られていた。


「え、結構すぐに決まるもんなんですね。」


「そうだね、僕ね、君気に入ったんだよね。」


嬉しいことではあるが、会って10分で気に入ったと言われてもあまりピンとこない。一体俺の何が良かったのだろうか?服のセンスがこの人に刺さったのか?居酒屋バイトなのに…


「それでなんだけど、来週の水曜日から土曜日まで研修入って欲しいんだけどいける?」


「えーっと、夕方からとかであれば。」


「平日はおっけー、土曜日はどう?お昼からとかいけそう?」


「多分大丈夫かと思います。」


「じゃあそう言うことでよろしくね!これ僕の連絡先だから登録しておいて!」


とんとん拍子で俺の初バイトが決まった。モロが飲食はブラックだから辞めとけと言っていたがまだそんな雰囲気は感じていない。とはいえ、最初からそんなふうに思わせる店も少ないか、と納得した。




-遡ること10日前-


「かーーっ、やっぱ最初は生だよな!」


「ふふ、今日はいつにも増して元気じゃん。ストレスでもたまってたの?」


「そりゃあそうだよ、やっとテストラッシュが終わったんだぜ、はっちゃけたくなるだろ!」


「いやいや、全然軽かっただろ笑笑」


「煽ってんのか???俺はめちゃくちゃ苦労したって言うのに…モロが優秀なだけなんだよ。」


「何言ってんだよ。竜がゲームしてたの知ってんだからな。真面目にコツコツやれば余裕なんだよ。」


「はいはい、まぁ今日は楽しもうぜ!」


そう言って俺たちはすぐに2杯目を頼んだ。


俺とモロは同じ学科なだけあって日々の何気ない授業やサークルの話をだべっていた。だが、なんだかモロの表情に違和感があった。


「なんか今日いつもと変じゃん、笑い方がぎこちない。なんか抱えてるんだろ、お見通しだぜ?」


「いやぁ、バレバレか…。実はさ、僕、彼女と今距離とってるんだよね。」


「ん?あの後輩ちゃん?なんで?」


「んー、なんか重いなって。」


「飽きたの?」


「飽きたって言うか、あの子毎日連絡しないと怒るし、ずっと僕の家にいたがるし疲れちゃうんだよね。」


「へ〜、いいじゃん、ベタ惚れされてるじゃん。羨ましいけどな。」


「いや〜、それは隣の庭だからだよ。勉強もしないとなのに彼女優先しないとなのはめんどくさい。それに、好きなのかもよく分かんないし。」


「それで距離置いてるってわけね。いつからなの?」


「この前の水曜から。来月末くらいまで続けようかな。」


「じゃあ1ヶ月くらいってことか。結構長いな。まぁ、そんだけ開けなくてもすぐにオチが見えそうだけどな。」


「いやいや、分かんないよ。」


「それ本気で言ってる?笑笑」


見え透いた結末に笑いながら俺たちは喉を潤した。モロはカルピスサワーを頼んだ。生の後は甘いサワー、モロの定番だ。俺もいつも通りジンハイを頼んだ。


「ところで、竜はバイトしなくて大丈夫なの?」


「はっはっは、死活問題だ。」


俺が真顔で答えるとモロは爆笑した。


「じゃあ飲みにきて良かったのか?」


「やばい。でも飲むのは楽しいからな。なんか良いバイトないかな?」


「調べたらすぐ出るんじゃね?」


そう言われて俺は携帯を触り出した。時給は高めが良いけど塾講師とかは嫌だった。昔面接に行ったが教えるのは自分には向いてないと感じて辞退していた。


「お、なんか今度新しくオープンするお店があるわ。」


「へー、いいじゃん、人間関係作るの楽そう。」


「確かに、うるさいおばちゃんとかも居なさそうだしな。応募しとくか。」


「時給は?」


「900円ちょい。」


「地方だしそんなもんだよ。まぁ楽しそう、良いんじゃない。竜は喋るの好きそうだし。」


「だな。」


俺たちの2週間ぶりの集会は夜中まで続き満月が日の出に変わっていた。

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