砂時計の王子 〜episode of Nhoa〜

まこちー

序章

(このエピソードは『砂時計王子』本編を読んでからお楽しみください)


〜シャフマ歴 1001年〜

〜シャフマ王宮〜


「起きた……のか」

目を覚ますと、ベッドの上だった。

真っ白な部屋で、真っ白な服を着た人間が立っている。

「オハヨウ」

細い紫の瞳が印象的な男だ。真っ黒な髪を整えているし、唇には薄らと色がついている。

「随分待ったよ。あんたが目覚めるのをさ」

「あなたは、あたしを知っているの?」

男は首を横に振る。

「俺はあんたを知らない。名前も、顔も。分からないな」

「あたしは、ノア。あなたは……?」

「俺はアレストだ。名字は分からない」

「あ……」

ノアが目を見開く。自分もそうだ。名字が分からない。と、いうか下の名前以外のことが分からない。そもそも何故自分がここにいるかも。

「ここはどこ?」

「シャフマ王国の王宮らしい」

「らしいって……」

「俺にもよく分からないんだ。1年前に目が覚めてから、ずっとここに監禁されている。外に出てはいけないんだと」

「……」

アレストは王宮に閉じ込められているようだ。そして自分と同じく、記憶が無い。

「3ヶ月前に王宮の連中があんたを見つけて俺の部屋に運んできた。あんたが何者なのかは俺には分からない」

「聞かなかったの?知らない人が部屋で寝てるんだよ……」

「役人に何を聞いたって無駄だ。意思疎通ができないんだ」

「役人と話せないの?全員?」

「……ほとんど全員だね」

「じゃ、じゃあ外に出れば……王宮の外に出れば、話が通じる人はたくさんいるはず……」

「もちろん試したさ。何度だって脱走した。だが……」

アレストが小さく息をつく。


「だが、王宮の外には……人間がいないんだ」


「え?」


「何か大きな災害があったらしい。家も、店も、何もない」


「……俺は目を疑ったよ。一面が砂なんだ。全てが砂で埋め尽くされている」


「この王宮の外には、何もない」


「そ、そんな……こと……」

ノアは恐る恐る窓に近づいて外を見た。アレストの言う通り、ただ砂が広がるばかりだ。

「……ここにいれば生きられる。口のきけない役人が飯を持ってきてくれるからな」

「……」

「ノア。あんたがどういう人間かは分からないが、ここからは出ない方が身のためだぜ」

アレストはそう言って悲しそうに笑った。

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