花瓶を倒したのは

熊のぬい

花瓶を倒したのはだぁれ?

テーブルにあった花瓶が倒れている。その花瓶にはたっぷりの水が入っており、友人からもらった花を挿していた。

花瓶は割れず、誰もケガはしなかったが、水はテーブルからさらに下に流れ落ちて、床まで水浸しにしている。

飼い主は、雑巾で床の水を拭いた。持ってきたバケツに絞っては、拭いてを繰り返す。


「花瓶を倒したの誰なの?」


拭き終わった飼い主が立ち上がり、そう呟くと、誰もがそっぽを向いた。


猫は、私じゃないと舐めた前足で顔を洗う。

「だって、私はそんな花瓶に興味はないし、ハムスターを追いかけてただけだもの。それにほら、私は今、床にいるでしょ?」

飼い主はテーブルと床を交互に見た。テーブルに乗っていないなら、花瓶には触れない。


今度は大きな体の犬が俺でも無いよと、体を伏せる。

「俺が触ったのは、テーブルクロスさ。ハムスターを助けようとしたんだ。それにもし俺が、花瓶を触ろうとするならテーブルに乗らなきゃいけない。でも、テーブルに乗ったら、他の物も床に落としている筈だ」

飼い主は、テーブルの上を見て、なるほどと頷いた。大きな犬の体では、テーブルに乗っているものが邪魔かもしれない。


更に手のひらサイズのハムスターが、オイラでも無いよとテーブルの上で飼い主を見た。

「オイラは猫から逃げていただけだよ。それに、こんな大きな花瓶をオイラが倒せると思うの?そんなに力持ちじゃ無いよ」

飼い主は、倒れた花瓶を元の位置に戻そうと、花瓶を持った。花瓶はずっしりと重かった。


最後に飼い主の足に巻き付く蛇が囁いた。

「知ってるよ、知ってるよ。僕は知ってるよ。僕は頭が良いからね。そんな花捨てちゃえば良い」

飼い主は、戻した花瓶に散らばった花を挿す。赤や紫、白、ピンクの色とりどりの花を見て花が重すぎたのかしらと、思った。


花瓶をキッチンに持って行き、もう一度、水を入れて平らな場所に置いてみたが、倒れる様子は無かった。

飼い主は結局、誰が花瓶を落としたのか、分からなかった。


蛇はそんな飼い主にクスクスと笑った。

「愚かだ。愚かだ。アナタは愚かだ。その花のように」

飼い主の足を離れて、床を這って離れた。

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