草野の短編集
草野蓮
ひとつめ 過去の未来へ
夏休み最終日…それは世界中の大多数の人々が憂鬱になるであろう日。そんな中、人生のベスト10に入るくらいのピンチを迎える者たちもいる。
「宿題がっ!!終わらねぇーーーっ!!」
俺の名前は
「過去に戻れたら、30日前の自分に飛び蹴り食らわしてこの宿題に追われて大変な状況をまざまざと見せつけてやるーーっ!!」
現在、父母両方忙しくて、一戸建ての家に住み、一人っ子だからこんな大声を出しても誰からも文句は言われない。過去の自分へ恨みつらみを吐き出し時計を見ると、明日の登校時間までおよそ17時間。それまでに数学の課題と作文書かないと…あぁ忙しい。
課題が終わらないと鬼怖先生との夏の最後を過ごさなくてはならない。
「おわったー。」
あれから13時間たち、現在朝の4時。
課題、気合いで終わらせた俺ナイス。
なんだかやりたくなってきたラップ。
見てから後悔長い動画のアーカイブ。
でもなんやかんや課題は終わらせるタイプ。
そして望んだベッドにダイブ。
そしてそのままグッナイッ!いぇーあ!
…なんでこんなの足したんだろ。うまくできてるから残すけどさ。よし。脳が疲れてるな。
…何言ってんだろ。僕。やっぱり脳が疲れてるな。もう寝よ。
zzz zzz
さて、場面は変わって1ヶ月後。夏休み後のテスト明け、初めての休日。頭の中では明明後日提出の英語の課題をやらなくてはと思うのだが、当然のようにサボる。体が動かん。うーむどうしたものか。と寝転び動画閲覧サイトを見ながら熟考(当社比)する。
「そうだ、もう1人自分がいたらそいつに宿題やらせよ。」
熟考(笑)をしての結論がいかにも非現実的でバカバカしい考えだった。すると、熟考しすぎたせいからか(違う)、しばらく水を飲んでいなかったからか、ふと水を飲みたくなってきた。喉の渇きを潤すために立つ。その瞬間、不意に背中にものすごい衝撃が与えられた。
「ひでぶっ!」
その衝撃で倒れる。痛いがそんなことよりこの衝撃を与えたものはなにか。親は今回仕事に行っているため居ないはず。泥棒、誘拐、立てこもり犯などさまざまな最悪な可能性を頭に浮かばせながら恐る恐る後ろを振り向くとそこには腕組みをした自分がたっていた。
ん?自分が立っていた????
(俺はここにいるが今俺の真ん前にいる自分もどきは何者だろうかそもそもどこから来たのか待ってなんか怒ってらっしゃる気がするのは気のせいだろうか。)
この間0.5秒。困惑してると、自分もどきが話しかけてきた。
「やぁ過去の俺。俺はここより57時間後の未来の俺。お前からすると未来人ということだ。」
「はぁ?」
意味がわからん。未来人が何故ここに来た?てかどうやってきた?ニュースには疎いがタイムマシンが完成したっていうニュースはまだ出ていないと思う。とすると、この57時間でタイムマシンかなんかが完成してこの目の前にいるこいつは、そのタイムマシンに最初に乗ったタイムトラベラーだろうか。もしそうだとしたらなぜこいつが?というか俺が?こう言っちゃあれだが親も俺もコネなんか全くない。もうなんか脳は混乱に満ちていた。頭がいつもより多く回っていまーす!出血大サービスでーす!って何考えてるんだ。しっかりしろ俺。
「まぁお前は俺だから考えてることが何となく分かる。どうやってきたのかとか57時間でタイムマシンが完成しただとか頭がいつもより多く回っているだとか出血大サービスだとか。」
うんやっぱこいつ俺だわ。未来人に出会って出血大サービスという語彙が俺以外の人から出てくるのを今まで見たことがない。知らんけど。
こいつは俺だから安心できる。そう無理やり結論付け、落ち着いた俺は彼が現れてから初めて発言した。
「タイムマシンはどこだ?」
前言撤回。全く落ち着いていなかった。未来人が現れて開口一番がその言葉という事実が何よりの証拠だ。もっとあるだろ。「なぜここに来た?」とか「お前が僕だって証明できるものは?」とかさ。
なぜWhyではなくHowを聞くの?うっ!英語の課題が頭によぎった!
「あぁ!英語の課題がぁーー!やめてくれぇーー!」
悶絶している僕を横目に、疑問にスラスラと応える未来人。
「タイムマシンはない。神ってやつに飛ばされた。」
「っていうか。お前ほんとに未来人なの?」
「あぁ。俺は未来だけどな。」
「あっ。やっぱりお前、俺だな。笑いのセンスある。」
「それで決めるのどうかと思うけどな。
僕をここに飛ばした神曰く、お前の強い願いで僕がここに飛んできたらしい。」
強い願い?そんなものしたっけな。過去を思い返すと……あぁ!あれか確かにした!「もう1人自分がいたらそいつに宿題やらせよ。」 確かに俺はこういった!奇跡だ!ありがとう!神様!今度お賽銭を倍額に増やす!いや増やさせていただきます!
「その願いとはズバリ」
ありがとう神様!ありがとう神様!
「過去に戻れたら、30日前の自分に飛び蹴り食らわしてこの宿題に追われて大変な状況をまざまざと見せつけてやるーーっ!!だ。」
ありがとう神様!ありがとう神…さま?
なんて言った今?
「だから、過去に戻れたら、30日前の自分に飛び蹴り食らわしてこの宿題に追われて大変な状況をまざまざと見せつけてやるーーっ!!だ。」
ん??そんなこと願った…か?……思い起こされる記憶は夏休み最終日のこと…うん。確かに言った。そして、神に乱射した感謝の言葉を全て後悔し、お賽銭の減額を心に決めてから叫ぶ。
「そっちじゃねぇよ!」
「そうだ!30日前のって言ってたけど一昨日のになってしまったって言ってたね。まぁ誤差だよね。」
「誤差じゃねぇーよ!大きな違いだよ!」
そうツッコミを入れるも聞き入れてくれなかった。
「飛び蹴りは来た時にもう終わったから今度は自分の時間の状況を見せるね。」
思わぬ形で自分が最初に背中に受けた衝撃の正体を知ったがそれどころではなかった。
ふっと白い何かに包まれ、綿飴の中にいるような感じになった。(綿飴に包まれたことないけど)隣には未来の俺がいる。しばらく待つと、正面になにか別の風景が映った。自分の部屋だが、そこにはまた自分がいた。机に向かって時々呻きながら何かを一生懸命やっている。
「これは23時50分頃、俺の時間軸の30分前、お前の56時間30分後の姿だ。」
待って、訳わかんない。
「安心しろ。カミノツゴウとやらであちらから俺たちは見えない。」
別にそこを危惧していない。なんならどうでもいい。
「大変そうだろう。お前もこうなりたくないだろう。」
それは肯定する。
「なら課題を今日やって今日終わらせろ。」
まざまざと見せつけるってそういうことだったのかと納得し、この謎空間のことについて疑問を投げかけようとした時、白い何かが急に弾け飛んだ。そして前には勉強している自分の姿ではなく、いかにも神って人とその神に首根っこ掴まれている子供の姿が見えた。神は口を開いてこう言った。
「すまない。うちの愚息が。安易にタイムスリップさせるなと言い聞かせていたのだが。迷惑をかけてしまったな。」
目の前の奴が神なのかは知らないが、とりあえず迷惑がかかったことは事実なので会釈しておいた。神は続けて
「あなたたちのこの事に関する記憶の消去と2人とも元の時間軸に返すということで許してもらえないだろうか。」
確かに隣にいた未来の俺も消えてるし時計を見るとしっかりタイムスリップする前の時間になっている。
…あれ、何で時計なんか見たんだろ。てか、誰かと話していた気がしたんだが、気のせいか。この家には俺しかいないし。喉が渇いたし、水飲むかぁ。
これで、この出来事は終わったかのように見えた。しかし神は重大なミスをした。この出来事の発端である夏の魂の叫びの記憶を消し忘れてしまったのだ。
57時間後
俺の心は憔悴しきっていた。明日、いや今の時間帯だと今日提出の英語の宿題がようやく終わったのだ。寝ようとしたその時、ふっと白い何かに包まれ、綿飴の中にいるような感じになった。(綿飴に包まれたことない…)
ってこのくだり前にもやった気がする。それがどこか思い出せないが。不思議だ。綿飴の中にいると僕より小さい子供がいて、
「俺は神。お前の願いを叶えにきた。」
と自信満々に言うもんだから思わず聞きいってしまう。そんなことより、こいつもどこかで見たことあるなぁ。そして子供は続けて、
「じゃあこれから57時間前に行ってこの願いを叶えてくれ。」
この願いって?と思った瞬間頭に夏休み最終日に言い放った魂の叫びが確かに聞こえてきた。
そして綿飴が弾ける。目の前には寝転がり動画閲覧サイトを見る自分。
子供の話によると、こいつはおそらく、57時間前の自分。困惑していると神を名乗る子供から
「あ!そうだ!願いでは30日前って言ってたけど57時間前になっちゃった。別にいいよね!」
と脳内に直接語りかけてきた。
ありえないことが連続で起こりすぎて僕はこう結論を出す。きっと、これは”夢”だろう。なら思いっきり暴れよう。ストレスも溜まってるし。
目の前の自分が立ち上がったその瞬間、飛んで、その腑抜けた背中にむかって足を突き出した。
作者より
初投稿です!これからもよろしくお願いします!
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