アライグマ決死のいいわけ

アほリ

アライグマ決死のいいわけ

 「げーーーっ?!」


 アライグマのゲンタの顔が青ざめた。


 寝て起きたら、ななんと・・・丸々太って図体が厳ついツキノワグマが寝ている穴の中。


 アライグマのゲンタはどうして、どうやってツキノワグマの巣穴に入ったのか解らない。


 「う~~~~~~~~ん・・・何で俺は、こんな恐ろしい場所に居るんだ???

 俺の怖い奴は、俺を『外来種』扱いしていじめてくる人間どもと、俺を餌にするツキノワグマだ。」


 アライグマのゲンタは頭を抱え込んだ。


 「やっぱり、ここを逃げ出そう。まずは・・・抜き脚・・・差し脚・・・忍び朝・・・」


 その時だった。


 「う~~~~ん・・・」



 ドターーーーーッ!!



 「シマッタぁ!!ツキノワグマが寝返りうって、出口を塞がれたぁーーーーー!!」


 アライグマのゲンタの顔はみるみるうちに青ざめた。


 「ど、ど、ど、ど、どうしよう!!」


 アライグマのゲンタは、口に指を当ててわなわなとブルブル震えた。


 「も、もし・・・あのツキノワグマがいきなり起き上がって、『不審者』の俺を発見したとして「なんじゃーーーーい!!何処から来やがったーーー!!」って激昂して鋭い牙と爪攻撃してきたら・・・」


 アライグマのゲンタは、どうしたらいいのか頭の中をグルグルとかき混ぜた。


 「そうだ・・・何かいいわけすれば・・・例えば・・・う~~~~ん・・・俺の思うに、歩き続けて相当疲れてついついフラフラと適当な洞穴に入り込んだ・・とか・・・


 それは不自然だよな・・・


 もっと上手い言いわけ無いかなあ・・・う~~~~~~ん・・・」


 アライグマのゲンタは、うつぶせで頭を抱えて考えを巡らせた。


 ツキノワグマのぐーーー!!ぐーーー!!と地響きのようなイビキが洞穴に響く度に、アライグマのゲンタに恐怖がこみあがる。


 「う~~~~~ん・・・はっ!!げぇっ!!」


 アライグマのゲンタは、暗がりの洞穴の中に差し込んでくる光で、鼻提灯を膨らませて寝ているツキノワグマの顔を見たとたん、戦慄が走った。


 「あの眉間の袈裟懸けの傷・・・『オニグマ』だ!!こいつ・・・『オニグマ』のボンブだぁっ!!」


 『オニグマ』のボンブは、この森の中で一番恐れられている、獰猛クマだった。


 別に人喰いグマではなく、人間は襲った事は全く無い健全グマが、1度怒り出すと手を付けなくなる程に激しく周りを当たり散らして暴れまくる性格だったので、『オニグマ』ボンブの名前を聞く度に、森の動物達は震え上がって戦慄するという。


 そんな『オニグマ』のボンブが、今目の肥り気味のお腹を付き出して仰向けになって、熟睡してるのだ。アライグマのゲンタの目の前にだ。


 「あっ!!シマッタ!!すっかり忘却の彼方だった『オニグマ』に仕出かしたイタズラを思い出した!!」


 それはアライグマのゲンタがだいぶ前に、『オニグマ』ボンブが森に飛んできて拾ったと自慢した緑色の風船を、もっと大きくしようと口で、ぷぅ~~~~~~っ!!と息を入れて膨らませている目の前で隠れて爪を側立てて突っついてぱぁーーーーーん!!と割ってやったことだ。


 実はこの緑色の風船は、アライグマのゲンタが拾ったのを横から『オニグマ』ボンブが逞しい前肢でどーーーーん!!と突き飛ばして取り上げたので、復讐しようと割ったのだった。


 「やべぇな・・・そういう行為をしたのは、風船を横取りしたからと正直いいわけしたい・・・しかし、そうしたら「ガォーーーー!!濡れ衣着せるなぁーーーー!!」と鋭い爪が飛んできて俺が八つ裂きにされるに違い無いし・・・」


 あのアライグマのゲンタが割った緑色の風船の破片が、この『オニグマ』ボンブのこの洞窟に保管されて常時『オニグマ』ボンブが爪で握りしめている事に、自らの仕出かした行為にゲンタは激しく後悔した。


 「俺のバカバカバカぁ!!俺は何て事を仕出かしたんだぁ!!」



 ムクッ・・・



 「ギクッ!!思わず大声出して、『オニグマ』を起こしちゃったか・・・?!どうしよどうしよ!!」


 アライグマのゲンタは慌てふためいていると、再び『オニグマ』ボンブは眠りについた。


 「なぁーんだ。寝返りをついただけか・・・ホッ・・・」


 アライグマのゲンタは胸を撫で下ろした。




 しかし、いきなり思いも寄らない出来事が起きた。




 ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!ばうっ!!



 洞窟の入り口から、猟犬の吠える声がしたと思うと、



 ダーーーーーーーン!!



 ズキューーーーーン!!



 「ひいっ!!な、何で洞窟に銃弾が飛んでくるんだ!?」


 危うく、アライグマのゲンタはいきなり洞窟の外から飛んできたライフル銃の銃弾に被弾しそうになり、血の気が退いた。



 「ぐぅぁぁぁぁぁおぅぅぅぅーーー!!」



 『オニグマ』ボンブは、洞穴から飛び出して外でライフル銃を持ったハンターの目の前で両腕をあげて、威嚇のポーズをした。


 「『オニグマ』・・・いや、ツキノワグマのボンブ!!おめぇ・・・まさか・・・」


 「居たのか。いつぞやのアライグマ。俺は・・・」


 『オニグマ』ボンブがいいわけしても、アライグマのゲンタは解っていた。


 本当に『オニグマ』ボンブは人間を襲ってしまった事を。


 「俺は・・・いきなり石を投げつけられた人間に思わずカッ!となって、爪を振り上げてしまった・・・

 これは、俺は報いだ。」


 「違う!!報いを受けるのはこの俺だ!!俺は・・・お前の風船を・・・」


 

 ダーーーーーーーン!!



 『オニグマ』ボンブの前に出たアライグマのゲンタは、庇うようにハンターのライフル銃の銃弾に被弾した。



 ドサッ!!



 銃弾を受けたアライグマのゲンタは、『オニグマ』ボンブの目の前に墜ちた。


 アライグマを仕留めたハンターは、

 「ちっ!弾切れか・・・まあ、外来種を駆除した事だし、言いわけが出来たってもんだ。」

 と舌打ちして、猟犬と共に去っていった。


 アライグマのゲンタの身体から流れる鮮血を見たとたん、『オニグマ』ボンブは泣き崩れた。


 「お、俺は・ ・・何て事を・・・!!

 ほら・・・これはお前の風船だ。

 俺が膨らませ過ぎてパンクしちまったけどさぁ・・・ほら返すよ・・・受けとれよ・・・」


 目から大粒の涙が止まらない『オニグマ』ボンブは、割れた緑色の風船を力の無くなったアライグマのゲンタの手に握りしめさせた。


 「ボンブさん・・・やっぱり君は・・・『オニグマ』だね・・・君の握力・・・痛いよ・・・」


 「ぶぉっ?!」


 『オニグマ』ボンブは、死んだ筈のアライグマのゲンタがピクッと動いたのにビックリした。


 「んもぉ~~~~!!この割れた風船は俺が爪で割っちゃったんだよ?!ごめんなぁツキノワグマのボンブさん・・・」


 血まみれになって起き上がったアライグマのゲンタを、『オニグマ』ボンブは嬉し涙を流して抱きしめた。


 「どして?どして生き返ったのん?!アライグマさん!?」


 「それはね!!何か弾が俺の急所が外れたみたい!?『奇跡』といういいわけかなぁ?!」


 貧血気味の上に『オニグマ』ボンブの握力でヘタレ気味のアライグマのゲンタは弱々しく指でピースサインをしてニヤリと笑った。


 


 

 ~アライグマ決死の言いわけ~


 ~fin ~

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