オレの推しVTuber、一人は義妹っ!?

花月夜れん

兄と妹になった二人

 オレは花村太一ハナムラタイチ。とあるVチューバー配信者のいちリスナーだ。

 今オレが見ている配信中の彼女達は双子悪魔アオとムラサキ。双子で配信なんて珍しい。声が違うから、他人で組んでいるのかもしれない。けれど、それを感じさせない、息ピッタリの配信に毎回ウキウキしっぱなしだ。


 あぁ、今日も可愛かったな。

 オレは小腹が減ったので部屋から出て何かをつまみに冷蔵庫へと向かう。

 同時に部屋を出てくる気配ありっ!

 いったん引っ込むと斜め隣でドアが開いた。父の再婚相手の子どもが顔を出す。長い髪で目を隠し、陰の者に徹する義妹、花村結実はなむらゆみ

 もうちょっと可愛くすれば、彼女の母ゆかりさんのように明るくて可愛くなりそうなのにもったいないなと思いながら、オレは彼女との距離を測っていた。

 つねにビクビクする彼女は、話しかけても小声で早口で。

 ときおり見える顔はぜったい可愛いのに、たまにしか見ることが出来ない。まあ、オレには可愛いアオたんとムラサキたんがいるから見れなくても問題なんて何もないけどな。


 お、引っ込んだか。


 パタンという音がして、オレは再度ドアを開く。

 一応こうやってお互いあまり関わらないようにして過ごしてた。

 向こうの離婚の理由が少し複雑だったみたいだから、しょうがないか。


「のみもん、のみもん」


 トントンと軽い足音を鳴らしながら冷蔵庫へ向かう。

 途中、めちゃくちゃ聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「アオー。アオー? もう、また置いてったなぁ。まったく」


 その声はムラサキたん!?

 いやいや、なんでここからムラサキたんの声が?


「こっちいったん切るからね」


 音がする場所を急いで探す。テーブルの上に結実のスマホが置いてあった。

 画面にはアオの待機モードイラスト、配信オフモードの画面。


「はっ!?」


 変な汗が出る。オレはいったい何を見ているんだ。いやいやいやいや、結実もこの配信を見てただけ……。

 オレはバタンという音に反応して急いで冷蔵庫前に走る。

 結実がスマホをとりにきたのだ。

 オレは冷蔵庫をあけ牛乳パックを掴みながら、驚いたような顔をつくり結実を見る。我ながら上手くごまかせたんじゃないだろうか。


「あ、あの……」

「ん、何?結実」


 妹だが、父の再婚相手の子どもなので同い年。誕生日は一ヶ月違うだけだ。オレは名前で呼ぶから結実も名前なと言っていた。


「タイチ……さん。見ましたか?」

「ん、何を?」

「コレ」

「あー、おいてあったな。何かあったか?」

「見ましたか?」

「へ、あのぉ」


 さらっと言い訳出来なくて焦る。見ました、聞きましたけどっ!

 結実はダッシュで部屋へと戻っていく。小さな小さな声を集中して聞けば確かにアオたんの声に聞こえなくもない。

 ヤバい。推しが義妹だったなんてありえるのか?


 彼女、アオたんはよく近所でおこった事を言う。住んでる場所特定されてしまうから危なっかしいなと思って聞いていたが、全部たしかに近所だ。というか、昨日の配信のアレ、オレの話じゃないか!?


 ……兄として、妹を守らねば!!オレはこの日そう誓った。

 推しに直接スパチャができるなんて、なんてすごいんだ。

 オレはちょくちょく彼女が好みそうなお菓子やプリンなんかを買って冷蔵庫にしまっといた。もちろん父や母の分も買ってるからな!!


 ◇


 私には気になる人が二人いる。

 一人は母が再婚して出来た義兄。引っ込み思案で暗い私を驚かせないようにと、気遣ってくれたりする。少しずつ私も歩み寄らなきゃ。そう思って、友達に相談した。

 じゃあさ、明るい自分の練習しよ!!

 引っ越しで離れてしまう幼なじみのアオイと一緒に動画配信を始めた。もちろん、顔出しなんて無理だから、葵が描いてくれたイラストで可愛い別の私になって。

 もう一人がここで出会った人。

 初めての配信からずっとずっと応援してくれてる人。

 この人の好きという応援がなかったら、きっと続けられなかった。

 偶然を装って会えないかなと近所の話題をたまに出してみた。会いにきてくれたりしないかな。

 その度にその人は話題をそらすようにコメントを送ってきた。まるで私を守ってくれてるみたい。

 二人同時に好きな人が出来るなんてダメだと思うけれど、どっちも優しくて気になってしまう。


「会いたいなぁ」


 でも、義兄はともかくリスナーの人は危ないからきっとだめだって葵は言うだろう。

 そうだよね。でもいつか会ってお礼がいいたいな。

 二人のおかげで今日の私がいるってこと。


 あ、嬉しい。今日も来てくれてありがとう。TA1さん。

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