私が愛する彼氏のいいわけ

夢空

第1話

 休日の陽気のいい昼下がり、私は渋谷のモヤイ像前に立っていた。

 周りには待ち合わせしている人達が次々に待ち人に合流し、モヤイ像から去っていく。しかし、私の彼氏は来ない。もう三十分も遅刻している。


 私はイライラと不機嫌そうな顔をして彼を待っている。しかし、それは嘘だ。彼が遅れてくるのは織り込み済み。何しろ、付き合い始めてから一度だって彼は時間通りに来た事はないのだから。


「ごめんごめん! 遅れた!」


 ついに彼がやってきた。私は表面上は怒りをあらわにして彼に食ってかかる。


「遅い! 毎回毎回いつまで待たせんのよ!」


「いやさ、その……」


(さあ、来るぞ来るぞ……)


 私はこれから彼から出てくる言い訳に聞き耳を立てる。


「家から出たらさ、突然目の前がぱっと明るくなって知らない場所にいたんだよ。周りは真っ白でさ、俺一人しかいないわけ」


「ふむふむ、それで?」


「そうしたら地面から真っ白いタコみたいな生き物が出てきたんだ。この時俺は確信したね、宇宙人に拐われたんだって」


「……ぷ、う、うん。それからどうなったの?」


「そのタコが言うには、おめでとうございます。あなたが我々が拐った百万人目の人です、なんて言うわけ。もうおめでたいのか不幸なのか分からなくなっちゃってさ」


 その瞬間、私は彼から顔をそむけた。こらえていた息をぷはっと吐き出して平静を務める。大丈夫、まだいける。

 改めて彼に向かって振り向く。


「で、その宇宙人にさらわれたあんたがどうしてこうやって帰ってこれたの?」


「それがさ、百万人記念として無事に返してあげる上で、あなたには何でも一つだけ願いを叶えてあげましょうって言われたの。そんな事言われるなんて思ってもなくて、なんて答えればいいか分からなくてさ、ちょっと保留でって言ったらこれくれて帰してくれたんだよ」


 そういって彼は一枚の紙を見せる。チラシの裏に下手くそな文字で「何でも願いを叶えてあげる券」と書かれていた。思わず私は右手の甲を彼の胸に叩きつける。


「そんな訳あるかい!」


「いや、マジなんだって。じゃあさ、この券使ってみてよ。絶対願いを叶えてくれるから!」


「はいはい、もう分かったわよ。もう行きましょ。遅れたんだから今日もデート代はあんた持ちね」


「マジかよー。今月ギリギリなんだけど」


 そう言いながら私達は街へ繰り出す。

 彼の途方もないいいわけ。それが私にとってたまらなく楽しくて仕方ないのだ。

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