浮気のいいわけ
だら子
第1話
「女と歩いてたでしょ!!」
問い詰められる俺は余裕だ。
「浮気!?俺、アリバイがあるって。あの時間公園にいたわけよ」
膨れっツラで、イマイチ信用していないようだが…ひとまず、ことなきを得た。
双子の兄弟は便利。
このように浮気がバレて面倒な場合は全て兄がしたことにする。
兄は頭脳明晰で運動神経も良かった。
見た目はどちらも美しかったけれど、心は俺だけ汚かった。
でもなぜか母は俺をかわいがる。兄が父に似ているのが嫌だったのかもしれない。
兄は俺のすべてを受け入れてくれる。それは全て持っている者の宿命だ。
「仕方ないなー。じゃあおまえが公園にいたってことにしてよ。」
俺と同じ顔が笑う。
「感謝ー」
兄は俺の頭をサッと撫でる。
「お前、そうやって人に頼りすぎるなよ。痛い目にあうぞ?そのうち」
手の包帯が気になったが、詮索されたくない兄にはいつも、俺からは質問しない。
「最近母ちゃん元気?」俺は話をそらした。
「ああ、おまえに会いたいってことしか言わねぇよ。援助してるのは僕だっていうのにね」
笑おうとして、笑えなかったのか兄の顔は美く歪んだ。母親なんて捨てちまえばいいのに。
「おまえのことが羨ましかったんだよ」
兄は俺の目を見つめた。いや見下したと言ってもいい目だった。言葉と態度が違いすぎる。
「前に言っただろ!?上司に恵まれず、昇進もしない俺の情けなく、かわいそうな人生!!浮気ぐらいしても問題ないだろ」
気がついたら兄はいなくなっていた。
※※
「ねー本当にお兄ちゃんなんているの?」
ミサトが信用しない。
「写真見せただろ」
「女のタイプも似てるわけ?」
「そうなんだよ。だからミサト、俺は白。浮気はしていない。アリバイもある」
「いいわけしてるようにしか聞こえないけど、まあいっか。じゃあさ、公園で何してたの?」
嘘には本当を混ぜるのが一番いい。
「最近俺、嫌な上司がいて神経やられてるんだよ。自然の中でゆっくりしたいって気持ちわかるよね?」
ミサトは俺の話を聞いていないかのように唐突に叫ぶ
「おかしいなー。ない!!果物ナイフ知らない?」
「しらねぇよ」
「いや仲直りの印に桃でもむいてあげようと思ってさ」
という声とテレビのニュースの音がかぶった。
「昨夜20時…せせらぎ公園で遺体が発見されました。凶器はその先の河原で発見。
現在犯人の行方を追っています」
脳内がバグる。指先の感覚がない。
桃を食べるのをやめたミサトが呑気にいう。
「この時間って、タカシが一人でいた時間だー。まさか…殺してないよね?
この人上司だったりして」
ピンポーン
「警察です。開けてください」
なぜ?俺…兄になんかした?
俺の脳が機能停止した。切ってもいない桃の匂いがする。
「なあ、ミサト。浮気と殺人ってどっちが罪重いんだっけ」
浮気のいいわけ だら子 @darako
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