飲み過ぎの言い訳を考える

野林緑里

第1話

 今日も飲み過ぎてしまった。


 しかもこんなに遅くなってしまった。


 このまま帰ったら、妻はなんと言うべきか?


 おそらく激怒するに違いない。


 良い言い訳はないものか?


 上司がどうしてもっていうから断りきれなくて飲みに行ったっていうのはどうか?


 いやいや、この言い訳は何度も使っている。


 この前なんて上司に確認まで取ろうとしたから無理だろう。


 行きつけの店にキープしていたお酒が期限切れでいますぐ飲まなければならなかったと言えばいいのか。


 いやいや、以前から店にキープするのはやめるように言われていた。


 ならば、どんな言い訳をすればベストなのだろうか。


 遅くなった理由は思い付く。


 というよりも実際に残業していたし、妻にはその旨を伝えていたから問題ない。


 遅くなったこと自体は咎められないだろう。



 やはり飲酒だ。


 飲酒。


 こんなに酒くさかったならば、「また飲んできたの!? いい加減にしてよね。子供が小さいんだから、やめてよ」と叱咤するに違いない。



 ならば、どうすればいい?


 言い訳を必死に考えていると目の前に妻が現れたではないか。



 どうしよう。


 どうしよう?



 なんと言い訳すればいいのやら。


 あーー、また怒られるーー!


 いや、もう怒っているよね。鬼の顔がそこにある。


 鬼の顔?


 いや違うか。


 今日は泣きそうな顔をしている。


 なぜ、そんな顔をするのだろうか。


「もう信じられないわ」


 妻が自分の顔を両手で隠す。



 なぜか嗚咽している。


 どうしたのだろうか?


 俺が首をかしげていると、妻が顔をあげた。


「あなたって本当にばかだわ。いくら飲むのが好きだからって、お酒飲んで運転するなんて……。お酒飲むのはいくらでも飲んでもいいわ。だけど、飲酒運転はしてほしくなかった」


 ごめん。


 ごめん。


 今度は飲酒運転なんてしないよ。だから泣かないでくれよ。



「なんとかいいなさいよ! 言い訳ぐらいしてよね。もういいわ。もうなんでも許してあげるから、戻ってきてよ!」



 本当?


 本当に許してくれるのか?


 よし、戻ってくる。


 戻って……



 もど……


 そのとき、俺は気づいてしまった。



 妻は目の前にいるのに、その視線が別の方向を向いていたのだ。


 俺が妻の視線の向こう側を向く。


 そこには俺の顔写真があった。


 そのまわりには花がかざられている。


 これはどういうことなのだろう?


 よくみるとここにいるのは妻だけではない。


 妻のそばには幼い息子の姿もある。


 上司もいるし、同期もいる。


 学生時代の友人。


 おれの両親や兄弟。


 皆、黒い服を纏っていた。


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飲み過ぎの言い訳を考える 野林緑里 @gswolf0718

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