今日も彼女(キミ)を負かす

不明

今日も彼女(キミ)を負かす

 『LOSE』と大きくテレビが画面に映し出される。それと同時に隣に座る自分の彼女か倒れこんだ。

「あ~画面が小さくて負けたぁ」

「ソフトも本体ももうワンセットあるから、オンラインでプレイすれば分割画面じゃなくてできるんだけど……」

 苦笑いを浮かべ、プレイする環境を整えることを提案する自分だが、彼女は倒れた体をゆっくりと起こすと。

「やだ、それじゃぁ君と遊んでる感じがしないもん」

 頬を膨らませ、口をとがらせながらそう言った。

 じゃぁどうしたらいいんだ? そのままでいいのか?

「……えっと」

 一応続けるかやめるか聞こうと口を開いたとたん。

「もう一回‼」

 彼女はコントローラーのスタートボタンを不意を突いて押してFPS式対戦ゲームを再び始めた。

「あ、今あたしの画面見たでしょ! 相手の画面見るのってズルい‼」

 初心者相手なのでなるべく見ないようにしてるけど、どうしても目に入っちゃうから仕方ないんだよなぁ。

「この樽邪魔くさい、消してよ」

 マップの仕様で消せませんよ。文句ならこのゲームを作った会社に。

「撃つの無し‼」

 そんな無茶な……。

 彼女の無茶なお願いに必死に笑いをこらえて集中できない。

「隙アリ‼」

 真っ直ぐ動きながら銃を乱射する彼女が操作するキャラクターを自分は一歩も動かずアサルトライフルで頭を抜いた。

 そして彼女のゲーム画面には『LOSE』という文字が表示されていた。

「……ゲームのラグのせいで負けた」

 彼女が自分を見つめ真剣にそう言う。

「……ぷっ、アッハッハッハ」

 我慢していた笑いが口から噴き出してしまった。

「なんで笑うのよ」

 怒りながら再び頬を膨れ上がらせる彼女を見て。

「いや、何でも……フフッ」

 オフラインでラグを言い訳にするって……。

 ツボに入ってしまった。

「ムムッ、次はこれ‼」

 彼女は怒りながらも自分の部屋をあさり、別のゲームを突きつけてくる。

「ハハハッ……いいですよ。何ならコントローラー交換してやりましょうか」

 涙をぬぐうと優しく笑いかけた。

 面白い言い訳を聞くために僕はゲームしてる。だから今日も僕は彼女を負かす。

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